「ドロドロの血液を体外に取り出し、オゾンで洗浄してサラサラの血液に」
「究極のアンチエイジング」「疲労回復・スタミナ増強」
「がんやHIV、脳梗塞、アトピー、アルツハイマーなどにも効果がある」
――こんな効果をうたう「血液クレンジング」なる治療法を、著名な芸能人らがSNSでこぞって拡散している。
ネット上では「トンデモ医療」「危険なのでは?」と批判や疑問の声が殺到。一時は「血液クレンジング」がTwitterのトレンドにも入った。
各地の消費生活センターにも契約トラブルや「効果がない」と訴える声が寄せられており、専門家は「十分なエビデンスがあるとは言い難く、誇大宣伝だと考えます」と指摘している。
たかみな「身体の中をメンテ」
元AKB48の高橋みなみさんは昨年1月、InstagramやTwitterで「血液クレンジングと高濃度ビタミンCなどなど身体の中をメンテナンスしてきました」と報告した。
このクリニックのホームページによると、血液クレンジングは100mlの血液を採取し、医療用オゾンを血液に加えた後で体内に戻す治療法。
採取時にはどす黒い色をしていた血液が、オゾンと反応することで「一瞬で鮮やかな赤に変色」するという。
大きな文字で「究極のアンチエイジング」と銘打たれ、「治療の効果」という欄には、がんやHIV、アトピー、糖尿病、パーキンソン病、アルツハイマーなどの疾患への「効果が報告されています」と記載されている。
女優の仲里依紗さんも、2015年9月に同名のクリニックで血液クレンジングを受けたとTwitterに投稿している。
GENKING「頭と視界がスッキリ」
女優の田中律子さんやタレントのGENKINGさんは、銀座にある別のクリニックで血液クレンジングを受けたことをInstagramに投稿。
「細胞の若返りを促進してくれる」「自分メンテナンス、身体の内側からアンチエイジング」(田中さん)
「身体が本来持っている免疫力や抗酸化力を向上してくれるの!!」「体がポカポカしてきて、頭と視界がスッキリするの」(GENKINGさん)
などと綴った。また、このクリニックのInstagramアカウントは今年2月、山田まりやさんが来院し、血液クレンジングを受けたと投稿している。
海老蔵、ISSA、はあちゅうも
このほかにも、市川海老蔵さんやDA PUMPのISSAさん、城咲仁さん、はあちゅうさんら多くの著名人が、過去に血液クレンジングを受けたことをSNSやブログなどで明かしている。
特に、はあちゅうさんはブログ「はあちゅう主義。」で繰り返し紹介しており、「血液クレンジング」でサイト内検索をかけると、2012年1月から2013年4月の間に計46本の記事がヒットする。
最近になって改めて血液クレンジングが話題になったことを受け、はあちゅうさんは10月17日、Twitterで次のように釈明した。
《何年か前にフォロワーさんに医学的根拠がないと指摘を受けて記事など削除したつもりでしたが、何度もブログを引っ越しているので、過去ログ消し切れてないかも&ツイッターなどで消し忘れもあったようです。
私、当時、家族や友人まで連れて行ってました!》
《もしもニセ医療であるなら、お金を払って施術を受けているので被害者ではあるのですが、SNSに載せると被害者でありながら被害を拡大させているので、責任も感じますし、情報の発信や判断って本当に難しいですね》
【追記】新たに秋元康さんや見城徹さん、高橋克典さん、鈴木紗理奈さん、相川七瀬さん、元AKB48の高城亜樹さんらも、ネット上で血液クレンジングを紹介していたことが確認された。
契約トラブル「効果まったくない」の声
国民生活センターによると、各地の消費生活センターには、血液クレンジングをめぐってこんなトラブルの相談が寄せられている。
クリニックでダイエットを勧められ、6回分の血液クレンジングとビタミン剤の代金として約50万円分を支払った。「中途解約を申し込んだところ高額な違約金を請求された。納得できない」(2018年8月、山陰地方の50代女性)
ダイエット目的で1年間で12回の血液クレンジングを勧められ、20万円を支払った。「契約当日に1回、1週間後に2回の施術を受けたが、効果がまったくなかった。解約したい」(2018年7月、南関東の30代男性)
医師「エビデンスは不十分」
血液クレンジングには本当に効果があるのか。また、実施する医療機関や拡散する芸能人の責任をどう考えるべきか。
BuzzFeedは『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『医師が教える 最善の健康法』などの著書がある、医師の名取宏さんに見解を聞いた。
――血液クレンジングによる効果は見込めるのでしょうか?
