地球温暖化が続けば、亜熱帯地方の層積雲はすべてなくなる。
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- ジオエンジニアリングとは、地球温暖化を抑えるために、地球の自然なサイクルを変えることができるとするテクノロジー。気候変動に対する有効な手段の1つとして急速に検討されるようになっている。
- 宇宙に鏡を設置、二酸化炭素を回収、粒子を使って雲を作るなどはすべて、気候や大気を操作する方法。
- だが、ジオエンジニアリングは地球にダメージを与えたり、戦争を引き起こすと考える科学者や政治家もいる。
海水の温度は観測史上、最も高くなっている。氷床はかつてないぺースで溶けている。海面の上昇は数えきれないほどの生物、沿岸都市、地域経済を脅かしている。
研究者が気候変動がおよぼす影響について警告を強めるにつれ、温室効果ガスの排出を抑えるだけでは足りないと指摘する科学者や政治家もいる ── 彼らは、気候をコントロールしようとしている。
それが、ジオエンジニアリングだ。
空想的なイメージが浮かんでくる。気候をコントロールする衛星、宇宙に浮かぶ巨大な鏡、炭素を吸収するチューブ。
だが、地球の大気を改善することは空想世界の話ではない。
実際、大気を操作して、地球温暖化を抑えるという議論は急速に主流になりつつある。クライムワークス(Climeworks)は大気中から二酸化炭素を回収する企業。2017年、スイスに商業プラント第1号をオープンした。シリコンバレー最大のスタートアップ・インキュベーター、Yコンビネーター(Y Combinator)は、ジオエンジニアリングに特化したスタートアップからの提案を求めている。
そして、大統領候補のアンドリュー・ヤン(Andrew Yang)をはじめ、アメリカはこうした技術で他国に負けてはならないと考える候補者もいる。
だが、こうしたアイデアを疑問視する専門家もいる。
「副作用が、対処しようとしている災害と同じくらいひどくなる可能性がある」と作家で環境活動家のビル・マッキベン(Bill McKibben)はBusiness Insiderに語った。マッキベンはさらに、ジオエンジニアリングは温室効果ガスの排出がもたらす他の問題(海洋の酸性化など)に対する効果はほとんどないと語った。
これまでに提案されているジオエンジニアリングの11の手法を見てみよう。
ジオエンジニアリングには大きく2タイプある。1つ目は二酸化炭素の回収。つまり、二酸化炭素を大気から取り除く。
上海の発電所の煙突から立ち上る煙。2009年12月5日。
Aly Song/Reuters
アメリカとカナダの発電所では既に二酸化炭素の回収・貯蔵(Carbon capture and storage:CCS)による排出量の削減に取り組んでいる。
すでに有望な炭素回収技術を開発している企業もある。
ノルウェーにあるガスノバ(GassNova)本社。2017年8月9日。
Lefteris Karagiannopoulos/Reuters
だが、炭素回収技術の最大の問題は、回収した二酸化炭素をどこに貯蔵するか。
アイスランドのネシャベトリル地熱発電所(Nesjavellir Geothermal Power Plant)。
Gretar Ívarsson/Wikimedia Commons
1つの方法は、回収された炭素を二酸化炭素を食べる藻やバクテリアの入ったコンテナに貯蔵すること。
チューブ状のバイオリアクターはCO2を食べる、すなわち固定化する緑藻類で満たされている。スペインのアンダルシア州。
Santiago Urquijo/Getty Images
回収した二酸化炭素を有用物質に変えようとしている企業もある。
クライムワークスの二酸化炭素回収施設。2017年7月18日。
Arnd Wiegmann/Reuters
ブループラネット(Blue Planet)は二酸化炭素を重炭酸塩に変え、建築材料を作っている。
サンフランシスコ国際空港。
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もう1つは、ソーラー・ジオエンジニアリング。太陽放射管理とも呼ばれる。成層圏に粒子を撒き、太陽光を反射させる。
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ソーラージオエンジニアリングのアイデアは、火山噴火の影響にインスピレーションを受けている。
キラウエア火山。2018年5月15日。
Mario Tama/Getty Images
火山噴火の影響は「成層圏エアロゾル散布」と呼ばれる技術で再現できる。成層圏にエアロゾルのような微細な反射性粒子を撒く。
NASA/Reuters
もちろん、鏡も太陽光を反射する。一部の科学者は宇宙に巨大な鏡を設置するアイデアを考案した。
SVF2/Getty Images
巻雲(大気圏の上部にあり、大地から熱を吸収する雲)を消す、あるいは薄くすることでも、熱を宇宙に送り返すことができる。
Aleksey Sagitov/Shutterstock
雲をコントロールする技術「クラウド・シーディング」はすでに使われている。気候変動に対する効果はあまり望めないが、いつでも、どこでも雨を降らせることができる。
ドイツ・フランクフルトを覆う黒い雲。2019年3月7日。
Michael Probst/Associated Press
雲ではなく、溶けつつある北極の氷を救う方法に取り組んでいる研究者もいる。氷床は太陽光を宇宙に反射する役割を担っている。つまり、氷が減ることは地球から放出される熱が減ることを意味する。
Jeremy Potter/NOAA OAR/OER
非営利団体のIce911は、微細なガラス粒を北極に撒き、氷の反射能力を高めようとしている。
グリーンランドの氷床は16年前の4倍の速さで溶けている。
Chasing Ice
溶けつつある氷を下から持ち上げる研究をしている人もいる。
パタゴニアの氷河は急速に溶けている。
Mario Tama/ Getty Images
これらのアイデアにとどまらず、SFのようなジオエンジニアリング戦略を検討している研究者や投資家もいる。
David Stanley/Flickr
特に面白いアイデアは、小惑星のちりで宇宙に雲を作り、太陽光を遮ろうというもの。
NASAのオサイリス・レックス(OSIRIS-REx)が約136キロメートル先に捉えた小惑星ベンヌ。2018年11月16日。
NASA/GSFC/University of Arizona
一般的に、繊細で複雑な地球の大気やそのサイクルに手を加えようというジオエンジニアリングは、どの計画や提案も大きな反対意見に直面している。
Wikimedia Commons
だが最近の研究は、他の地域に反動を与えずに大気に手を加えることは可能と主張する。
飛行機やドローンで少量のエアロゾルを大気中に撒くことができる。
Shutterstock
ただし、一部の科学者と政治家はすでに、ジオエンジニアリングが戦争を引き起こす可能性を指摘している。
Flickr/James Vaughan
「やるべきではない理由は27ある」とラトガース大学の環境科学の教授でジオエンジニアリングの専門家、アラン・ロボックは以前、Business Insiderに語った。
同氏は、悪意を持った国が全世界に影響をおよぼすようなプロジェクトの引き金を引く可能性を懸念している。ジオエンジニアリングが招いた他国との紛争が最終的に核戦争にエスカレートする可能性があると同氏は述べた。
大統領候補のアンドリュー・ヤンも同じような懸念を示した。もし中国が、世界的な取り組みのもとではなく、自国のみでジオエンジニアリングを行えば、最悪の結果になるとヤンは述べた。
※敬称略
(翻訳:Ito Yasuko、編集:増田隆幸)