撮影:三ツ村崇志 画像:ユーグレナ
バイオ燃料や健康食品を製造・販売するユーグレナが、5月中旬に発表した2024年12月期第1四半期で営業利益、純利益ともに突然「黒字化」した。株式市場もこれに反応し、決算翌日には、ユーグレナの株価は約5%上昇した。
ユーグレナといえば、長年取り組んできたバイオ燃料事業への投資やM&Aの影響で、長らく「赤字が当たり前」だった。この1月に新経営体制に移行したタイミングで、改めて「赤字体質からの脱却」を宣言していた。
まだ第1四半期が終わった段階とはいえ、当初「(連結での)黒字化は25年度」を目指すとしていた矢先の四半期単位での黒字化。この黒字は継続するのか。共同代表(Co-CEO)を務める若原智広氏がBusiness Insider Japanのインタビューに応じた。
黒字は実力か偶然か
ユーグレナの営業損益が黒字化したのは、四半期ベースでみても数年ぶりのことだ。
ユーグレナ決算説明資料より引用
—— まだ第1四半期分のみですが、営業利益も純利益も黒字化しました。
自分がCo-CEOになって一気に変わった……と言いたいところですが、そう都合よくはいきません。
広告宣伝費の未消化で上振れた側面があります。また、M&A(合併・買収)でグループが拡大していく中、販促費、資材の購買をグループで共有化するなどを、この1年ずっとやってきました。ユーグレナもキューサイも、物流費を中心に見直しています。全体トレンドとして(物流費に影響する通販の)販売比率も着実に下がっています。そこも効いています。
加えて、バイオ燃料の実証プラントの稼働を2024年1月に停止した分の費用もポジティブに効いています。
今回の決算は、そういった組み合わせの結果です。過去にも、あと少しで四半期ベースで黒字化する状況まで迫ったことはありました。
—— 広告投資抑制の要因は? 3月には、小林製薬の紅麹問題で、ユーグレナも販売している機能性表示食品全体に逆風もあったように思います。
小林製薬の件は3月後半に起きたことなので、第1四半期(1〜3月)への影響はほとんどありません。3〜4月で若干影響はありましたが、ほぼ沈静化しています。そこまでの影響はありませんでした。
どちらかというと、既存のクリエイティブのパフォーマンスの悪化や、広告の見直しなどをしたことで、広告投資が少し抑え気味になりました。加えて、良い話ではありませんが、絶好調だった化粧品ブランド「CONC」が欠品して、広告を打てなくなったことも影響しています。こういった影響で、1月に「貯金ができた」というイメージです。
横浜市鶴見区にあった、バイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント。2024年1月末に稼働を終了した。
画像:ユーグレナ
「赤字は仕方ない」からの脱却
—— 1月の通期決算説明会では、「赤字体質の脱却」を掲げました。この1〜2年で日本の株式市場の環境が変わってきたことも、経営判断に影響したのでしょうか。
そういうわけではありません。前CEOの永田が辞めた後のユーグレナをどう引っ張っていこうか考える中で、私が入社した当時は黒字だったことを思い出しました。当時は売り上げも伸びていて、利益も出ていて……。売上規模こそ50億円くらいでしたが、成長=赤字ではありませんでした。
新体制になって、対外的に「原点回帰」と「黒字化」を打ち出しました。加えて、社内には「カルチャーの変化」という話をしたんです。
—— どういったカルチャーを変えたいのでしょうか。
Co-CEOに就任する以前、私は財務担当でしたが、自分の中でも「投資先行で成長を目指しているので赤字は仕方ない」という甘えがありました。
ただ、「いつ営業黒字化するのか」という質問は、投資家やメディア、銀行から常に問われます。そこから逃げてはいけない。改めて、そこ(黒字化)が事業としてサステナブルになる第1歩だと考えた中で、Co-CEOの植村と話して会社として黒字化することが当たり前だという結論になりました。
いまは採用も抑えて、人が辞めたときにはグループ内で人員転換を考えるような当たり前のこともやり始めました。そういったことを僕と植村で引き締めて、社内でも黒字化という意識は高まったと思います
—— 第1四半期では黒字になったわけですが、通期ではどうでしょうか。
来年(2025年12月期)はおそらく大丈夫だろうという手応えはありますが、今年(2024年12月期)はもともと難しいと思っています。
社内リソースを効率化していく途中でもありますし、売り上げを伸ばすベースの投資は必要です。1月に買収したサティス製薬の連結インパクトもまだ見えないので、なんとも言えません。(サティス製薬の売り上げが連結される)第2四半期の決算で見直しをしていこうと思っています。
事業の「選択と集中」
2024年1月からユーグレナのCo-CEOを務める若原智広氏。それ以前は、ユーグレナの最高財務責任者(CFiO)を務めていた。
画像:ユーグレナ
—— 第1四半期には事業売却なども進めていました。この先も事業再編はあるのでしょうか。
可能性はあるとは思っています。そこはフラットに見ていくつもりです。まだ見切れていない事業や、最終判断まで様子をみる事業、すぐに辞められるわけではない事業など、いろいろあるので。
ユーグレナが築いてきたものが生かせる領域に力を入れていくべきだと思っているので、そこが一つの判断基準です。
お客様も投資家も、金融機関も、かつてみなさん「ミドリムシで何かをやろう」とユーグレナに興味を持ってくださっていたはずです。通販事業を営んでいる企業はたくさんありますが、僕らが勝てるところはどこなのか。やっぱりミドリムシなのだと思います。
