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「破産者マップ」の法的問題を徹底検証…公開情報でも転載が問題視される理由
現在は閉鎖している「破産者マップ」の画像

「破産者マップ」の法的問題を徹底検証…公開情報でも転載が問題視される理由

官報で公開された破産者情報(住所、氏名など)をGoogleマップで可視化した「破産者マップ」騒動。

各所から強い反発が起こり、運営者はツイッターで「結果的に多くの方にご迷惑をおかけしたことは大変申し訳ございませんでした」と謝罪し、サイトの閉鎖を発表した。

今回の「破産者マップ」は結局のところ、どのような法的な問題があったのだろうか。金田万作弁護士による詳細な解説をお届けしたい。

●官報の転載、不法行為が認められた裁判例の一方、許容された裁判例も

そもそも、官報にはどのような情報が掲載されているのか。

「官報とは、政府(内閣府)が出す、法律、政令、条約や公告等を掲載する印刷物で、法律、政令、条約等の公布を国民に広く知らせる役割があります。

発行日の官報は国立印刷局及び東京都官報販売所に掲示するほか、インターネットで配信したり、官報販売所で販売したりもしています。過去の分は図書館などで閲覧でき、インターネットでも『官報情報検索サービス』や『インターネット版官報』で、閲覧できます(一部有料)」

官報の情報は自由に転載しても問題ないのか。

「官報に掲載され、公開された情報でも、これを自由にインターネットなどで転載できるかどうかは別の問題です。

例えば、会社の登記では代表取締役の住所・氏名が登記事項とされ、誰でも、その登記事項証明書の交付を受ければ容易に知ることができ、インターネットでも『登記情報提供サービス』で閲覧可能です。

しかし、同じ情報(代表取締役の人の住所・氏名)をインターネットで公開したことについて、プライバシー侵害の不法行為を認めた裁判例もあります。

また、紙媒体の電話帳に掲載を承諾していても、インターネット上のウェブサイトにおいても公開することまで承諾したものではないとして、住所、電話番号、郵便番号をインターネット上のウェブサイトに掲載したことについて不法行為と認めた裁判例もあります。

一方、約6年前に会社とその代表者が破産したことが、ブログに掲載されたことについて、利害関係者や取引に入ろうとする者が正当に関心を持つべき公共の利害に関することで、官報や登記簿に掲載されて誰でも見ることができ、秘匿性が低い事項であるから、違法ではないとした裁判例もあるようですので、許容される場合もあります。

また、著作権の問題もあります。官報については、著作権の対象となりませんが(著作権法第13条2号及び3号)、インターネット版官報を利用していたとすると、編集著作物として著作権や利用規約(『ご利用に当たって』)にも注意が必要です」

●個人情報保護法違反と名誉毀損、プライバシー侵害

それでは、今回の破産者マップについてはどう考えればいいのか。

「まずは、個人情報保護法違反にあたると考えます。

『破産者マップ』の作成管理者は、住所・氏名などの個人情報の取得に際し、個人情報保護法18条1項に定める利用目的の公表等を行っていません。

また、『破産者マップ』の公開は、破産者の住所・氏名を地図上に表示しており、第三者への提供にあたりますが、本人(個人情報が掲載された人)の同意を得ておらず、同法23条1項各号の除外事由を満たさず、同条2項に定める個人情報保護委員会の届け出も行っておらず、そもそもオプトアウト(本人の求めに応じて提供を停止すること)の手続きについても、不必要な記載事項を求めるなどしており、適切でありません。

報道によると、今回は、個人情報保護委員会が同法41条に定める指導及び助言(行政指導)を行ったとのことですが、もし同法42条の勧告や命令を出して、従わない場合には罰則(6月以下の懲役又は30万円以下の罰金)も定められています」

個人情報保護法以外では、どう考えればいいのか。

「破産者の住所・氏名を地図上に表示して公開することが、民事上の名誉毀損やプライバシー侵害にあたる可能性もあります。

破産したという事実は一般的には社会的評価を下げうる事実であり、その公表は名誉毀損にあたりますし、その情報に加えて住所及び氏名についても公開されたくない情報でありプライバシー侵害も認められると考えます。

なお、破産したという事実は、与信に関してはともかく、一般的には本来はそこまでネガティブな情報として、世間に受け止められる必要はなく、むしろきちんと誠実に破産手続きを選択して経済的更生を図ったと受け止めてほしいです」

●破産の官報掲載、世間一般に知らしめるためではない

ただ、公開されている情報なので、許容される余地はないのか。

「先ほど説明した、会社とその代表者が破産したことをブログに掲載したことが違法ではないとした裁判例をどう考えるかですが、そもそも破産手続きにおいて、公告を官報に掲載してする(破産法10条1項)としたのは、多数の利害関係人の関与が想定され、破産手続の関係者に対する裁判の告知や書面の送付を速やかにかつ経済的に実施するためであって、世間一般に知らしめるためではないです。

しかも、破産法は破産開始決定を官報で公告していても(一切の関係人に対して当該裁判の告知があったものとみなすとなってはいるものの)、破産手続開始の決定があったことを知らなかった債権者を予定していて(破産法253条1項6号参照)、公告(官報掲載)によって、当然世間一般に周知されているという前提でもありません。

実際、そのような官報の破産情報を収集・把握しているのは金融機関や信用情報機関などの一部の事業者に限定されており、特に一定の期間が経過したものについては、誰でも見ることができる秘匿性が低い情報とはいえません。

しかも、利害関係者や取引に入ろうとする者であれば、正当に関心を持つべきといえますが、『破産者マップ』では、破産者の情報を地図上に可視化し、誰でも興味本位で見られるようにしており、特定の取引相手の情報を知ろうと調査してブログを見るという形態での利用ではなく、正当性・公益性も低いです。

したがって、この裁判例に関わらず、不法行為が成立する可能性が高いと考えます」

●犯罪でもない破産の事実は、より早く忘れられることを認めるべき

結局のところ、どういう教訓が残されたのか。

「破産法における破産者の免責は、誠実な破産者に対する特典として、破産手続において、破産財団から弁済できなかつた債務につき特定のものを除いて破産者の責任を免除し、破産者を更生させることを目的とする制度であり(昭和36年12月13日大法廷決定)、免責後も破産したという情報がずっとついて回るのは、元破産者の更生を妨げるものであり、少なくとも永久的にインターネットで公開されるというのは許されないと考えます。

前科前歴であっても『忘れられる権利』などにより削除が認められる余地もあることとの均衡でも、犯罪でもない破産の事実についてはより早く忘れられる(ネット上から削除される)ことを認めるべきです。

破産手続きについて、利害関係者への周知や画一的な取扱いからも官報への掲載などの公告は必要不可欠ですが、それが必要以上に拡散し、公開され続けられないように、官報の記載事項やインターネットを含めた官報の運用については、今後再考が必要でしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

金田 万作
金田 万作(かなだ まんさく)弁護士 笠井・金田法律事務所
第二東京弁護士会消費者問題対策委員会(電子情報部会・金融部会)に所属。投資被害やクレジット・リース関連など複数の消費者問題に関する弁護団・研究会に参加。ベネッセの情報漏えい事件では自ら原告となり訴訟提起するとともに弁護団も結成している。

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