避妊の失敗や性暴力による望まぬ妊娠を防ぐために事後に飲む「緊急避妊薬(アフターピル)」。
薬局での処方箋なしの販売が検討されているが、日本産婦人科医会(木下勝之会長)は10月21日に開かれた記者会見で、「どんな時も薬局で買えるようにするのはおかしい」と改めて反対意見を述べた。
緊急避妊薬については、当事者の女性がより早く薬を手に入れて確実に避妊できるように、産婦人科医有志や市民団体代表が与党議員に陳情したり、署名活動を行ったりしている。
その一方で、産婦人科医の団体が強固に反対している事実が明らかになった。
日本では医師の診察の上で処方箋が必要 なぜ市販薬化されないのか?
緊急避妊薬の薬局販売については、内閣府の第5次基本計画策定専門調査会が10月8日、基本的な考え方の案で、以下の文言を入れたとして、「処方箋なしでの薬局販売検討へ」という報道が相次いだ。
避妊をしなかった、又は、避妊手段が適切かつ十分でなかった結果、予期せぬ妊娠の可能性が生じた女性の求めに応じて、緊急避妊薬に関する専門の研修を受けた薬剤師が十分な説明の上で対面で服用させることを条件に、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討する。
性暴力や避妊の失敗で望まぬ妊娠の可能性がある場合、性交から72時間以内に緊急避妊薬を服用すると、高い確率で妊娠を避けることができる。
欧米など90か国以上で既に処方箋なしで薬局で買えるようになっているが、日本では、医師の診療を受けた上で処方箋を出されることが必要だ。
緊急性が高いのに、アクセスが悪いことに女性たちの不満が高まり、産婦人科医の有志や市民団体が署名活動や陳情活動を続けていた。
産婦人科医会「時期として早い」
今回の薬局販売の方針について、BuzzFeed Japan Medicalは、21日に開かれた記者懇談会の場で、日本産婦人科医会の見解を改めて質した。
木下会長は、「マスメディアの先行でこんなことがすぐに薬局で市販されるようなことになるとは一切思っていません」とした上で、この案について、「全ての女性の意見を代表しているわけではない」と批判した。
「緊急避妊薬はホルモン剤でいつでもいいから飲めば避妊ができると思ったら大間違いで、限られた時期に72時間以内に飲む。ホルモン的な理解が基本的にない方が次々に、いつでもいいからそこ(薬局)に行って買えばいいんだということは違う」と女性の知識不足を反対の理由に挙げた。
そして、「本来、いつ(妊娠の)チャンスがあったかということを踏まえた上で、こちらが指導しながら飲んでもらうのが大原則であり、本来1錠だけでいいのに何錠も買うことがあり得てしまう」とリスクがあるとした。
また、「今日の性教育が、中学生ではいわゆる性交や避妊という言葉すら使ってはいけない現状を考えると、私たちはただどんな時でも薬局で買えるということ自体がそもそもおかしい話なのではないか」と性教育の不備にも言及。
「では、我々のところになぜ来ないのかよくわからないのですが、医者のところ、産婦人科で基本的には手に入るわけです。これからオンライン診療で他の診療科に行っても、産婦人科に来なくても希望すれば処方箋があれば出してもらう仕組みができることから、薬局で自由に買えるわけには行きませんが、以前に比べたらチャンスは増えた」と購入のチャンスが広がったことを強調した。
その上で、「ダメだとか、規制があるわけではありませんので、なんでもかんでも自由に買えるようなものになるわけではないという視点で、私たちは(薬局販売は)まだ時期として早いと思って、基本的には賛成しておりません」と改めて薬局での処方箋なしでの販売に反対意見を述べた。
女性の性や生殖の自己決定権は?
しかし、女性には「リプロダクティブヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)という性に関する自己決定権があるという考えが今は世界の常識となっている。
WHO(世界保健機関)も「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性および少女には、緊急避妊にアクセスする権利がある」と勧告している。
女性自身の判断で、いつでもすぐに緊急避妊薬を手に入れる環境を整備するよう市民団体も訴え、産婦人科医有志の会のアンケートでも6割以上が処方箋なしで買えるようになることを求めていた。
こういう要望についても反対しているのか質したところ、木下会長は、「希望されることは構わないと思います。しかし薬局で買わなくても私どものところに来れば、本当に必要なら出します。薬局で自由にというのとは意味が違う」と回答。
女性による市民団体の要望活動については「その方達は非常に理解があって、いつでも手に入っても平気だと言っているかもしれないですけれども、全ての女性対象となった時には様々なレベルがありますから、それを国民のコンセンサス(合意)として出すにはまだ早いのではないか」と、女性側の知識の問題を強調した。
その上でこう述べた。
「今日、女性を守るという視点から申しますと、必ずしも自分たちの希望だけを通すということだけのために自由にするという発想自体は慎重であってもらいたいなと思います」
「真っ向から喧嘩するつもりはありませんけれども、ご意見は聞いておりますが、今申し上げた通りの視点であります。産婦人科医の中である者はそう思っているかもしれませんが、全体的には私どもはまだ早いのではないかということで対応したいと思っております」
薬局販売化求める産婦人科医「病院である必要はない」
一方、こうした見解に対し、産婦人科医有志グループの一人として多くの産婦人科医が薬局での処方箋なしでの販売を求めている調査結果を出した産婦人科専門医の太田寛さんは、緊急避妊薬で大事なこととして、
- なるべく早めに服用すること
- 妊娠の確率がゼロになるわけではないため、生理が遅れたら妊娠判定検査をする必要があることを知らせること
といい、何よりも大事なのは早く服用することだと強調する。その上で、こう訴える。
「全国の女性に対して産婦人科医だけでその環境を実現することは難しく、病院での処方と並行して薬局での販売をすることは何も問題はありません。副作用もほとんどない薬です」
「火がついてる現場があるのに、消火器がすぐに手に入らないような状況は改善する必要があります。
私の周囲のほとんどの産婦人科医は、緊急避妊ピルの市販化に賛成しています」
「診療するだけで手一杯なので、話を聞いて処方するだけの緊急避妊ピルについては、病院である必要はないと考えています。産婦人科医会がなぜ反対するのかわかりません。地方の産婦人科が少ないところでは、72時間以内に手に入れるなんて無理です」
やはり産婦人科医有志グループの一人、産婦人科専門医の宋美玄さんは、こうコメントした。
「男女共に性教育が不足している現状は私も問題視しています。ですが、そこでさらに避妊へのアクセスを制限することはリプロダクティブヘルス・ライツの重要な柱であるバースコントロールから遠ざけることとなり、最終目標が女性の健康や権利ではないのかなと感じてしまいます」
「緊急避妊は時間との戦いなのに、地域によっては産婦人科の医療機関へのアクセスが悪いところも多い。産婦人科医による処方を必須とすることが本当に女性のためになるのか総合的に考えてほしい。私たちは女性を指導する立場である前に、味方でなければならないと思います」