worldlikethis’s blog

中沢元紀さんとBLが好きです。

「向こう側に、もう俺の居場所はない」――「ひだまりが聴こえる」第二話感想②

ひだまりが聴こえる
「向こう側に、もう俺の居場所はない」
第二話感想②

 

 

 

第二話前半の記事はこちらです。

worldlikethis.hatenablog.com

 

 

感想(ネタバレあり)

前半では、航平の過去が語られていました。

そして現在へと話が戻ります。

ぜひ、最後までお付き合いいただけますとうれしいです。

それでは、どうぞ。

 

 

キャンパスへと歩いている航平の背後から「こ う へ い くん!」と元気よく太一が声をかけてきます。突然、肩を叩かれびっくりする航平。

 

「んっ? どうした?」

「いや…、いきなりだったから」

「えっ? 何度も呼んだじゃん」

「いや、うしろからだと聴こえづらいんっだよ」

「あっ、そうなんだ。じゃあ、今度から正面行ってから呼ぶわ」

 

なんてことはない会話のやりとり。

その中の一つとして、航平の難聴のことが当たり前にサラッと入っていることに感動しました。

自分がもし航平に、うしろからだと聴こえづらいと言われたら、あ……、と気遣って、どう言葉を返そうか考えてしまうと思うんですよね。

そういう態度を航平は瞬時に見抜きそうなので、余計に言葉に悩でしまって、距離が出来てしまいそう。

けれど、太一は自然に航平からの言葉を受け取って、返す。

太一があらためて、航平の難聴のことを気にしていない、もしかしたら語弊があるかもしれませんが、普通のこととして受け取っているんだなと思いました。

どう表現したらいいのか、いい例が思いつかないのですが、たとえば、趣味が読書みたいな感じと同列に航平の難聴を認識しているというか。

そんな印象を太一から感じます。

「自分と同じ普通の人」として航平のことを見ているんだなって。

だから、次の会話も躓くことなく自然と出てくる。

お弁当の話題に移って、今日もノートテイク頑張るぞと張りきっている太一を、元気いっぱいな太一を見て小さく笑みを漏らす航平。

すぐにお腹が空く太一は、アクティブに動いているから、基礎代謝も高そうだし、エネルギーもたくさん消費してるんだろうな。

 

 

哲学の講義を、隣に並びながら受けている二人。

それまでは、二人隣り合って並んでいなかったので、二人の関係が、距離が縮まっていることが窺えます。

真面目にノートをとる太一を、どこか興味深そうに見つめる航平。

 

「先生! ゆっくり、もうちょっとゆっくり話してください!」

 

よく通る大きな声で言う太一に、航平は驚いて周囲を気にするように見ます。

こういう仕草を見ると、航平は自分からはあまり積極的に質問はせず、静かに淡々とノートをとるタイプなのかな。

反して、太一は周りを気にせず、物怖じせず、自分の意見をまっすぐ伝えるタイプなんでしょうね。

性格の違いが顕著に表れていて面白い。

「早いです!」と室内に大きな声を響かせる太一に、シーッ!と指を立てる航平。

生徒たちの笑い声で、静かな雰囲気が一転、和やかになります。

 

 

そうして、太一が待ちに待ったお弁当タイム。

いただきます!とおいしそうにおかずを頬張る太一を横に、太一のノートを見る航平。

太一の字をうまく解読できません。

 

〈残念ながら、太一はノートテイカーとしては今一つだ〉

 

教授の言葉をリアルタイムで書き起こすことは、スピード感も求められるし、簡潔に言葉をまとめる必要もあるだろうし、そういうことを考えると、ノートテイクって難しそうですよね。

講習が必要なわけだ。

そんな、いかに効率よくノートをとるかという時に、イラスト(しかも三大偉人)を悠長に描いている太一はすごい(笑)

 

「うまっ! 最高! 幸せだなぁ。俺、こんなうまいもんばっか食っていいのかな? バチあたったりしねえよな?」

「バチ?」

  

太一の言葉に笑い声を上げる航平。

お弁当一つにこんなに感動して喜んでいる太一が面白そう。

 

「なんか、そこまで感動する?」

「するよ! だって、ホントにうまいんだから」

 

笑いが止まらない航平。

 

「あん?」

「あっ、いや、ごめんごめん」

「あっ! 笑ったとこ初めて見た」

「えっ?」

「おまえ、あんんまそういう顔しねえだろ。うん。やっぱ笑ったほうがいい感じだな」

 

そう言われた時の航平の表情。

うまく言葉に表せられないくらいいい表情をしています。

心の真ん中から喜びがこみ上げてきたような。

喜びが顔全体に広がっていくような。

このシーンをぜひ観てほしいです。必見です。

もしかしたら、久しぶりに家族以外の前で笑ったのかもしれません。

太一の言った言葉で初めて、自分が自然と笑っていたことに気づいたのかもしれません。

航平が笑顔を見せたこのシーン、視聴者である私も「あっ! 航平が笑った!」とうれしくなりました。すごく興奮しました。

太一が自分の気持ちを代弁してくれました。

本当に航平の笑顔は素敵。

 

 

体育の授業でバスケットボールをしている航平たち。

クラスメイトの手が当たって、補聴器が外れてしまいます。

それを拾い付け直す航平。

この時、髪を整えているようのも、髪で耳を隠しているようにも見えます。

補聴器を見せないようにしているのかな?

