PISA(OECDの国際学力調査)で好成績を挙げ、イギリス・ピアソン社による世界の教育水準ランキング2012年で1位に選ばれるなど、教育大国として各国から熱い視線を注がれるフィンランド。同国では、日本の学習指導要領に相当する「コアカリキュラム」の改定が約10年ごとに行われ、就学前教育(プレスクール)から義務教育までの9年生(日本の中学3年生)までの教育現場では、2016年秋から国の新カリキュラムを導入。今年秋からは、保育園での改革も実施されている。
フィンランドの幼児教育に着目した前回に引き続き、今回は学ぶ意欲を助長する国家的な運動推進プログラムと小学校現場での活動を紹介。最終ページでは、サンニ・グラーン=ラーソネン教育大臣(34歳、1児の母)に今回の教育改革のポイントを聞いた。
体と筋肉を動かすことは、学習レベルの向上や学びに生かされる
学ぶ意欲や心身の健康を助長するための研究が進むフィンランドで、近年重視されているのが、「体を動かす活動」。2010年には、7~18歳を対象に児童の身体活動を向上することを目的とした運動促進プログラム「LIIKKUVA KOULU (Finnish Schools on the Move)」がスタート。宝くじの収益金と教育文化省の予算が本プログラムの主な財源に充てられ、現在80%以上の義務教育の学校が登録している。
北欧建築の巨匠アルヴァ・アアルトの生まれ故郷として知られるユヴァスキュラ市にある身体活動健康研究センター「LIKES」でスポーツ科学の研究を行うヘンナ・ハーパラさんは、「1日の起床時間のうちで子どもたちが座っている平均時間は、1時間あたり小学生で約37分、中学生で約45分。『小学生は起きている時間の半分以上、中学生は3/4の時間は座っている』ということが調査によって分かりました。また、座っている時間の47%は学校内で行われているという結果も。本プログラムでは、1回2時間以上座らないように推奨し、座っている時間を減らすことを目的としています」と解説する。
「立っているときには大腿筋が使われていますが、座っているときは全く使われません。どんなにプロフェッショナルなスポーツ選手であっても、座っている時間が長ければ健康を害するリスクがあります」とヘンナさん。学校生活における座学の時間を極力減らし体を動かすことで、教室内での態度が良くなり、課題への集中力、参加意欲を高めるなどのメリットが認められると解説する。
ヘンナさんが学習意欲の高い子どもたち(higher performers)と学習意欲が低い子どもたち(lower performers)を対象に行った研究によると、座っている状態から体を動かすことで、ともに脳が活発に動いている状態になることが分かった(下の写真)。一方、長時間座った状態の場合、学習意欲の高い子どもの脳は活発に活動していたが、学習意欲の低い子どもは脳が休んでしまったという。
「学力テストにおいても、テストの前に10~20分程度体を動かすことで学習意欲の高低を問わず結果が良くなり、記憶力や実行機能などへの良い影響が出た」というヘンナさん。
体を動かすための具体的なアプローチとして、本プログラムでは、休み時間や放課後の時間には外で遊び、テレビやスマホなどのメディア利用は1日2時間以内とすることを推奨。学校の授業では、座学を減らし、バランスボールを活用する、立ち机で授業を受ける、1コマの授業内容を十数分間隔に区切って変化をつける、屋外や森で授業を行うなどの様々な工夫をしている。決められた形で体を動かすのではなく、子どもたちの間で意思決定を行い、生徒参加型であることが特徴だ。