TBS系の報道番組「news23」でインタビュー取材を受けた内部告発者の身元がばれて退職に追い込まれたとされる問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会(小町谷育子委員長)は1月11日、報道の取材源の秘匿という原則が損なわれたという放送倫理違反があったとの判断を決定し、公表した。
番組は昨年1月12日に放送。「農業協同組合」(JA)で職員が過大なノルマを課されているとして、職員が番組で内部告発した。インタビューに応じた複数の職員は匿名で、顔にぼかしが入り、音声も変換されていたものの、BPOには「誰かすぐ特定できた」との声が寄せられたという。
また、放送による身元を隠す措置が不十分だったとして、身元がばれたため退職に追い込まれたという報道が一部週刊誌でなされた。
委員会は昨年8月の審議入りで、放送に関わった「調査報道ユニット」の部長やメンバーら16人にヒアリングして放送の内容や経緯を検証した。
委員会の意見書によれば、放送局が果たすべき内部告発者への配慮が決定的に不足していた。インタビューを受けた職員から「使わないで」と依頼された映像まで放送してしまうという「重大な失策を犯している」などと指摘された。
また、意見書によれば、TBSは放送半年後にまとめた内部調査報告書(6月21日付)で「情報提供者の身元が特定される危機を招いた本件放送は、TBSの報道機関としての信頼を揺るがしたものといえる。周囲から疑われても本人が認めさえしなければ『身バレ』にならないという考えは、言うまでもなく誤りである」と結論づけ、再発防止策を作り実行しているという。
●内部告発、公益通報しようとする人に「二の足を踏ませてしまう」
なお、委員会は身バレが実際にあったかどうかではなく、あくまで身バレが起こるおそれが多い中で放送したことを問題視している。
委員長代行の高田昌幸教授
委員長代行の高田昌幸教授(東京都市大学メディア情報学部)は「今ほど調査報道が重要性がますます必要とされることはない」としたうえで、TBSの放送を「これから内部告発しようとする人に二の足を踏ませる」「痛恨の失策」と評価した。