再開した試合で、手加減されます。

 

「おまえら、ちゃんと守れよ」

「あいつ、耳悪いんだろ」

「本気でやったらかいそうじゃない」

 

こういう場面でも、かわいそうと思われることに、「疎外感」を感じる。

独りで佇むという演出に、大人数でいても、いつも自分は独りなんだと、航平が感じていることが伝わります。

どこでも「かわいそう」だと思われる存在。

試合を抜けた航平の耳に隣のコートから声が聴こえてきます。

その声は、太一、ヨコ、ヤスでした。

三人は仲よさげげ、とても楽しそう。

そんな太一たちを、うらやましそうに観ている航平。

なんとも言えない表情をしています。

 

「おっ、航平!」と太一が呼びかけるものの、航平は体育館の外へと出て行きます。

太一の声が聴こえているのか、いないのかはわかりません。

聴こえたのに無視したのかもしれないし、単に気づかなかっただけかもしれない。

 

〈期待しちゃいけない。

太一も向こう側の住人なんだから。

俺が行けない場所にいて、そこに、仲間もいるんだ〉

 

 

自分にそう言い聞かせる航平。

その顔は強張っていて暗い。

これまでの太一とのやりとり、太一とともに過ごしてきた時間の中で、裏表のない太一の人柄に触れて、航平はそれまで固く閉ざしていた心のドアを開きかけていた。

太一なら「難聴」である航平を「難聴者」として特別視せず、「普通の人」と変わらぬ態度で接してくれるのではないか。

信じていいいかもしれない、と。

心のドアを開いてもいいと。

けれど、友だちと仲良くしている太一は、まぎれもない「普通の人」で、やはり「難聴者」である自分とは違う。

立っている場所がそもそも違う。

太一は向こう側、航平はこちら側。

どうやってもお互いの場所に行くことは叶わない。

どんなに望んでも。

太一と一緒にいて、自分も太一と一緒だと感じることができていたけれど、それは違っていた。

思い違いだった。

それを痛感して、開きかけていたドアを、航平は自ら閉じたように見えました。

これまでも、誰かやなにかに期待して、そのたびに失望して傷ついてきたのかもしれません。

だからこそ、期待しちゃいけない、という思いが航平には強くあるのかもしれません。

もうこれ以上期待して傷つきたくないから、と。

 

 

航平の中学時代は、朝、目が覚めた直後、部屋のカーテンは少し開いていて、光が室内に差し込んでいました。

けれど、現在は、ぴっしりとカーテンは閉じられています。

それはまるで、今の航平の心の状態を表しているよう。

その日は、涼子ママが寝坊をして、お弁当なしになりました。

キャンパス内を歩いていると、太一を見かけ、航平は声をかけようとします。

が、ヨコとヤスがあとからやって来て、太一と楽しげに話し始めました。

その光景を見つめる航平。

あの輪の中に「自分」は入っていけない。そう感じているような顔。

「太一たち」と「自分」は違うから。

そのことを思いだしたのかもしれません。

期待しちゃいけない。また失望することになる。傷つくことになる。

 

「おっ、航平」

 

目を逸らし、聴こえなかったように、まるで見知らぬ人のように、太一を無視して通り過ぎる航平。

 

〈太一が俺にかまうのは、見返りがあるからで…

それがないなら、一緒にいる理由はない〉

 

お弁当という見返りがなければ、太一にとって自分は価値はない。

そう思っているようです。

前半で明るかった航平の過去を知っているので、なんて自己肯定感が低くなってしまったんだろうと、とても悲しくなりました。

内側に閉じこもってしまっている航平を見ていると、胸が苦しくなります。

 

〈でも…〉

 

〈聴こえないのは、お前のせいじゃないだろ〉(太一の言葉が蘇る)

 

〈それでも、俺は…〉

 

裏表がなく、まっすぐな太一と過ごす時間は楽しい。

無意識に笑ってしまうほどに。

もし、太一が航平と一緒にいる理由がお弁当目当てだとしても、航平にとってはうれしかったに違いありません。

普通に自分に接してくれる人がいて。

なんの隔たりもなく一緒に過ごせて。

 

