SNS配信専用のドラマシリーズが登場。TikTokは新たな「テレビ」になる?

ドラマをテレビで放送したりストリーミングサービスで配信するのではなく、SNSを通じて世に出す試みが始まっている。TikTokやInstagram、YouTubeで短いエピソードを定期的に投稿するのだ。縦型で撮影されており、スマートフォンでも見やすい。
Three business people with serious expressions sitting at a desk
「Cobell Energy」より。Courtesy of Yellow Dot Studios

Netflix映画『ドント・ルック・アップ』の監督、アダム・マッケイ率いるスタジオ、Yellow Dot Studiosが手がける新シリーズが、“小さなスクリーン”に登場する。金持ちの一家が一大ビジネスを陥落させるという風刺たっぷりの内容だ。この作品の最大の特徴は、NetflixやHuluなどのサブスクサービスや映画館で見ることができない点にある。代わりに、TikTok、Instagram、YouTubeで配信されるのだ。

TikTokには、カタツムリの成分が入った化粧品を買ったほうがいいとか、もしくは商品を買うなというメッセージを発信するインフルエンサー、寝ている人、踊っている人、ノンストップでライブ配信をする人の動画が溢れている。これらに混ざって、TikTokの「レコメンド」ページにこの新番組、「Cobell Energy」もひょっこり出てくるかもしれない。「Cobell Energy」は、前述のソーシャルプラットフォームに、数分の短いエピソードが毎週投稿される仕組みになっている。縦型のアスペクト比で撮影されているため、モバイルで見やすい。

監督と脚本を務めるアリ・ケイガンによると、「Cobell Energy」にはテレビ向けの番組でシーン冒頭にある「エスタブリッシング・ショット」がない。エスタブリッシング・ショットとは、キャラクターの位置関係といった場面状況を視聴者に伝えるために挿入されるショットのこと。代わりに、ソーシャルプラットフォームに溢れる雑音をはねのける力をもつシーンやセリフが詰め込まれている。視聴者の心をいち早く掴むためにそうしているのだという。

「あらゆるコンテンツがこの流行に則っていて、使い捨てになっています。 見栄えや音が悪いものをつくってもいいと思う癖は、本当に簡単についてしまいます」とケイガンは言う。

「Cobell Energy」は、そのような安易な方向への流れを押し返そうとしている。しかし、同クオリティーのケーブルTV番組や配信シリーズとは異なり、ドラマの人気はTikTokやInstagramのアルゴリズムの気まぐれに左右されるだろう。

「直前に見た怒鳴り声の動画よりも、ユーザーが少し長く滞在してくれる可能性はあると思います」

テレビや映画の切り抜きがSNSでトレンドに

短編動画のストリーミングサービス「Quibi」を覚えているだろうか? 複数のトップ俳優が参加したにもかかわらず、2020年、その試みは失敗に終わった。しかし、テレビ番組や映画の切り抜きは、ここ1年TikTokで人気を博している。「コール ザ ミッドワイフ 〜ロンドン助産婦物語」「シカゴ・メッド」「セックス・アンド・ザ・シティ」そのほか数えきれないほどの無名の作品がしばしばタイムラインに登場する。パラマウント・ピクチャーズは10月、2004年のヒット作『ミーン・ガールズ』全話を1日限定で公開した。

しかし『ミーン・ガールズ』のTikTokアカウントとは異なり、こういった投稿はほとんどが匿名のアカウントにより無許可で転載されている。なかには、1つか2つの切り抜きをアップしてから別の作品に切り替えるような無秩序なものもあり、見ているユーザーは混乱してしまう。そして続きの投稿を見つけようと、コメント欄にヒントを探す。

この傾向から、多くの世帯がテレビを持たなくなって以降、Z世代が新たな方法でテレビ番組と出会っていることがわかる。調査会社Omdiaによると、2022年10月の時点で、TikTokは35歳以下のアメリカ人の間で2番目に人気のアプリだという。1番目はYouTube、3番目はNetflixだ。

エンターテインメント市場に特化した調査会社Hub Entertainment Researchが2022年に実施した調査では、13歳から24歳までの視聴者は、エンターテインメントのほぼ3分の1をスマートフォンから得ており、テレビからは少ないという結果が出た。

映画やテレビ番組を投稿するTikTokアカウントの多くは有料コンテンツを投稿しており、著作権法に違反している。だが、違法であっても、投稿がなければ「発掘」されなかったかもしれない作品が注目を浴びるきっかけをつくっている。

ソーシャルプラットフォームが映画制作へ踏み出すのは容易ではない。ユーザーの習慣やトレンドの変遷が早いにもかかわらず、既存の制作会社が作品を完成させるまでには時間がかかる。投稿が拡散されればメリットは大きいが、ヒットする保証はない。

「制作会社は、何ができるか慎重に試しているはずです」と、メイン大学でニューメディアを教えるジョン・イポリトは語る。

「しかし、機会や選択肢が豊富にあるわけではないことも認識していなければなりません。ソーシャルメディアのトレンドの移り変わりは早く、ハリウッドの制作会社が従来のやり方で合わせていくのは大変です」

ソーシャルメディアにコンテンツを配信するとなると、マネタイズという別の問題にもぶつかる。イエロー・ドット・スタジオは、気候変動をテーマに制作する非営利のスタジオだ。最高経営責任者であり、「Cobell Energy」の製作総指揮を務めたステイシー・ロバーツ=スティールは、同作を使った実験はスタジオのミッションに沿ったものだと説明する。ほかのスタジオにとっては、新たなリスクが登場したと言えるかもしれない。

ケイガンによると、「Cobell Energy」の構想を練ったのは5月。2カ月で脚本を書き上げ、わずか6日間で撮影された。高度にプロデュースされた作品にしては、かなり速いペースで制作された作品だ。ロバーツ=スティールは言う。

「世界は急速に変化しています。わたしたちがつくったり書いたりするのに1年かかっていたら、作品に世の中との関連性がなくなってしまうかもしれません」

「『Cobell Energy』は本格的なテレビ番組として見ることもできますが、この番組や制作の真の目的は、気候に関する物語を世に広めることです」

(WIRED US/Translation by Rikako Takahashi)

※『WIRED』によるTikTokの関連記事はこちら。


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