「ぼくの1日を50円で売ります」。あるブロガーがネットショップで、自分自身の1日を50円で出品したところ、「日雇いバイトをして、その給料を自分の口座に振り込んで」と要求する人があらわれて、ネットで話題になった。
発端のブログを書いたのは、プロブロガーの宮森はやとさん。宮森さんは7月上旬、「ぼくの1日を使ってあなたの依頼に応えます」「1日を50円で売ります」とつづった。さらに、引越しや草むしりなどを例にあげながら、「依頼内容は本当になんでもOK」と説明し、個人がネットショップを開設できるサイト「BASE」で出品した。
そこに、日雇いバイトをして、その給料を自分の口座に振り込むよう求める依頼者があらわれた。この依頼者は「お金払ったんだからやって下さい」と求めていたが、宮森さんは「何でもするって言いましたけど、その言葉をそのまま受け取る人の知性にぼくは疑問を感じます」「一定の倫理はあります」などと拒否する姿勢を示した。
2人のやりとりはネット上で大きな話題になったが、宮森さんはその後、依頼者と話し合って、「返金と謝罪で和解になった」とツイッター上で報告した。そもそも、今回のケースは、契約として成立していたのだろうか。田村ゆかり弁護士に聞いた。
●「契約は成立していない」
「そもそも、契約は『申込み』と『承諾』という意思表示が合致した場合に成立します。
たとえば、八百屋で売られているリンゴについて、『1個100円で売りたい』という申込みに対して、客の『そのリンゴを1個100円で買います』という承諾があれば、契約成立となります」
田村弁護士はこのように切り出した。「自分の1日を50円で売りたい」というのは、申込みにあたるのだろうか。
「申込みではなく、他人を誘って申込みさせようとする意思表示『申込みの誘引』と考えられます。
たとえば、『この部屋を月5万円で貸したい』という不動産広告があるとします。
『この部屋を5万円で借りたい』という人があらわれたとしても、大家としては、家賃をきちんと払ってくれる人じゃないと貸したくないはずです。したがって、大家は承諾するかどうか決める自由を持っています。
この場合、『この部屋を5万円で貸したい』という広告が、申込みの誘引です。そして、『この部屋を5万円で借りたい』という意思表示が申込み、『あなたにこの部屋を月5万円で貸します』という意思表示が承諾となります。
今回のケースでいえば、『自分の1日を50円で売りたい』というのが申込みの誘引で、『1日50円支払うから日雇いバイトをしてその給料を自分の口座に振り込んでほしい』というのが申込みです。
それに対して、宮森さんは承諾しなかったので、たとえ入金が先にあったとしても、契約は成立していないことになります」
●「承諾」があったとしても…
そもそも、契約が成立すれば、どのような内容でも有効なのか。
「契約については、民法で規定をされています。
そして、契約の内容が強行法規(契約より優先される規定)や公序良俗に反していたり、実現不能だったり、確定しえないものであるならば、その契約は無効です(民法90、91条)。
たとえば、『自分の1日を50円で売ります』という申込みの誘引に対して、仮に『あなたの1日を50円で買うから人を殺して下さい』という申込みがあったとします。
万が一、承諾されたとしても、刑法という強行法規に反する内容ですので、契約は当然無効となります。
今回のように、日雇いバイトをして、その給料を支払うという内容の契約は強行法規違反等とは言えないため、契約が成立すれば有効でしょう」
田村弁護士はこのように述べていた。