メイ英首相、EU離脱協定めぐる下院採決を先送り 再協議

動画説明, 「本当にブレグジットを実施したいのか」 メイ英首相、議会に

テリーザ・メイ英首相は10日、11日に行われる予定だった欧州連合(EU)からの離脱協定をめぐる下院採決を先送りした。EUと内容の変更について再協議する意向を示している。

メイ首相は、ブレグジット(英国のEU離脱)協定を下院で採決しても「反対多数で承認されないだろう」と認めた。

一方で、英国・北アイルランドとアイルランドの国境をめぐる計画についてEUから「保証」はもらえるはずだと自信を示した。

11日にもオランダ・ハーグを訪れ、アンゲラ・メルケル独首相やオランダのマルク・ルッテ首相と、主にアイルランド国境の扱いについて協議する方針という。メイ首相はさらに、ブリュッセルで欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(大統領に相当)やジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長とも話し合う予定。

これに対してトゥスク議長は、EUの残り27加盟国は離脱協定を「再交渉」しないと言明している。

トゥスク氏は、EU各国首脳は13日にブリュッセルで行われる首脳会議で、「英国による離脱協定批准をどう促進するか」を喜んで協議すると述べる一方、北アイルランド国境をめぐるバックストップ(防御策)は協定に残すと示唆した。バックストップには多くの英保守党議員や、メイ首相と閣外協力している北アイルランドの民主統一党(DUP)が反対している。

ブリュッセルでは当初から13日にEU首脳会議が予定されていたが、トゥスク議長の報道官は、英国のこの状態を受けて「合意なしブレグジット」にどう備えるかを協議する会合を開くことになったと明らかにした。

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下院混乱

離脱協定に反対する議員が多いことは以前から明らかだったが、メイ政権はここ数日、11日の採決は実施すると強調していた。

採決先送りが発表されると、与野党双方から政府が議員に発言機会を与えないことへの批判があふれ、下院は怒りに包まれた。

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、メイ首相が「状況を制御できておらず」、議員を「軽視」していると非難。11日の議会で緊急討論することになった。

ジョン・バーコウ下院議長は、政府の対応は「残念なもの」だと話した。

労働党のロイド・ラッセル=モイル議員は、女王の権威を示す職杖(メイス)を議会から持ち出そうとしたため、議長に退出を言い渡された。職杖はラッセル=モイル議員を止めた議会職員によって元の位置に戻された。

また投票先送りの一報を受け、ポンドの対ドル相場は過去18カ月で最低を記録した。

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反対派の不満は

野党の労働党、スコットランド国民党(SNP)、自由民主党、ウェールズのプライド・カムリ、DUPに加え、何十人もの保守党議員が、離脱協定を投票で却下しようと計画していた。

保守党の造反議員とDUPは、北アイルランドのバックストップを批判していた。

これは英国とEUが、アイルランドと英国・北アイルランドの国境に管理体制を敷かない将来の関係がまとまらなかった場合に発動する関税協定。バックストップが施行された場合、英国はEUの承認なしでは関税協定から離脱できないとされている。

保守党議員は、バックストップが発動すれば北アイルランドと残りの英国の間に永続的な新しい規制障壁が生まれてしまうため、受け入れられないとしている。

メイ首相の主張は

メイ首相はいずれ離脱協定を投票にかけると約束したものの、現段階では否決されてしまうため、投票にかける理由がないと話した。

首相は議員らに対し、13日のEU首脳会議の前に各国首脳と話し、バックストップに関する議員らの「明らかな懸念」について話し合うと述べた。

さらに、「バックストップの全条項が民主的に合法だと保証する権限を下院に与えるため、新しい手段を考えていく」と話した。

メイ首相は、「バックストップは恒久的に続かないと保証する」責務を、議会が政府に課せられるようにしたいと述べた。

一方で、2度目の国民投票や合意なしブレグジットとなどの対案については、全て拒否した。

メイ首相は、自分が提示した離脱協定が「国境や金銭、法の制御権を私たちに与え、雇用や安全保障、そして連合を守る」と強調した。

「これは英国にとって正しい協定だ。私はこの議会が求める保証を(EUから)確保し、この協定を成立させ、英国民のために実施する。そのために、できることはなんでもする覚悟だ」

自由民主党の党首、サー・ビンス・ケーブルは首相に、EU首脳がバックストップを破棄する用意があるかどうかと質問した。メイ首相は、バックストップはあくまで一時的なものでなくてはならないという英下院の懸念を、EU首脳は承知していると答えた。

「話し合った欧州首脳の中には、議員たちが安心できるよう協議する用意がある人たちもいる」

採決はいつ

メイ首相は新たな採決時期について、EUとの協議がどれくらいかかるかによるとして明確な時期を述べなかった。

議員からはクリスマス前に採決すべきだという意見もあったが、最終的な期限は2019年1月21日だと述べるにとどまった。

その上で、2019年3月29日の離脱日は法律で決められており、政府はこの日を順守するために「努力している」と話した。

不信任案は提出されるのか

コービン労働党党首はかねて、11月の投票でメイ首相が敗北した場合は不信任案を提出し、総選挙に持ち込みたい考えを示していた。

今回の採決中止を受けてコービン氏は、メイ政権は「混沌(こんとん)」状態にあるとして、メイ首相の辞任を求めた。

一方で労働党は、SNPや自由民主党、一部の労働党議員らが11日に提出しようとしている不信任案への参加は拒否した。

労働党報道官は、「最も成功する確率が高いと我々が判断した時に、不信任案を提出する」と話している。

また、保守党のEU離脱派ジェイコブ・リース=モグ議員は声明で、メイ首相は「実施できない」離脱協定を投票にかけるだけの「気骨」を欠いていると批判。

「これでは国を統治していることにならない。ブレグジットを達成できず、ジェレミー・コービンに政権を奪われる危険がある。このままでは駄目だ。首相はしっかり統治するか、辞任するかのどちらかを選ぶべきだ」

リース=モグ議員はメイ首相に対する不信任案を提出するため、保守党議員に不信任動議を求める書簡を提出するよう求めている。

書簡を受け取る保守党・1922年委員会(保守党党首の不信任動議を扱う委員会)のグレアム・ブレイディー委員長は、怒っている議員もいれば「そわそわしている」議員もいると述べた上で、大半の議員は「不要な敗北を避けられたこと」を喜んでいると話した。

DUPのナイジェル・ドッズ副党首は、状況は「正直に言えば混乱を極めている」と話し、首相は北アイルランドに対して「限界」を越えたことに対する代償を支払っていると述べた。

ドッズ氏はメイ首相に、「離脱協定を変更して帰ってこなければ、投票で却下される」と念を押している。

DUPのアーリーン・フォスター党首は首相に電話で「バックストップはなくさないとならない」と話したと述べた。

EUの反応は

メイ首相の離脱協定はEUでは合意に至っているが、法制化するにはブレグジット期日までに英議会の承認が必要とされている。

メイ首相はまた、すでにEU首脳と離脱協定の再協議についても話している。再協議は当初、英政府もEUも否定していた。

欧州委員会のミナ・アンドレーヴァ報道官は、EUは離脱協定の再協議はしないと協調した。

「ユンケル委員長が言ったように、これが最高で唯一可能な協定だ」

動画説明, ユンケル欧州委員長、ブレグジット合意は再交渉の余地なし

(英語記事 May calls off MPs' vote on her Brexit deal)