「単にモザイクがかかっていないだけで、『わいせつ物』と認定されるのはおかしい。刑法175条1項は『表現の自由』を侵害して、違憲だ」。自分で撮影した無修正のアダルト動画をFC2コンテンツマーケットで販売したとして、罪に問われている男性が、こんな前代未聞の主張を展開して、刑事裁判の控訴審を戦おうとしている。
男性は、弁護士ドットコムニュースの取材に「『わいせつ』の基準は、時代に合わせて変えるべきだと思います。しかし、チャタレイ事件や四畳半襖の下張り事件の時代から同じままです。勝つのは難しいと思いますが、最高裁まで戦って、なんとか爪痕を残したいと考えています」と語る。
●海外の業者を通じて「無修正」を売るようになった
刑法175条1項で定められた「わいせつ電磁的記録送信頒布の罪」に問われているのは、都内在住の会社役員、大島さん(仮名)だ。
男性が男性器を露出して、女性がその性器を口に含む「口腔性交」のシーンを撮影した動画を販売していた。いわゆる「本番」のあるハメ撮りではないが、れっきとしたアダルト動画である。
「もともとアダルトビデオ(AV)を作りたいという夢を持っていて、しばらくAV流通関連の仕事に携わっていたんですが、そういう機会にめぐりあえず、やめて、別の仕事に就いていました。
数年前、知り合いの女性に頼んで、個人で楽しむ用にスマホで撮っていたところ、『最近、こういうの、売れるらしいよ』と言われて。それがきっかけとなり、ツイッターでモデルを募集して、見よう見まねで撮影して、モザイクをかけて、売るようになりました」
自分で撮影したアダルト動画を投稿・販売できるプラットフォームはFC2コンテンツマーケットくらいと言われる。大島さんの動画は「素人っぽさ」があったが、逆にウケたという。しかし、アメリカ合衆国にサーバがあるFC2で売られているのは、ほとんどが無修正。やがて伸び悩んだ。
そのことをモザイク業者にボヤいたところ、「逮捕されずに無修正を販売できる方法がある」と海外の代理店を紹介された。その代理店を通して、無修正を撮影・販売しはじめたところ、売上が伸びていった。
「モデル1人あたり10万〜15万で撮って、モザイクをかけず、ぱっと編集して、その日にサイトにあげちゃって。1本約3000円。それが一晩でだいたい300〜400くらい売れました。そのあともコロコロと売れつづけて、翌月にはお金が入りました」
●1審は「執行猶予付き」の有罪判決
しかし、警察が見逃してくれるわけではない。2021年11月、海外の代理店と共謀して、無修正動画を販売したとして、わいせつ電磁的記録等送信頒布の罪で逮捕された。無修正を撮りはじめてから、約1年半の歳月が経っていた。
「その日は、ちょうど撮影日でした。おそらく警察は、私のツイッターの動きを見て、狙ってきたと思うんですが、事務所に入ろうとしたところを10〜15人の警察官に囲まれて。その場で、逮捕令状を示されました。
それから『ちょっと待ってて』と言われて、30分くらい待っていると、『悪いけど、集まっちゃてるからね』と。警察官と一緒に階段を降りたところ、テレビ局4、5社が来ていました。レポーターに『今のお気持ちは?』なんて聞かれましたよ」
おそらく警察は大島さんのことをFC2関係者だと踏んでいたとみられる。巨大な売上のほか、海外への送金もすさまじい金額になっていたからだ。「日本にいるFC2の運営部隊だと思われたんですよ。だから、メディアもたくさん呼ばれていたんだと思います」。
捜査の端緒は、モデルたちのツイートだという。「FC2はログを出しませんから、(警察は)ツイッターで撮影者の募集をかけているモデルを何人も引っ張って、裏を取ってたんです。『地道な捜査』と言ってましたけど、本当に地味だと思いました」。
これらの証言もあったことから、「とてもやっていないとは言えない」と覚悟を決めて、事実に関してはすべて認めた。その後、起訴されて、今年3月、1審・東京地裁立川支部で懲役2年、罰金200万円、執行猶予3年の有罪判決を言い渡された。
●控訴審は「逆転のチャンス」と捉えている
しかし、控訴審は「逆転のチャンス」と捉えて、自分の動画は(1)わいせつ物にあたらない、(2)たとえ、わいせつ物にあたったとしても、刑法175条1項は「表現の自由」を侵害して、違憲である――と二段構えだ。
わいせつをめぐっては、最高裁の有名な判例が2つある。チャタレイ事件(昭和32年3月13日)と四畳半襖の下張り事件(昭和55年11月28日)だ。大島さんの控訴趣意書にも次のように取り上げられている。
「チャタレイ事件は、わいせつ該当性について、『徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう』とし、表現物がこれに該当するか否かの判断は裁判官の法的評価であり、その基準は一般社会において行われている良識すなわち社会通念であるとしている」
「四畳半襖の下張り事件も・・(中略)・・・その時代の健全な社会通念に照らして、それが『徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの』と言えるか否かを決すべきであるとして、文書の『わいせつ』該当性の考慮要素を示している」
現代のようなインターネット社会において、実際のところは、規制されている国内からも、自由に無修正が閲覧できるようになっている。社会通念はわからないが、少なくとも社会は激変しているといえるかもしれない。
「このような現代の社会構造を抜きにして、『性器露出』=規制すべきわいせつとするのは、その時代の健全な社会通念というものをまったく反映していないと言わざるを得ず、そのような解釈は最高裁の判例にも反する」(控訴趣意書)
●「モザイクをかけなかったから逮捕は、おかしい」
大島さんの逮捕・起訴事実となった無修正3本のうち2本で、女性は服を脱いでおらず、性器や胸部を露出していなかった。また残り1本も、女性の胸部は露出しているが、性器は露出していないというものだった。いずれも本番の性交シーンはない。
一方で、インターネットの検索サイトで「無修正」と入れて検索すれば、性器にモザイクの施されていない動画が表示される。また、大手動画サイトで「合法的」に販売されている動画であっても、性器の色・形状が容易に認識できる状態のものが簡単にみつかる。
「わいせつに関しては、かねてから思っていたことです。わいせつの基準が明確にされてない中で、警察のさじ加減一つで逮捕されてしまうのは、以前から疑問に思っていました。
そして、これだけインターネットが普及している中で、海外と比較して、日本だけそういう規制をすることが、はたして最適なのかどうか。あとは、表現の規制にかかる部分を刑法でやるべきかというところです。
ただし、無修正推進派と勘違いされたくはありません。モザイクかけなかったからといって、逮捕されるというのはおかしいのではないか、一つの表現として認められるべきではないかという主張なんです」
勝っても負けても、もう無修正は撮らないという大島さんの控訴審は、東京高裁で9月15日からはじまる。