取り調べ室に入る時に、警察官からスマートフォンを持ち込まないように言われたーー。警察で任意で取り調べを受けているという人が、弁護士ドットコムに相談を寄せました。
相談者は、取り調べ内容や調書に書かれていることを把握するために録音するつもりでいました。警察は「管理権」などと言ったそうですが、どういった法律から持ち込み禁止になっているかは言われませんでした。
被疑者がスマートフォンを持ち込んだり、取り調べを録音したりする行為を禁止する法律はあるのでしょうか。小笠原基也弁護士に聞きました。
●直接的な法律はない
スマホ持ち込みや取り調べの録音は、法律で禁止されている行為なのでしょうか。
「任意での取調にスマホや録音・録画機器を持ち込んではいけないという直接的な法律はありません。
他方で、警察署も公営の施設なので、施設の管理者には、施設としての本来的機能を発揮するために必要な一切の措置をとることができるとされており、『庁舎(施設)管理権』と呼ばれています」
被疑者にとって、取り調べを録音するメリットはありますか。
「取り調べ室やその付近においてスマホの使用や持ち込みを禁止することは、本来開示を予定していない捜査資料の画像が流出したり、他の被疑者や関係人が映り込んだりしてプライバシーを侵害することを防ぐなど、一定の合理性があるかもしれません。
しかし、我が国においては、(1)任意取調の全てが録音録画されていない、(2)弁護人の立会が法律に明記されていないため、捜査側がこれを認めない場合が多い、(3)任意取調といいつつ実質的には強制捜査と変わらない、などの問題があります。
そのため、取調を受ける側が、えん罪に陥ることがないように、スマホや録音・録画機器を持ち込むことは、自己防衛として有効な手段です。
実際に、被疑者が録音したことで、密室内の不当取調が裁判上明らかになった例もあります」
●持ち込み禁止は規則に定められているか?
では、被疑者はどうすれば良いのでしょうか。
「まず、そのような機器の持ち込み禁止が、取調官の恣意やその場限りの判断ではなく、庁舎管理規則などで決められているかどうかを確認しましょう。
決められているとすれば、禁止されている内容はどうなっているかを見ます。使用だけが禁止されているか、持ち込み事態が禁止されているか、禁止されている機器はスマホだけなのか、録音・録画機器全般なのか。
これらを確認して、その規制が間違いなく管理権者の庁舎管理権の行使なのかを明らかにする必要があります」
定めがなかった場合は、どうなりますか。
「もし、庁舎管理規則などの定めがなかったり、その定めが施設としての本来的機能を発揮するために必要な制限を超える不当なものである場合など、持ち込み禁止に納得できない場合は、代替措置を求めたり、そのような規制が行われている施設内での取調には任意には協力できないとするなどの対応をとることになります。
ただし、任意の取り調べを一切拒否しているととられると、『人質司法』がまかり通っている我が国においては、逮捕されてしまう危険性がありますので、具体的にどのような対応をとるかについては、弁護人と十分に打合せをした方がよいと思います」