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ホームレス減少、赤字続きのビッグイシュー「最終ゴールは会社がつぶれること」
「ビッグイシュー日本」代表の佐野章二さん

ホームレス減少、赤字続きのビッグイシュー「最終ゴールは会社がつぶれること」

なんらかの理由でホームレス状態になった人が、自立を目指して路上で販売する雑誌「ビッグイシュー」(月2回刊)。東京や大阪など都心部の駅前などを中心に、人通りの多い場所で売られている。

もともとは、イギリス発祥の雑誌で、日本版は2003年から、大阪にある「有限会社ビッグイシュー日本」が発行している。最盛期は1号あたり約3万部を売り上げていたが、現在は2万部を切った。ビッグイシュー社は昨年、一昨年度と2年つづけて赤字となっている。

部数減少の背景には、路上生活者の数が減ったことがある。同社代表をつとめる佐野章二さんは「赤字を解消したい」としながらも、「最終ゴールは、会社がつぶれることだ」と話す。一体どういうことなのか、佐野さんにインタビューで聞いた。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)

●1冊350円のうち180円が販売者の収入になる

――ビッグイシューの販売の仕組みはどうなっているのか?

1冊350円の売上のうち、半分以上の180円が販売者の収入になります。販売者には、まず最初に10冊を無料で提供します。それを販売すると、3500円になる。それを元手に、次回からは1冊170円で仕入れてもらう。そういう仕組みです。現在の販売者数は全国で113人、販売者1人あたり1号平均170〜200冊くらい売り、14年間では11億6394万円の収入を提供しました。

――どういう経緯で販売者になるのか?

「どうやったら売れるの?」と路上で聞かれた販売者が、会社まで連れてくるケースが多いです。これまで、全国のべ1728人が登録して、実際に販売者となった人のうち、189人が新しい仕事を見つけて住居も得ています。

――販売の仕事は大変か?

私たちは、いつ立つのか、いつ休憩するのか、いくら仕入れるのか、一切指示しません。本人に判断してもらっています。ただ、路上に立って売るのは、肉体的にとても大変です。なかなか買ってくれないので、精神的にもきつい。最近はなくなりましたが、かつては、嫌がらせにあって心が折れたというケースもありました。

――ビッグイシュー社の収益構造は?

雑誌の売上のほか、広告収入や単行本や文庫本の出版の収入もあります。日本版の立ち上げ直後は、雑誌の売上だけでしたが、少しずつ広告が増えてきましたが、今はネット広告の時代ですから、かなり厳しい状況です。経費は、販売・流通費が7割。残りで、取材費、人件費などを賄うので、黒字を出すのはなかなか難しい。

●販売者が減れば、部数も減る構造にある

――どうして部数が減ったのか?

その背景には、路上生活者が減ってきていることがあります。2003年にホームレス自立支援法ができて、厚労省が路上生活者の数を調査するようになりました。10年前の2007年には1万8564人だったのが、今年1月には5534人になっています。7割減ったわけです。この間、ビッグイシューの販売者数も160人から114人に減少しました。販売は、基本的にホームレスの人に独占してもらっているので、販売者が減れば部数も減るというわけです。

――ホームレスはなぜ減少したのか?

主に、生活保護です。いわゆる「水際排除作戦」もありましたが、リーマンショック(2008年)のときに、日比谷公園で派遣村の活動を行ったことで厚生労働省が通達を出し、路上生活者も生活保護の申請がやりやすくなりました。一方、私たちは、生活保護を受けている人の販売者登録を受け付けてはいません。

――赤字の状況をどうとらえているのか?

日本版をはじめたころ、「こんなん成功するはずない。100%失敗するわ」とボロカスに言われました。とくに活字メディアに関わっている人たちから厳しい意見がありました。「若者の活字離れが甚だしい」「路上販売は日本の文化にあわない」「誰もホームレスに近寄らない」と。それでも、「やってみんとわからんやん」という精神でチャレンジして、14年つづけてきたというわけです。

――赤字になっても、会社をつづける意味は?

私たちの活動は、ホームレスの人をなくすことが目的です。だから、最終ゴールは、ビッグイシュー社がつぶれること。ただ、現在でも、110人以上の販売者がいます。赤字になったからといって、すぐに彼らの仕事の場をつぶすわけにはいきません。

ホームレス問題の解決に挑戦して、その結果として、販売者が減り、販売冊数が減って、赤字が出てくる。私たちはこれを「ビッグイシューのジレンマ」と呼んでいますが、ホームレス支援の活動を進めた結果、ここ2年くらいで顕在化してきたのだと考えています。

――どう赤字を解消するのか?

1つ目は、路上以外でも売ること。路上販売は、販売者の独占事業としています。ただ、2年前から、販売者数が減ってきたので「読者から販売者から買えない」という苦情がくるようになりました。だから、販売者がいない市区町村地域限定で、通信販売による定期購読の制度をつくりました。

2つ目は、ビッグイシューの誌面を知ってもらう取り組みです。ビッグイシューのオンライン版をつくり、古いバックナンバーの記事なども掲載しています。また、14周年記念では、期間限定ですが、サイトで1冊まるごと無料ダウンロードできるようなこともしました。

3つ目は、まだ計画段階ではありますが、オンライン・ショップで収益をあげることも考えています。

●誰にも居場所と出番がある社会を目指す

――ホームレスをとりまく状況は変化しているのか?

若年化しています。20代、30代の若いホームレスの人は路上で寝ず、ネットカフェにいきます。そして、ネットカフェにいくお金もなければ、安全な路上だったり、24時間営業のファミレスなどで過ごします。彼らは厚生労働省の調査にカウントされていません。見えない若いホームレスが増えていて、その人たちが今どれくらいいるかわかりません。非常にこわいことだと思っています。

――今後はどんな活動をしていくのか?

現在、貧困は所得や収入で測られています。一方、私たちは、いろんな理由で社会から排除された人が貧困状態におちいりやすいと考えています。たとえば、シングル女性、派遣、パート・アルバイト、日雇い労働で生計をたてている単身者などです。

私たちは、社会的な排除をなくして、誰にでも居場所と出番がある社会を目指しています。これまでの活動から手応えも感じていますが、この価値観がほかの分野でも広がって、日本に住んでいるすべての市民と共有できるようにしたいです。そのために、経営採算的な赤字も解決して、何がなんでも成功モデルをつくりたいと模索、挑戦しています。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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