フェイスブックが「メタバース企業」になる前に、ザッカーバーグが対処すべきこと

仮想空間に注力するメタバース企業を目指し、社名を「Meta(メタ)」に変更したフェイスブック。未来像として示したメタバースを実現させるのであれば、まずは内部告発で明らかになった問題の数々に対処していく必要がある。フェイスブックの現在の社名が何であろうと、危機は終わっていない──。『WIRED』US版エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィによる考察。
Mark Zuckerberg
メタの創業者兼CEOのマーク・ザッカーバーグは、自分がつくりたい未来について語った。その“場所”で人々は働き、遊び、そしてつながりをもてる──そんな未来だ。PHOTOGRAPH BY META

マーク・ザッカーバーグが2021年10月末に「メタバース」のビジョン(彼はメタバースによってフェイスブック全体のブランド再生を進められると強く信じているようだ)を披露する前のことだ。彼は以前「フェイスブック」と呼ばれていた企業が、「精査や公の議論」の対象となっていることを簡潔に認めたことがある。だが、現在の危機の実体には触れようとしなかった。

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「わたしたちは創造するためにこの地球に生まれたのだと考えています」と、ザッカーバーグは語っている。「多くの人にとって、未来に集中するために現在ほどいいタイミングがあるでしょうか」

かくして仮想空間で開かれたカンファレンス「Facebook Connect」(彼の自宅で事前録画された映像が主に使われた)におけるザッカーバーグの基調講演は、未来に関するものとなった。そのタイミングがよかったのかどうかはわからない。「わたしがこの会社を経営する限りは、間違いなくそうしたことを追求していきます」と彼は続けた。

そして新社名であるメタの創業者兼最高経営責任者(CEO)になったばかりの人物は、自分が創造したい未来について熱弁をふるい始めた。その空間では、すべての人が人工的な世界で働いたり遊んだりし、社会交流に特に力を入れる。

そこまではいかなくても、現在の世界をデジタルの要素で飾りたてることにはなるだろう。そして、そうした要素の多くは有料で提供されるのだ。

その空間にもFacebookは存在する。だがFacebookやその仲間であるInstagramやWhatsAppが今後のメタという会社において占める割合は、半分にすぎない(その半分で30億人以上の顧客を抱え、毎四半期に数十億ドルの利益を生み出しているわけだが)。

もう半分が抱える顧客は数百万人にすぎず、会社全体から見れば規模も小さい。この部分は以前のハードウェア部門を再編したもので、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を専門とする。ザッカーバーグの会社にとっての最大の変化は、今後の計画に表れている。

解決しない問題

だが、ちょっと待ってほしい。かつて「フェイスブック」と呼ばれた会社(The Company Formerly Known As Facebook、略して「TCFKAF」と呼ぼう)は、会社をここまで連れてきた“乗り物”を改修しない限り、そうした計画を進めることはできないはずだ。フェイスブックの現在の社名が何であろうと、危機は終わっていない。

プロダクトマネージャーとして会社に幻滅したフランシス・ホーゲンが退職する際に持ち出した数千件の文書からは、毎日のように新たな事実が判明している。「The Facebook Papers(フェイスブック文書)」と呼ばれる一連の内部告発文書を要約すると、以下のような状況が見えてくる。

TCFKAFは大規模な調査を実施し、自社が社会に及ぼしている危害(10代の少女の心の健康から民主主義に至るまで、あらゆるものを脅かしていた)を記録に残していたにもかかわらず、積極的な対処をしていなかったのだ。同社の中心的な判断基準は成長とユーザーの維持にあり、そうした基準が安全性よりもしばしば優先されていた。

これまでザッカーバーグは長年にわたり、フェイスブックの信頼を取り戻すと約束してきている。だがフェイスブック文書は、信頼回復がまだ道半ばであることを示しており、彼のメタバース計画にも重大な影響を与えるだろう。なぜなら、顧客やパートナーの信頼がなければ、自身のビジョンを実現することはできないからだ。

「相互運用性」の意味

ここで「メタはメタバース空間の独占を目指しているのか」という問題について考えてみたい。

ザッカーバーグは、そのような目的はないと断言している。メタは独自のメタバースを構築しているのではなく、複数の企業に支えられたオープンな人工インフラのためのプロダクトや体験を生み出しているのだという。ユーザーの分身となるアバター(写真のようにリアルなものだろうが、頭がライオンであろうが)は複数のプラットフォームで機能する、というのだ。

そのようなビジョンの実現のためにメタが実際に交渉している大手企業の名をザッカーバーグが挙げていれば、そうした言葉にも説得力が出ていたはずである。実際に彼がそうした交渉に取り組んでいるという噂も耳にしたが、実現は簡単なことではない。シリコンヴァレーのトップ経営者の多くはザッカーバーグを信用していないし、一緒にビジネスをしたいとも思っていないのだ。

一方、そうした相互運用性を約束しておきながら、TCFKAFは基盤となるメタバース技術の開発を独自に進めている。オープンな複合現実プラットフォームの本格的な共同構築に参加するために、そうした開発を放棄するつもりはあるのだろうか? それとも「相互運用性」とは、ほかのユーザーがメタのビジョンに参加することを意味しているにすぎないのだろうか?

「メタバースの所有者にはなりたくない」というメッセージを世間に発信したかったのだとしても、数兆ドル規模の企業を「メタ」と改名すべきではなかった。ほのめかす程度にしておくべきだったのだ。

プライバシーや安全性の問題

スマートフォンのなかにあったネット上の活動を没入感のある人工空間へと移す場合には、プライバシーや安全性の問題も生じてくる。

ザッカーバーグの基調講演が始まってから1時間が過ぎようかというころ、TCFKAFの国際問題の責任者であるニック・クレッグが登場し、「メタは安全性確保のために懸命に取り組む」と語っていた。研究員がいま取り組んでいるので安心してほしい、というのだ。

その後、悪意ある人物がアバターを盗めないような防御体制を構築していくとの説明があった。アバターは究極の個人情報であり、それが盗まれるのは魂が失われるようなものだ。しかし、いま運営しているプラットフォームで数百万の偽アカウントを阻止できていない会社がそうしたことを約束しても、説得力があるだろうか?

メタバースへの移行は厄介な問題を大量に生み出すが、ザッカーバーグはそうした点に言及することはなく、スルーしていた。わたしたちはいま、偽情報の大問題に直面している。それにもかかわらず、服や不動産、そして自分自身に至るまですべてが情報で構成されるとなれば、いったい何が起きるのだろうか?

それに、世界に住む多くの人々が現実の基本的な商品を買うことすらできないのに、仮想商品の購入をベースとした完全に新しい経済の構築を正当化できるのだろうか?

複数の基調講演のなかでは、ターゲット広告をメタバースの資金源にするという話があった。しかし、そうした広告がアバターに照準を合わせた場合に、状況が悪化することはないのだろうか?

ザッカーバーグが取り組むべきこと

だが、誤解しないでほしい。わたしはフェイスブック、もといメタの技術的な活動は間違いなく素晴らしいと思っている。TCFKAFはシアトルやピッツバーグに優秀な技術者を擁しており、複合現実の本当に刺激的な科学の領域を押し広げている。

だが、そうした次世代の素晴らしい冒険を提供するのが信頼のおけない企業となれば、世界はそれを受け入れないだろう。ザッカーバーグは自ら手がけたソーシャルネットワークの見直しを図り、欠点を積極的かつ率直に修正することで問題を解決しなくてはならない。アバターを持ち出すのはそれからでもいいはずだ。

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