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netgeek運営者、退職申し出た人に損害賠償を請求 実態を隠してきた秘密主義

誤報や曲解などが問題視されている「netgeek」。元ライターが取材に応じ、退職時に損害賠償を求められたことを証言した。

誇張や歪曲など事実と異なる記事を配信し、批判を浴びてきたニュースサイト「netgeek」。記事を書いていた元ライターが、BuzzFeed Newsの取材に応じた。

元ライターは運営者から運営実態を外に漏らさないように強く口止めされ、退職を申し出た際には「一方的な契約破棄」を理由に損害賠償を求められたという。

netgeekは記事が時に大手メディアを上回るほど拡散していたのに、運営元は非公開で取材などにも応じず、その実態はほとんど知られていなかった。

内情が知られていない背景には、こういった口どめもあったようだ。以下、元ライターの証言を見ていく。

Skype経由で面接、仕事の指示

BuzzFeed Newsに証言した元ライターは、関東に住む20代の男性(以下、Xさん)。netgeekのサイト上でライター募集の知らせを見かけ、応募したという。

「当時、バイラルメディアが盛り上がっていたので応募した。netgeekがどういうサイトかよく考えずに連絡した」と振り返る。

サイトの応募フォームから連絡すると、「編集長」を名乗る人物から返信があった。複数の関係者への取材から、この「編集長」がnetgeek運営者と見られる。

履歴書が送られ、それに記入するように言われた。履歴書を送ると、運営者とSkype経由で面接があった。

書面契約ないまま 運営者に関しては「口封じ」

面接や業務を巡るやりとりはすべてSkypeのメッセージや音声だった。Xさんは運営者に直接会ったことも顔を見たこともないという。「特に特徴がある声ではなく、冷静な感じで、淡々としていました」。

働くにあたり、業務委託や雇用などの契約書類はなく、Xさんが書類に捺印することもなかった。運営に関わる情報については「『なにかあったら訴えるから』と漏らさないよう強く言われました」。

ライターと会わず、契約書類も交わさない。秘密主義がここにも見て取れる。

拡散を狙った丁寧な指導

Skypeでの原稿のやりとりは丁寧だった。

「タイトルは読者が興味を持ってクリックするように文言を入れた方がいい」「文章はいい感じです」「画像が小さい」「この画像でアイキャッチを作るとFacebookでいいねがもらえる」

編集のポイントから、誤字の指摘、Facebookで拡散するための具体的なコツまで、一つの記事で何度もやりとりをしている。

ただ、自分たちで取材をして間違いのない文章を丁寧に書く、という指導ではない。ネットで話題になっているネタを、いかにまとめ直してネットで拡散させるかを狙ったものだ。

1日中働いても「0円」 辞めると告げるが…

BuzzFeed Newsが報じたように、netgeekには「編集ルール」というマニュアルが存在し、それをライターに配っていたという。2016年3月時のマニュアルには、記事の報酬制度についても書かれていた。

それによると、記事の公開2日後、記事下にあるFacebookのソーシャルボタンでシェア数をチェックして、報酬額を決めていた。シェア数に応じて報酬が変わり、500シェア未満の場合は0円。

(netgeekは、BuzzFeed Newsが質問状を送ったのちに掲載した記事で、このマニュアルは「かなり昔のもの」だが、本物であることは認めている)

「5万円を振り込んでください」損害賠償を求めるメールが

Xさんは振り返る。

「私の時は、1日2本がノルマでした。500シェアに届かなければ、1日中働いても無収入のときもあります。これならば普通のバイトをした方がいいですし、すぐに辞めることにしました」

退職を申し出ると、運営者からメールが来た。「契約を一方的に破棄をしたので、損害賠償を支払え」という内容だった。請求額は5万円だった。

以下が、netgeek側から送られてきたメールだ。送り元はnetgeekの運営企業と思われるメールアドレスになっていた。

Xさんは話す。

「脅迫だと思いました。払わないと訴えられると思い、怖かったです」

Xさんは弁護士に相談し、「払う必要はない」と助言された。「netgeek側が5万円の損害を受けたという主張の根拠が示されていない」「書面での契約を交わしておらず、中途解約などの条件が不明」というのが、その理由だった。