「航平!」

 

「今度から真正面言ってから呼ぶわ」と前に言っていたとおり、航平の前に回り込んでくる太一。

 

「おまえ、なんだよ、きのうから目合ったのに無視しやがって。傷つくだろうが」

 

航平が太一と距離を置こうとしていることを、気づいているかはわからないけれど、太一は自分のほうから航平のもとにやって来た。

「傷つくだろうが」と自分の気持ちをはっきりと相手に言える素直さ、強さ。

変にあれこれ考え込んで言葉を選んだりしない分、うそがない。

「聴こえないのは、お前のせいじゃないだろ」という言葉は、航平の心に深く響いたはず。

だから、期待しちゃうんですよね。

自分はけして「かわいそう」な存在じゃない。

太一と自分は同じだって。

そのことを太一と一緒にいると感じられる。

 

「おい。なんとか言えよ」

「でも…、今日、弁当持ってないよ」

「はあ? 弁当目当てじゃねえし」

 

タイミングよく太一のお腹が盛大に鳴ります(笑)

それまで張り詰めていた空気が一気に緩みます。

 

「あっ…。えっと…、聴こえた?」

「聴こえた」

「クッソ~、腹の虫め! やかましいっての! ほら、うるさい!」

 

お腹を叩く太一に、思わず笑みが零れる航平。

うそがない太一の言葉だから、弁当目当てじゃない、というのはきっと本当。

航平を追ってきてくれて、うれしかったと思います。

太一はいつもと変わっていない。距離を、壁を作っていたのは航平のほう。

距離を置き、壁を作った航平の態度に傷ついたという太一。そこで、自分の態度が相手を傷つけていたことに気づいたかもしれません。

いつも傷つくのは、自分ばかりだと思っていたかも。

 

「昼、まだなら一緒に食べる?」

 

航平が築いた壁を、太一はいとも簡単に突破してきて、航平の心のドアを開こうとする。

 

「えっ、いいの?」

「うん」

「じゃあ、なんにすっかな~。あっ、ラーメンとか食いてえな」

「太一、ラーメン好きなんだ」

「うん。あれ以来、食ってなかったし」

「あれ以来? あっ、ラーメン屋のバイトクビになったって…」

「うぅ…、思いだせんなって!」

「ごめん」

 

表情をほころばせる航平を見て、

 

「なんかうれしそうじゃん。いいことあった?」

「さあ、どうかな」

「うっしゃあ。今日、なにラーメンにしようかな。しょうゆとかどう?」

「しょうゆ好きなの?」

「うん、しょうゆ好き。行こう行こう」

 

このシーンで、太一が航平に、ラーメン屋のバイトをクビになったことを話したことと、一連の会話から、お互いの仲が徐々に深まっていく様子がわかりました。

 

 

ふたたび、バスケの授業。

以前は、独りだと感じていた航平ですが、太一、ヨコ、ヤスは航平に対等に接しています。

航平うれしいだろうなぁ。

一クラスメイトとして、他の人たちと試合をしている航平は生き生きしていてすごく楽しそう。

試合が終わり、水飲み場で水を飲んでいると、いきなり太一が水をかけてきます。

たぶん太一は、補聴器を濡らすのはよくないと頭にはなかったのかもしれません。そんなこと思いつきもしなかったかも。

遠慮なく航平に水をかける太一の姿に、あらためて、航平を特別扱いしていないんだなと思いました。

お互いに水をかけ合い、ずぶ濡れになりながらじゃれ合う二人がただただ微笑ましかった。

楽しそうな航平と太一の顔を観ていると、こちらまでうれしくなります。胸があったかくなります。

 

〈あの日、太一は俺に教えてくれたんだ

向こう側にも、俺の居場所はあるかもしれない〉

 

朝。

少し開いたカーテンから、朝陽が航平の部屋に差し込んでいます。

閉じていた航平の心のドアがふたたび開いていることを表しています。

久しぶりにカーテンを全開にする航平。

それは、文字通り、向こう側にも、自分の居場所はあるかもしれないという希望が見えたからではないでしょうか。

すっきりとした、晴れやかな笑顔を浮かべる航平。

久しぶりに全身に朝陽を浴びて、清々しい気持ちになったのではないでしょうか。

この航平の顔がとてもいいので、ぜひじっくりと観ていただきたいです。

 

ずっと周囲に壁を作り、自分の殻に閉じこもっていた航平。

太一と出会い、交流を深めていくうちに、ゆっりと外の世界へと踏み出していく様子が丁寧に描かれていました。

第三話では、どんなストーリーが展開されるのか楽しみです。

 

とても長くなってしまいました。

最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

それでは、また次回でお会いできますように。

Â