健康な人が「血液クレンジング」を受けても、疲労回復やアンチエイジングといった効果は見込めません。
海外の医学論文を検索すると、自分の血液をいったん体外に出して、オゾンを注入した上で体に戻す「自己血オゾン療法」について、いくつかの疾患に対して効果があったとする研究は存在します。
しかし、エビデンスは不十分で、歴史が長いわりにはいまだに代替医療の一つという位置づけです。ましてや健康な人にプラスの効果があることは証明されていません。
日本において自費診療で行われている「血液クレンジング」はニセ医学だと私は考えます。多くのクリニックでうたわれている効果効能は十分なエビデンスがあるとは言い難く、誇大宣伝だと考えます。
「血液クレンジング」自体は以前からあり、定期的にバズっています。血液が鮮やかな赤色になりますので、InstagramなどのSNSと相性がいいのかもしれません。
高カリウム血症や心筋梗塞の例も
――リスクや副作用の心配は。
オゾンを注入した自己血を戻すだけなので、適切に管理されていれば、さほど大きなリスクがあるわけではないようです。
とはいえ、リスクはゼロではなく、自己血オゾン療法後に高カリウム血症や心筋梗塞が起きた事例が報告されています。
また、オゾン療法ではありませんが同じく自己血を用いた代替医療に関連してB型肝炎のアウトブレイクが発生した事例もあります。
「医師の責任は大きい」
――血液クレンジングを実施するクリニックや、それを広める芸能人の責任をどう考えますか。
国家資格を持つ医師の責任は大きいと考えます。さまざまな効果があるかのように誤認させ、しかも高額な対価を取ってエビデンスの乏しい医療を行うことは倫理的に問題があります。
拡散する芸能人についてはやむを得ない面があると思います。主流ではないとは言え複数の医師がすすめていますし、プラセボ効果もありますので、よい治療法だと誤認することもあるでしょう。
金銭的な対価を得た上でそれを隠して宣伝に加担するステルスマーケティングであれば問題ですが、そうではなく、無償で誤認に基づいて拡散すること自体は責められません。
芸能人に限らず、間違った情報を善意で拡散してしまうことは誰にでもあるでしょう。ただ、健康や病気に関する情報は拡散前に慎重になっていただければ、ありがたいです。
真の健康法は
――こうした「健康法」と向き合う際には、どんな点に注意すべきでしょうか。
健康な人がより健康になりたい、病気を予防したいと願うのは当然です。ただ、お金を払えば手軽に健康が得られるような方法はまず存在しません。
効果がはっきりした健康法は、適正体重の維持、適度な運動、バランスのよい食事、禁煙といった当たり前でつまらないものです。
効果が不明確な健康法にお金をつぎ込む前に、これらの当たり前の健康法を行うほうがお得だと思います。
病気の人は、まず、標準医療を受けてください。日本には国民皆保険制度があり、保険の範囲内でよい治療が受けられます。
医療は高価だからより価値があるとは限らず、むしろ効果が証明された医療は保険適用になりますので自己負担額は安くなります。
「血液クレンジング」といった自費診療の医療を受けるのは無理には止めませんが、ほとんどは効果があるかどうかすら不明確であることを承知の上で受けてください。私なら血液クレンジングは無料でも受けません。
日本酸化療法医学会「安全な治療」
一方、血液クレンジングを推進する日本酸化療法医学会の渡井健男会長は、BuzzFeedの取材に対して「年間7万人以上受けているが、この10年間、副作用の報告もない安全な治療。(科学的な根拠を示す)臨床試験は費用がかかるし、世間の『オゾンは危険』という思いこみがあるからできないだけだ」と回答した。
UPDATE
血液クレンジングを紹介している有名人として、秋元康さん、見城徹さん、高橋克典さん、鈴木紗理奈さん、相川七瀬さん、高城亜樹さんの名前を追記しました。
サムネイル:時事通信 / Instagram