運営者からのメールでは「期日までに振込がなければ弁護士に一任し訴訟を起こします」とあったが、振り込まなくても、実際に訴訟を起こされることはなかった。

「続報止めるように」netgeek運営者からの反論

netgeekの運営実態についてBuzzFeedの記事にお答えします | netgeek https://t.co/CqEDN9AXXI

netgeekのツイート

BuzzFeed Newsが11月17日にnetgeekに関する記事を掲載し、「netgeekに関しては、この他も退職を申し出たスタッフに損害賠償を求めようとしたという証言などもあり、続報する」と記したところ、netgeekの運営者から記者にメールが寄せられた。

このメールによると、netgeekは数年前、クラウドソーシングサイトで外注ライターを雇おうとした。

そこで応募してきた複数の人に執筆を依頼したという。

うち一人は出版社に勤務している人だったという。

「研修を終えた後に仕事をこなさず、電話で催促されてようやく書き始めた」「確か2記事だけ書いた後に『今までの報酬はいらないので辞めたい』と言ってきたが、認めなかった」

「辞める場合は1ヶ月前に申し出ること事前に説明していた」のが理由だったという。

「それで口論になり、ここまでの状態になっているので一緒に仕事をするのは考えられないと伝え、損害賠償請求の旨を伝えた。この時点で10:0で相手のほうが悪いという認識」と、運営者はメールで説明した。

誰か別の人物と取り違えか

とはいえ、netgeek運営者がメールで述べてきたことと、BuzzFeed Newsの取材に応じた人の人物像は、大きく異なる。

まず、Xさんは、クラウドソーシングサイト経由ではなく、サイトの応募フォームから直接、応募したと語っている。

また、出版社で勤務したことはなく、そんな話を運営者にしたこともないという。

BuzzFeed Newsは、Xさんがnetgeekに提出した履歴書の原本を確認した。出版社に関する記述は、全く存在していなかった。

XさんはBuzzFeed Newsの再取材に「netgeekの運営者は、だれか別の人と私を取り違えているとしか思えない」と話した。

「不当な請求をした覚えはない」

BuzzFeed Newsは、netgeek運営者にこうした点を改めてメールで尋ねた。メールでのやりとりは、計4往復。なお、Xさんを保護するために、氏名や詳しい経歴を伝えることは避けた。

損害賠償請求に関するnetgeek運営者の返答は、次のようなものだった。

「そちらに情報提供された方の情報が一切ないので、(運営者が最初のメールで述べた請求相手とXさんが)同じ人なのか違う人なのか判断しようがありません。損害賠償請求の経緯はその方に聞けばいいのではないでしょうか」

「いずれにせよこれまで不当な請求をした覚えはありません。おそらくその方に落ち度があったのに、その部分を隠して(BuzzFeedに)情報提供したのではないでしょうか」

netgeekが記事の事前チェックを要求

やりとりの中で、運営者はBuzzFeed Newsに対し「(netgeekを巡る)記事には複数の間違いが含まれていた」として、記事を公開する前にチェックしたいと求めてきた。

ニュース記事は一般的に事前に取材対象に見せない。例外はロングインタビューなどで本人発言に誤りなどがないかなどを確認してもらう場合に限られる。

BuzzFeedは運営者に「事前チェックの求めには応じられない」と伝え、「承知した」との返答を得た。その上で、この記事を公開している。

なお、BuzzFeedは一連のやりとりのメールで、改めて対面したうえでの取材を依頼したが、これに対するnetgeek運営者からの回答はなかった。

netgeek相手取り集団訴訟へ 被害者の会に問い合わせ続々

ITコンサルタントの永江一石さんは11月19日、自身のブログでnetgeekに名誉毀損などの被害を受けたとして、集団訴訟を起こすことを発表した。

永江さんは集団訴訟に参加する被害者を募っており、すでに問い合わせが複数来ているという。


情報提供、問い合わせなどは記者のTwitter(@takumiharimaya)またはメール([email protected])などでご連絡ください。