同人販売サイト「DLsite」のユーザー資格を取り消されたとして、同人作家が運営会社「エイシス」(東京都千代田区)に約150万円の損害賠償を求めた裁判で、DLsite側は請求棄却をもとめている。
成人向け作品のモザイク処理をめぐるトラブルが発端で、前回、弁護士ドットコムニュースは裁判記録(訴状)などをもとに作家側の主張を報じた。今回は、DLsite側の詳しい言い分を採録する。
DLsiteは「原告のおこなった行為は到底許されるものではない」と批判している。(編集部・塚田賢慎)
(内容は5月23日閲覧時点の情報です)
● DLsiteへの不満をネットでぶちまけた
原告はDLsiteに販売者(サークル)として登録し、約150の作品を販売してきた同人作家だ。
【同人作家側の詳しい主張については、前回記事を参照】
2021年12月、作品『没落貴族の娘が触手姫に変わり果てるまで』を登録しようとした際に、性器などの隠蔽処理(モザイク処理)が不十分で無修正になっているとして、サイト側から修正を促されたことをめぐって、メールなどで不満を告げたり、担当者とのやりとりを「DLチャンネル」(会社が運営するネット掲示板)や自身のツイッターに投稿したりした。
すると、利用規約(取消処分当時の「DLsite利用規約」)に基づく禁止行為があったとして、2021年12月8日、ユーザー資格を取り消されることとなった。
これを不服として東京地裁に訴訟を起こした原告の主な主張はこのようなものだった。
・メールや掲示板への投稿は、事実を記載し、問題提起の意味合いもあり正当性がある。 ・利用規約に違反していないので、取消処分の有効性は認められない。
●DLsiteからの「反論」
ここからは、DLsite側の主張を準備書面や証拠から確認していく。
【主な主張】 ・メールや掲示板への投稿などが利用規約違反にあたる ・ユーザー資格の取消処分は適法
まず、原告が登録申請した作品は、全般にわたり、性器などが無修正となっていたという。そこで、スタッフはこのように連絡した。
・登録申請で「作品の修正を許可する」にチェックを入れたとしても、先ず修正をするのはサークル側。 ・「全体的にある程度十分な修正」を原告に頼んだ。
作品が再提出されたものの、修正がまだ不十分だとして拒絶されるというやり取りがあった。また、具体的なモザイク処理方法も示されたが、原告は従わず修正しなかったという。
●資格取消の根拠となる「規約違反」は何だったか?
DLsite側の準備書面によると、「逆切れ」した原告は「DLチャンネル」に次のような「虚偽事実」を投稿して一方的に運営を非難し、公然と会社の名誉・信用を毀損したという。
(1)原告が作品のモザイク処理をしていないのに処理をしているとの虚偽事実 (2)処理の具体的指示を受けたのに、サイトから連絡を受けていないという虚偽事実 (3)適切に修正していないのに、DLsite側に契約違反があるとの虚偽事実
さらに、自身のTwitterでスタッフの個人情報を違法に開示したり、「従業員を首にしろ」などと会社に「強要した」と主張している(弁護士ドットコムニュースが確認したところ、遅くとも今年4月26日までにアカウントは凍結されていた)。
また、「悪口雑言」のメールでDLsiteを脅し、隠蔽処理を「強要した」ともしている。
これらの行為が利用規約の禁止行為(20条6号)に該当し、ユーザー資格取消処分(21条4号・9条・10条)と判断されたとし、その処分は適法だと主張するものだ。
20条6号 DLsiteの運営を妨害する行為またはDLsiteの信用を失墜、毀損させる行為 21条 DLsiteの運営を妨害した場合(4号)、 本規約のいずれかに違反した場合(9条)、その他DLsiteがユーザーとして不適当と判断した場合(10号)
●わいせつ作品モザイク処理のDLsite自主規制ルール
DLsiteでは、コンプライアンスポリシーに基づき「性器があからさまに表現されている作品」のようなわいせつな作品の販売を禁じている。
そのような表現が確認された場合、「性器又は性器を連想する部位」「性器結合部位及び挿入部位」「アヌス結合部位及び挿入部位」への隠蔽処理がサークルに求められる。
「視覚的判断により細部が不明瞭になっていること」「性器全体にモザイク」などの処理基準が用意され、処理をする主体はサークル側であると説明された。
なお、作品の登録において、「サイトによる作品の修正を許可」かどうかを問われるのだが、ここで「許可する」にチェックを入れたサークルの作品で、修正が必要だとしても、その処理をすべきはまずサークル側であるという。
〈サークルがサイトにおいて「わいせつ物にわたる作品」「性器があからさまに表現されている作品」を販売することが禁止されていることに加え、作品の著作権がサークルに帰属するからである〉(準備書面による理由の説明)
原告もまた「作品の修正を許可する」にチェックを入れて、『没落貴族が〜』の登録申請をおこなっていた。
●修正は作家側が主体的にすることを原告は知っていたとの主張
ここで、原告は修正の指示について「従前と異なる対応を受けた」との物言いをしていたが、DLsite側によれば、2018年にはすでに同様のやりとりをしていたことから、こうした決まりを認識していたという。
なぜなら、原告は同年、作品「幼馴染が異世界の帝国で悪堕ち洗脳するまで」を登録しようとしたが、これもまた隠蔽処理がなされていなかったことで、事前審査を拒絶された。その際、DLsiteからサークル主体で処理しなければ登録されないことの説明を受けていたという。
そのため、このたびの『没落貴族〜』の件においても、「故意に処理をしなかった」と主張するものだ。
〈原告は、作品の隠蔽処理業務が、本件契約における原告側の義務だと認識しながら、故意にこれを履行せず、義務の履行を被告から丁寧に求められてもこれを拒絶し、被告を脅した上、被告に隠蔽処理業務を行うよう強要した〉
●処分の正当性・相当性
以上のことから、取消処分は相当であるとDLsiteは言うわけだ。なお、提訴の前に、原告はユーザー資格回復をもとめたが、DLsiteは断固として応じなかった。
〈原告の行った行為は到底許されるものではなく、ユーザー資格の回復を求めることはできないと考えたため、これに応じなかった〉
〈確信的に本件契約違反を犯した(中略)にもかかわらず、被告・従業員を罵倒し、被告・従業員の名誉・信用を毀損したこと、従業員に不法行為をしたこと、被告を脅し、義務なき行為を強要したこと等から、代理人の要求には応じられないと考え、これを拒否した〉(準備書面から)