官民一体となって「子育てに優しい社会作り」に邁進する日本。多くの企業で、「子育て中の社員が働きやすい環境」を整備しようと余念がない。けれど、そんな“子育て至上主義”の中で、何となく疎外感のようなものを感じている女性もいるのでは?
「子育ては素晴らしい」「子供がいないのはかわいそう」。そんな社会の空気を感じて、「私って不幸かも……」と悩み続けている人だっているはずです。果たして本当に子供がいない人の末路は不幸なのか? 専門家に話を聞きました。(聞き手/日経ビジネス編集部デスク・鈴木信行)
キャリアコンサルタント/研修講師
1965 年生まれ。慶応義塾大学卒業後、大手通信会社に入社。その後、社会人向け教育機関で法人向け人材育成コンサルティングなどに従事し、2012 年から現職。フェイスブックページ「子どものいない人生を考える会」を運営。自らの不妊治療の失敗や、それに伴う仕事での挫折を契機に、キャリアコンサルタントとして独立。主に40 代以上の働く人を対象に年間200 人以上の相談に従事。子供を持たない立場からダイバーシティ実現のための研修などへの登壇や執筆活動も展開
——ひと昔前に比べれば、随分と多様な生き方を認めるようになった日本社会ですが、「子供がいないのは変」「かわいそう」という風潮は相変わらず根強く残っている、と感じる人も多いようです。
朝生:私は、若い頃の予想に反して、子供のいない人生を歩むことになり、「これからの生き方を考えたい」と思ったことから、フェイスブックページ「子どものいない人生を考える会」を開設し、運営しています。ゆるい運営なのに、予想以上にたくさんの方に読んでいただいていますが、寄せられた声から「幸せは子供がいてこそ」という価値観はいまだに根強い印象を受けます。
子供がいない人は「ダイバーシティの対象外」!
朝生:時に思いがけない場で、「子供がいるのが当たり前」という価値観に直面することがあります。2015年、ある団体が主催する「ダイバーシティ」をテーマにしたシンポジウムに参加したのですが、中身は完全に「子供を持つ女性を応援する会」でした。
主催者の最後の挨拶は「私たちは今後もダイバーシティの精神を推し進め、子供を持つ女性を応援していきます」というものでした。その宣言自体は素晴らしいとは思うものの、「あれ、子供を持たない人は対象外なのか」と、ちょっともやもやした気持ちになりました。「ダイバーシティというのは本来、子供を持つ人も持たない人も、多様性を互いに認め合っていこうという精神なのでは?」と。
——なるほど。
朝生:子供がいない理由は人それぞれです。パターン分けすると大体、次のようになります。子供を作らないと積極的に決めた人たち。欲しくないわけではなかったが、結果として授からなかった人たち。子供が欲しくて不妊治療などの努力を尽くしたにもかかわらずできなかった人たちです。私は2番目と3番目のミックスですね。
最後のグループの人の中には、治療の止め時に悩む人も少なくありません。医療技術の発達が、その悩みに拍車をかけます。不妊治療がなかなか成功せず、もう止めようと思っても、義理のお母さんに新しい方法を試したらと言われ続け、悩んでいる女性もいました。夫婦の問題なのに、女性側にそのプレッシャーがより強くなる傾向も見られます。
——そうかもしれません。
朝生:一方で、周囲から「なぜ子供を作らないの?」とあまりに言われるので、積極的に子供のいない人生を選んだにもかかわらず、「不妊治療したけどダメだった」ということにしている女性もいると聞きます。「私はかわいそうな人間です」というふりをすれば、周囲の“追及”も和らぐとのこと。
——今の雰囲気の中、「主体的に子供を作らなかった理由」などを語ろうものなら、そうでない人と議論になったり、説教されたりしそうですもんね。
朝生:子供を持つことへの意識は、女性の社会進出の進捗にも影響を受けています。男女雇用機会均等法(1986年施行)以前の世代は、出産後は退職して子育てに専念するのが一般的でした。育児休職が企業に定着し始めてから働き始めた若い世代では、「仕事と子育ての両立は当たり前」になりつつあります。
両者の中間に位置する均等法世代やその少し下の世代は、日本で初めて企業で活躍する女性像が喧伝された一方で、まだ育休が普及していなかったこともあり、仕事と子育ての選択に悩む人も多かったようです。その結果、「子供のない人生」を選択した人もいるわけですが、ほかの世代と比べて過渡期特有の肩身の狭さを感じることも多かったかもしれません。