咳止め薬で「音が半音下がって聞こえる」副作用? ネットでは過去に何度も話題に。
声優の小松未可子さんが、8月18日に服用する薬の少し変わった「副作用」をツイートし、話題になった。
小松さんが明かしたのは「音が半音下がって聞こえる」症状。だが、このような症状が薬の副作用として現れることは起こり得るのだろうか。
6月29日には「全音大生に拡散してほしい」とした別のツイートが4万回以上拡散されていた。その内容は以下のようなものだった。
病院で処方される「フラべリック」っていう咳止め薬、書かれてませんが副作用で「生活音も音楽も、全ての音程が半音下」に聴こえます。
フラベリック(主成分:リン酸ベンプロベリン)はファイザーが販売する咳止め薬で、風邪などの際に処方される。
ネット上には同様の症状を訴える複数の声が見られ、「トロンボーン吹きには怖い」「半音下がって聞こえるライブ嫌」などの懸念が広がっていた。
事実であれば意外な副作用だが、フラベリックについて、医療機関による注意喚起などは、ほとんど確認できない。
実際にこのような副作用はあるのか。BuzzFeed Japan Medicalは販売元のファイザーと医療団体を取材した。
実は販売元も認める副作用。頻度はかなり低いと予想されるが、注意しなければいけない人もいる。
結論から言うと、この副作用はファイザーも認めるものだ。フラベリックの添付文書には稀な副作用として“聴覚異常(音感の変化等)”とある。
この副作用が追加されたのは2006年7月。その際の文書では、国内で「音が半音低く聞こえる」などの報告が集まり、自主改訂に至ったと説明されている。
研究機関の調査で判明したものではなく、患者から報告されたもので、どのくらいの頻度で発生するのかは不明。
ファイザーの広報担当者は取材に対し、この副作用の存在を認めた上で「個々の薬の副作用については答える立場にない」として、詳細な回答はしなかった。
一方、全国の医療機関で構成される医療団体の全日本民医連が実施する「副作用モニター」には、フラベリックについて同様の報告がなされている。
同団体は約40年前から医薬品の副作用モニターや新薬評価をおこない、情報を集積・発信している。
同団体の薬剤委員会副委員長で管理薬剤師の東久保隆氏によれば、全日本民医連には、2011〜2016年に12例の報告があったという。
東久保氏の推計では、国内の年間のフラベリック使用者数はおよそ40万人。使用者に対しての報告数から考えると「頻度はかなり低いと考えられる」。
「そもそも、咳止め薬はたくさんあり、すべての医師がフラベリックを処方するわけではありません。そのため、この副作用を知らない医師も多いと思います」
「また、感じ方には個人差がある上、この薬を処方される患者さんはそもそも体調不良。なんとなく耳の調子が悪い、くらいで気づかないこともあるでしょう」
このような理由で、あまり知られておらず、気がつきにくい副作用。だが、日常生活に影響が出る人もいる。
「音楽家や音大生など、音に関わる仕事の人などには、“音が半音下がって聞こえる”というのは大きな問題になり得ます」
「一方で、医師にもこの副作用を知らない人もいる以上、このような方々は自衛をするしかありません」
多くの場合は服薬の中断で回復。音楽関係者はあらかじめ医師に伝えて「自衛」を。
同団体への報告では、フラベリックによる聴覚異常の副作用があったのは、ほとんど女性で、若い世代〜壮年期までの年齢構成だった。
服薬してから同日から翌日に音階が低く聞こえだし、服薬している間は持続。服薬の中止により、数日から最長2週間で回復したという。
ファイザーは、薬の副作用の可能性については「かかりつけの医師や、薬剤師に事前によく相談していただきたい」と回答。
東久保氏も、聴覚以上を引き起こす可能性のある医薬品について、以下のように注意喚起をした。
「医薬品による同様の聴覚異常は、他に抗てんかん薬のテグレトール(主成分:カルバマゼピン)などでも報告があります。ただし、医学的な原因は解明されていません」
「音楽関係者は、万が一のことも考えて、聴覚異常を引き起こす可能性のある医薬品については、処方を避けるように医師に伝えてください」