—— とはいえ決算を見ると、ユーグレナ本体の主力であるヘルスケア事業の売り上げはほぼ横ばいです。結局、成長ドライバーはキューサイなどのM&Aに頼ることになるのでは。
まだまだ伸びが足りないのは間違いないです。
ただ、ユーグレナの通販はまだまだ伸びる余地があると思っています。でこぼこがあるのはOEMや流通(小売店での販売)の出荷タイミングの影響が大きいんです。第4四半期がかなり良かったので、第1四半期が落ちました。
いま、OEMや原料としてミドリムシを使った商品の新規開拓を頑張っているところです。
OEMの良いところは、いろいろな形で世に出ていくところです。接点が増えるので、今はもっと力を入れたい。
グループ全体のヘルスケア事業の売り上げ推移。売り上げの主軸となる直販では、キューサイを除くと横ばいに推移している。
ユーグレナ決算説明資料より引用
—— 既存商品を伸ばすというより、新しい商品群やOEMなどで成長するということですか。
両方です。素材として盛り上がっているからOEMも注目されて、ユーグレナの通販にも波及する、という構図です。全体として売り上げは維持したいですが、プラスにしていくかはパフォーマンス次第。横ばいでも利益を増やしていく、という優先順位です。
—— その場合、商品のポートフォリオもよりコスパの高い商品群に取捨選択していくことになるのでしょうか。
それはありえます。広告のパフォーマンスが悪いブランドは縮小や撤退を考えていくと思います。基準は単独ブランドとして黒字化できているか、でしょうか。
ブランド毎にPLのようなものがあるので、これまでの結果や、数字だけではなくそこから伸びる可能性があるのかも見ていきます。やり切ったから結果が出てないのか、やり切っていないから結果が出ていないのか、見極めたい。
いまは漫然とアクションしているケースも多い気がしています。目先の数字改革・営業改革は、Co-CEOの植村がリードして進めています。
—— そうなると、Co-CEO体制での若原さんの役割はどこに重きが置かれているのでしょうか。
26年の黒字化※の「先」です。
※ユーグレナは、バイオ燃料の商業プラントに頼らない形で、26年を目処にEBITDAの黒字化を目指している。
いまはマレーシアのバイオ燃料プラントのプロジェクトがありますが、あれも計画が固まれば完成まであとは作るだけです。それだけだと投資家の期待には応えられません。株式市場は「その先」に何があるのかを期待します。
やっぱり「ストーリー」をもっと考えないといけないと思っています。裏ではいろいろな文脈を考えているのですが、その広がりを具体的なプランとして出していきたい。
—— 現状、イメージはあるのでしょうか。
例えばですが、僕らも大元は「ミドリムシメーカー」でした。ミドリムメーカーとしてポジショニングしていくということはあるかもしれません。
個人的には代替肉に興味があって、一時期検討していたこともあります。あとは素材メーカーとして大きく伸びるために海外を目指すかということも選択肢です。あとは原料、エサの研究も昔からやっています。文脈はいろいろあるんです。
—— 確かに、国内のほかの素材メーカーを見ても、用途のバリエーションはさまざまですね。
味の素さんなんかは、もともと微生物でアミノ酸を作っていましたが、そこから派生していまでは半導体をやっていますよね。ああいうのをやりたいですよね。
実際ユーグレナから取れる素材の「パラレジン」からプラスチックを作れますし、荒唐無稽な話ではありません。もちろんコストや需要探索、浅略として正しいか、勝ち筋があるかは検証が必要ですが、僕はやっぱりそういうメーカーを目指したい。
株式市場を見ていても、ヘルスケア通販はうちも含めてみなさん苦戦しています。この先通販で伸ばしていくと言っても投資家もメディアもあまり聞くことがないんだろうなと。僕もしんどい。
研究で新しい素材が出たらすぐ売れるわけではありませんが、5年、10年後にどうありたいか。勝てるとしたらやっぱりこういう要素じゃないかと思っています。ミドリムシの生産コストはまだ高いですが、燃料、肥料、飼料用に安くできたら、また違う世界が見えてくるかもしれません。
報酬は株価連動。株主目線
—— 株式市場の話も出てきましたが、今回の決算後、株価も多少上昇しました。とはいえユーグレナの株価は上場以来の最低水準で推移しています。株主目線の経営が求められる中で、どう向き合っていくのでしょうか。
株主還元というより、株価を意識するようになりました。株主総会で私と植村に業績条件付きの株式が付与されました。その「条件」を株価にしたんです。3年以内に株価が1200円になれば50%、 1500円になれば100%行使できる条件で報酬が決まります。僕としては株価を上げるしかない。
※編集部注:ユーグレナの株価は6月7日段階で517円。
株価には、ボトムの価値とアップサイドの価値があると思うんです。
ヘルスケア事業を中心に黒字化することで、どれだけ株価が下がっても機関投資家が割安だと感じるボトムのラインがあるはずです。そこから株価を上げるためには、足元の実績とその先のストーリー両方が大事だと思います。
ですから、まずは26年度の黒字化を目指してしっかりやります。でも、その後がないと株価は低迷してしまいます。
これまでには、ストーリーで株価が上がりすぎてしまったこともあったと思いますが、そういう側面も必要だと思います。ではないと、ヘルスケア通販だけの会社になってしまいます。
もちろん期待だけ膨らませるのではなく、経営陣としてコミットできる戦略・ストーリーをしっかり作りたい。それを実現することが、一番の株主還元じゃないかなと思うんです。