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こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。今日は、ChatGPTなどの生成AI登場の前と後で大きく変わった「求められるDX人材像」についてお話ししたいと思います。
「DX人材」という言葉が登場して5年ほど経ちますが、皆さんはどういう人材をイメージしますか。一般的には、
- デジタルツールの使い方を知っている人
- 作業をデジタルで効率化できる人
- データを使いこなして意思決定できる人
- プログラミングができる人
- AIを使いこなして課題解決できる人 など
を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。
例えば、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2021年に発行した「DX白書2023」によると、機械学習のモデルを作るエンジニアやデータを解析するデータサイエンティストなどが「企業に求められるDX人材」として定義付けられていたことが分かります。
出所:IPA『 DX白書2023 』
しかし、この定義が早くも変わってきているのです。なぜなら、生成AIの活用を前提に、企業が進めるべきDXの方法やあり方が大きく変わりつつあるからです。
過去2年で「DX人材」の定義が変わった
例えば、シリコンバレーで最も著名なアクセラレーターであるY Combinatorの創業者ポール・グレアム氏は約1年前の2023年6月に自身のツイッターで、
「あるプログラマーと話したが、彼はAIコーディング・ツールのおかげで生産性が10 倍ほど上がったと言っていた。このような生産性が当たり前になれば、80人のプログラマーが必要だったことが8人のプログラマーでできるようになる」(ポール・グレアム)
と述べています。
当時の発言からも、生成AIの台頭によりプロダクト開発のハードルが下がり、専門的なスキルがない人でも新しいことに挑戦できる環境が整いつつあることが分かります。同時に、「PDCAを高速で回せる」「新しいツールやスキルを短期間で習得して現場で使える」というように、柔軟性や順応性を持った人こそが、今後より求められるようになってきていると考えられます。
さらに、競争環境の変化に伴い、AIプロダクトの開発に必要なスキルも変わっていくことが考えられます。この点について、アメリカで著名なテック系ポッドキャスターであるswyx氏が自身のブログで発表した「AIエンジニアの台頭」という記事をご紹介します。こちらも公開は1年前です。
同記事では、ファウンデーションモデル(基盤モデル)の普及と性能の向上により新たに登場した「AIエンジニア」という役割について説明しています。
ここで言う「AIエンジニア」とは、従来のようなデータサイエンスや機械学習のタスクを主業務とするのではありません。AIツールの活用と製品化に焦点を当てた役割であり、ソフトウェアエンジニアリングとAIの橋渡しをする職種だと定義しています。
これにより、AIアプリケーションの開発がより迅速かつ安価になると指摘しています。
swyx氏は、「2013年には5年の歳月と研究チームを費やして成し遂げていたさまざまなAIタスクが、2023年にはAPIドキュメントと午後の空き時間だけで済むようになる」と述べ、APIを境に右側の仕事(プロダクト・ユーザー寄りの仕事)が増えると予測しています。もっとも、このAPIの境界線には透過性があり、AIエンジニアは左側にシフトしてモデルを微調整/ホストしたりもできるし、リサーチ・エンジニアは右側にシフトしてAPIの上にモデルを構築したりすることもできるとのことです。
出典:「The Rise of the AI Engineer」
これはどういう意味でしょうか。
前述の記事内にあるswyx氏のコメントによると、
「私が知っている全てのスタートアップは、何らかの #discuss-ai Slackチャンネルを持っている。 これらのチャンネルは、いずれ正式なチームへと変わっていくだろう。
会社での勤務時間であろうと、夜や週末であろうと、会社のSlackであろうと、Discordであろうと、AI APIやOSSモデルの製品化に取り組んでいる何千人ものソフトウェア・エンジニアがいる。彼らは今後プロフェッショナルとなり、AIエンジニアという肩書きに集約されるだろう。
彼らはAnthropicでプロンプトエンジニアリングをして年間30万ドルを稼ぎ、OpenAIで90万ドルのソフトウェアを構築している。彼らに共通しているのは、AIの進歩を取り入れ、事実上一夜にして何百万人もの人々に使われる実際の製品を形作ったということだ」
加えて、このようにAIを使ってプロダクトを開発する人々の中には、「博士号取得者は一人も見当たらない。 AIプロダクトの出荷に関しては、研究者ではなくエンジニアが必要なのだ」と述べています。
ここから分かることは、生成AIの進化に伴い、従来のデータサイエンティストや機械学習のエンジニア、研究寄りのエンジニアやリサーチャーなどとは異なり、AIをツールとして使いこなしインフラ設計ができ、かつプロダクト開発に落とし込める「AIエンジニア」(他によい名称がないことを指摘していますが)が登場しつつある、ということです。