銀行は日本における業種平均PBRが最も低く、0.44だ。
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2023年の経済バズワードの1つは、間違いなく「PBR(株価純資産倍率)」だっただろう。東証プライム市場に上場する企業の約半数がPBR1倍割れ、つまり「資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていない」として、東証が企業に強く改善を求めたからだ。
低PBR企業は、近年活発化している“アクティビスト銘柄”とも言える。
そんな中、東証が資本コストや株価の改善策を打ち出している企業リストを公開した。
東証の集計によると、プライム上場企業の49%、815社が開示していた(2023年12月末時点)。PBRが低く、時価総額が大きい企業ほど開示する傾向があったと言い、日本における業種平均PBRが最も低い「銀行業」では、94%が開示していた。
東証はリストは毎月更新し続けると公表しており、2024年もPBRは注目の指標となりそうだ。
PBRの目標値は業種ごとに設定すべき
提供:PwCコンサルティング合同会社
一方で気になるのが、今後も継続して「PBR1.0」を目標として掲げていくことが適切か? ということだ。
PBRの目標値は、(1)各業界ごとの事業構造の違いを踏まえて、業界別に定義されるべき(2)投資家の投資性向に用いられる点を踏まえて、グローバル平均値(業界横断では2.7、日本は1.4、米国は4.4)を目標値に設定すべき
だと指摘するのが、PwCコンサルティング執行役員パートナーの小林たくみ氏だ。
上の図の通り、PBR平均は業種によって大きく異なる。平均PBRが1.0を下回っている業種は6つあり、「銀行」「電気・水道・ガス」「エネルギー」「保険」「鉱物・基本素材」「自動車・自動車部品」がそれだ。
また海外に目を向けると、日本のPBRの低さは際立つ。欧米で平均PBRが1.0以下の業種はない。
鍵は「無形資産」、自社株買いは短期的
提供:PwCコンサルティング合同会社
日本企業のPBRの低さは、何が原因なのか。そしてどう改善していけばいいのか。小林氏は言う。
「日本企業のPBRの低さは、本業の収益性(稼ぐ力)の低さに加えて、研究開発や人材投資などの『無形資産』に対する過小投資が、低い成長期待に繋がっているとPwCでは考えています。
東証一部上場では、実質無借金経営の企業が65.5%にのぼります。間接金融依存度も減少し、担保能力や返済能力などの短期的な財務実績の重要性が低下していることを踏まえると、自社株買いなどの短期的な施策ではなく、無形資産を含めた中長期的な価値創造経営が必要でしょう」(小林氏)
土地や不動産、工場などの有形資産に対し、特許や商標権、R&D・人材への投資などを指す無形資産は、企業価値を高める要因として投資家から熱い視線が注がれている。
たとえば無形資産比率が高いことで知られるソニーグループのPBRは2.49倍、時価総額は18兆1806億円でトヨタに次ぐ2位だ(1月17日時点)。
しかし、企業価値に占める無形資産の割合はアメリカが8割超、ヨーロッパが7割なのに対し、日本は3割と低い。
「東証の発表に対して、投資家の今後の関心事項は『実効性と継続性の多寡』だと予見されます。
今後、企業に求められるアクションは、財務・非財務の連鎖や因果を可視化することに留まらず、各要素の相関関係と傾向を継続的・科学的に分析し、変化の検出やストーリーの見直しを継続的に実施(公表含む)することだと考えています」(小林氏)