「今際の国のアリス」謎の男に渡辺謙起用の理由 佐藤信介監督“不思議な巡り合わせ”明かす

山崎賢人(※「崎」は「たつさき」が正式表記)と土屋太鳳がダブル主演を務めるNetflixシリーズ「今際の国のアリス」シーズン3(配信中)では、事前に発表されていないキャラクターとして、謎の男が登場。配信直後にその男を渡辺謙が演じていることが公式で発表された。もともとシーズン3を制作する大きな理由が「ジョーカーの謎を描くこと」だったというが、佐藤信介監督がその謎に最も近い存在と思われるキャラクターに渡辺謙をキャスティングした理由、不思議な巡り合わせについて語った(※一部ネタバレあり。最終エピソードに触れています)。
本シリーズは、突如謎の世界“今際の国”に放り込まれたアリス(山崎)とウサギ(土屋太鳳)が、仲間とともに元の世界に戻るために命懸けの“げぇむ”に身を投じるさまを描くサバイバルアクション。シーズン3の舞台は、アリスとウサギが元の世界に戻ってから4年後。結婚して幸せに暮らしていた二人だったが、死後の世界を研究する男・リュウジ(賀来賢人)がウサギに接触したことから、ウサギが今際の国へ。アリスはウサギを取り戻すため、再び今際の国で“げぇむ”に身を投じることとなる。
最終エピソードに登場する謎の男は、原作では描かれないオリジナルキャラクター。イチから作り上げていくのは雲をつかむような作業だったという。
「彼が何者なのかわからないわけですから。それでも我々は確かに存在するかのように感じられるよう作り上げなければいけない。それはいつものことですが、どこかに答えがあると信じて一生懸命やるだけなんです」
~以下ネタバレを含みます~
渡辺が演じた謎の男はあご髭をたくわえ、山岳帽に全身黒のいで立ち。アリスにとあるゲームをもちかけ、選択を迫る。出演シーンはわずか10分と短いながら、強烈なインパクトを放つ。佐藤監督は、Netflix作品が世界に配信されることも視野に入れ、その意味でも『バットマン ビギンズ』『インセプション』『GODZILLA ゴジラ』など数々のハリウッド大作に出演してきた渡辺のキャスティングはベストだったと語る。
「謎の男のキャスティングは僕だけでなくプロデューサーも交えてかなり考えました。シーズン3を制作した大きな理由の一つが、一体ジョーカーとは何なのかを描くことです。重要な鍵を握っているかもしれない謎の人物が最後に現れるわけなんですけれども、それが腑に落ちる方でなければならない。彼はアリスに生と死についての話をしますが、その中でシリーズの締めくくりともなる言葉を紡ぐにふさわしい人。意外性、真打ち感もふくめ、謙さんのキャスティングはベストだったと思います」
出演が快諾されると、渡辺は謎の男のキャラクターづくりにおいてビジュアル面から積極的に取り組んだという。
「受け身ではなく、本当に細かいところからいろいろとアイデアを出してくださって、目が覚めるような思いでした。彼はどんな成りをしているんだろうというところから始まって。例えば指輪をはめるのかはめないのか、はめるのであればどの指にはめるのか。ネクタイはつけるのか、それはどんなタイプなのか。それから帽子をかぶるパターンも想定し、いくつかご用意していたところ、それを見た途端、こちらからお願いする間もなく謙さんが自ら“帽子はいいかもしれないね”とおっしゃって、“これかな、それともこっちかな”と試してくださって。そういった姿勢は衣装にとどまらず、セリフの「てにをは」に至るまで、撮影に入るギリギリまでやりとりさせていただきました。謙さんは“セッション”だとおっしゃっていましたが、いちスタッフと忌憚なく意見を交わすような感覚で、とても楽しかった。1シーンご一緒しただけでしたが、謙さんはクリエイターなんだなと思いました」
佐藤監督と渡辺は、監督と俳優としては初タッグとなるが、出会いは20年以上前に遡る。それは、2000年に公開された故・市川準監督の映画『ざわざわ下北沢』でのこと。佐藤監督は同作の脚本を手掛けており、打ち上げの場で渡辺と同席したという。
「『ざわざわ下北沢』では謙さんが警察から逃げ回っている謎の男を演じられていて、打ち上げに謙さんがいらっしゃっていて。3次会まで行った時に、なぜか僕とスタイリストの宮本まさ江さんと謙さんほか数人でバーで話す謎の機会に巡り合わせたんです。僕は当時29歳ぐらいで、緊張のあまり一言も発言できずひたすらうなずきまくって聞き役に回った記憶があるんですけど、それから数十年の時を経てご一緒して、再び“謎の男”をやっていただくことになるというのが感慨深くて。当時はまだ『ラスト サムライ』に出られる前でしたが、下北沢のバーで熱い演技論を話されていて“こんな熱い人なんだ”と。演技の細かいところまでこうすべきだといったふうに話されていたのが印象的でした。なので今回、謙さんと議論を交わすうちにその時のことを思い出しました。“そういえば謙さんはこうだったな”って。だからこそ、世界でいろいろな人たちと作品を作られているんだと思います」
そう渡辺との出会いを感慨深げに振り返る佐藤監督。今後、さらなるタッグを期待せずにいられない。(編集部・石井百合子)