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スギ薬局で「糖尿病薬混入」の調剤ミス、74歳女性が半年後に死亡…遺族が3850万円賠償求め提訴
左から提訴会見の遺族、都内のスギ薬局(裁判とは関係のない店舗です)。いずれも2024年8月28日弁護士ドットコム撮影

スギ薬局で「糖尿病薬混入」の調剤ミス、74歳女性が半年後に死亡…遺族が3850万円賠償求め提訴

都内在住の高齢女性が死亡したのは、薬局のミスで出された薬が原因だとして、女性の遺族は8月28日、全国にドラッグストアを展開するスギ薬局(本社:愛知県大府市)と従業員の薬剤師ら3人を相手取り、計約3850万円の損害賠償を求める裁判を東京地裁に起こした。

亡くなった東京都杉並区の田村マキさん(当時74)の遺族によると、スギ薬局側は調剤過誤の事実は認めているものの、死亡との因果関係については認めていないという。親会社のスギホールディングスは同日、弁護士ドットコムニュースの取材にも同様の考えを示した。

提訴後の記者会見で、田村さんの長男(40代)は「スギ薬局はミスで人が亡くなった事実に向き合ってほしい」と話した。

⚫︎処方された内服薬に誤りがあった

訴状によると、体が動きにくくなる持病があった田村さんは訪問診療を受けていた。2021年10月18日、医師から出された処方箋をスギ薬局の都内店舗に送り、この店で調剤された薬が担当者によって自宅に届けられた。

田村さんが処方された内服薬を毎食後に服用していたところ、11月14日になって体調が急変。一時は落ち着いたものの、翌15日になって意識不明となり、救急搬送された病院で低血糖脳症が疑われた。

搬送先の病院は、内服薬の中に「お薬手帳」に記載のない糖尿病薬があったことから、スギ薬局に照会をかけたところ、調剤に誤りがあることが判明したという。

女性の意識レベルはそのまま改善せず、およそ半年後の2022年5月2日に亡くなった。死亡時の死亡診断書には、直接の死因(心不全)の原因として「低血糖後脳症」と記載されている。

●前の患者の薬が機械に残っていた

訴状によると、錠剤を個包装するための機械に、田村さんの前に調剤した客の糖尿病薬が残っていたとされる。それを見過ごしたことから、田村さんの調剤の際に糖尿病薬を混入させ、さらにその後のチェック作業でもこれを見逃したという。

交渉の過程でスギ薬局側から遺族に提出されたという画像には、本来は2.5錠入っているべき包の中に、2錠多い4.5錠が入っている。

画像タイトル 交渉の過程でスギ薬局側から遺族に提出されたという画像

遺族側代理人によると、スギ薬局は、調剤過誤の事実については認めている。だが、 「チェックしたが見落とした」と説明しながらも、調剤過誤と死亡の因果関係は認めていないという。

一方、遺族側は「チェックしたら間違えるはずがなく、チェック自体が実施されていなかったのではないか」との疑いも払拭できていない。

遺族側代理人をつとめる柳原由以弁護士は「2年前の出来事で、交渉が続いたが、スギ薬局側は亡くなられたことの責任について公表することについて難色を示したこともあり、提訴となりました。スギ薬局には、ことの重さを受け止めてほしいと思います」と述べる。

遺族は、医師の処方には問題なかったが、処方通りに調剤されず、処方と異なる薬が出された結果、田村さんが死亡したとして、スギ薬局側の責任を問う考えだ。

⚫︎長男の無念「薬を飲まなければ亡くなることはなかった」

提訴後の記者会見で、田村さんの長男は「母が亡くなったことに関しては、無念の一言に尽きます。スギ薬局の薬を飲まなければ亡くなることはありませんでした」とつらい心持ちを語った。

当時はコロナ禍にあり、遺族はこれまで元気に会話をしていた女性といきなり会えなくなり、面会できないまま最期を迎えたという。

田村さんが意識を失った2日後の11月17日、長男はスギ薬局の担当者から電話で、調剤過誤の事実を伝えられたという。

謝罪したいとも伝えられたが、その後の会社側とのやりとりの中で、遺族側の希望に沿われるかたちでの謝罪は断られたのだという。

公での謝罪を望んでいた遺族に対して、スギ薬局側は保険での賠償には応じ、自社公式サイトで公表するといった対応の方針を示したとしている。

画像タイトル 遺族の代理人弁護士ら

長男によると、女性が亡くなって1年近く経って、スギ薬局の副社長から、健康を害したことについて「申し訳ありません」と書かれた書面が送られてきたという。長男は「母が死んだことについて謝罪することを避け、できる限りの責任逃れをしていると思いました」と憤る。

民事訴訟だけでなく、警視庁に業務上過失致死罪で刑事告訴もしており、すでに警察の捜査は終わっているという。

今回の提訴を受け、弁護士ドットコムニュースの取材に、スギホールディングスは、調剤過誤の事実を認め、「亡くなられた患者様のご冥福をお祈りします。ご遺族様にも深くお詫び申し上げます」と謝罪した。

一方で、調剤過誤と、その後の体調急変や死亡との因果関係については認めなかった。「亡くなられたことは認識しておりますが、因果関係については民事訴訟を含めてご遺族様に引き続き誠実に対応していきたい」(スギホールディングス)

また、スギホールディングスは8月28日、公式サイトに「調剤過誤事案に関する民事訴訟の提起につきまして」と題する声明を出した。

⚫︎スギホールディングスの声明全文

この度、弊社子会社のスギ薬局店舗において2021年10月に発生した調剤過誤事案(以 下「本件」といいます。)に関する民事訴訟が提起されました。弊社といたしましては、誠 実に対応してまいります。

本件は、誤調剤によるお薬を患者様が服用され、2022年5月にご逝去されたものです。スギ薬局グループとして、亡くなられた患者様のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、患者様のご家族様には、深くお詫び申し上げます。また、関係者の皆様にも多大なご迷惑とご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

調剤過誤事案の発生以降、速やかに調剤薬鑑査の指導を全店に再徹底するとともに、調剤室の環境整備、マニュアル遵守の再徹底、倫理・コンプライアンスに関する再教育に取り組み、再発防止に向けて取り組んでまいりました。

今後につきましても、調剤過誤を発生させることのないよう店舗管理を徹底し、引き続き再発防止に向けて取り組んでまいります。

患者様のご家族様、関係者の皆様に重ねて心よりお詫び申し上げます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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