2019年7月12日
資産家の多くは、いかに税金対策を講じながら子どもや孫に財産を相続させるかについて、頭を悩ませていることだろう。だが、世界屈指の大富豪の中には、あえて我が子には多くの財産を遺さない方針を示している人も少なくない。
マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏や、一代で巨額の財を成した投資家として世界的に知られているウォーレン・バフェット氏がその一例だ。いったい、彼らはどのようなポリシーに基づき、あえて子どもには資産の大半を相続させないと考えているのか ?
米国のフォーブス誌が2018年3月に発表した2018年版の世界長者番付においてゲイツ氏は2位に入り、その資産総額は900億ドル。ちなみに、1位はアマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏で、前年のトップであるゲイツ氏を抜いて初首位となった。
そして、3位に入ったのは840億ドルのバフェット氏。くしくも2位と3位の大富豪は、こうした莫大な資産の大半を寄附に充てる方針を掲げている。
ゲイツ氏には3人の子どもがいるが、彼らに遺すのはそれぞれ数億円相当ずつで、大半は慈善活動に充てようとしている。2008年にマイクロソフトの経営から退いたゲイツ氏は夫人とともに慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」を設立し、感染症やマラリア、結核の根絶、世界の貧困問題の解決などに私財を投じてきたが、そういった活動にいっそう注力していくということになる。
また、バフェット氏は今から30年以上も前に米国のフォーチュン誌の取材を受けて、「子どもには必要な財産だけを残し、資産の大半を慈善事業に寄付する」との意思を表明している。やはり、バフェット氏にも3人の子どもがいるが、資産を与えすぎるとむしろ身を滅ぼしかねないと危惧しての決断のようだ。
米国CNBCの報道によれば、バフェット氏はゲイツ夫妻とともに設立した寄付啓蒙活動団体「ギビング・プレッジ」に対して、存命中もしくは死後に自らの資産の99%を寄付する意向のようである。「必要十分なお金があれば子どもは何でもできると思えるが、ありすぎると何もできないと感じるだろう」という考えに基づいてのことだという。
ゲイツ氏とバフェット氏はこうした方針を貫く理由として挙げていないが、客観的な事実として、寄附に回せば相続税 (遺産税) がかからないという側面もある。日本とは違い、米国では相続財産を受け取る側ではなく、遺した人 (亡くなった人) に税金が課されるが、慈善団体に寄附した資産はその対象とはならない。
遺産税として徴収されて国庫に入ったお金の使い道を決めるのは米国政府だが、寄附に回せば課税を免れ、自らの意思 (慈善活動への投入) を全うできるわけだ。さらに、彼らの子どもたちがその意思を継いで財団の運営に参加すれば、社会に貢献したいという遺志が次代へと円滑に引き継がれていくことにもなるだろう。
もちろん、こうした思いはあくまで財産を遺す側が抱いているものであって、子どもたちが必ずしも同じ考えであるとは限らないこともある。現に、ソウルミュージックの大御所として知られた故ジェームス・ブラウン氏は1億ドルの遺産を恵まれない子どもの教育を支援する非営利団体「ジェームス・ブラウン・ファンデーション」に寄附した際、彼の6人の子どもはこれを不服として裁判所に申し立てを行った。
肝心なのは、財産を遺す側と受け継ぐ側がきちんと本音をぶつけ合い、あらかじめ生前に双方でコンセンサスを得ておくことだろう。この記事で紹介した事例もヒントの一つとして、それぞれの価値観や思いなどに基づきながら、家族の誰もが納得できる相続の在り方を検討していただきたい。
(提供:株式会社ZUU)