アマゾンは急増する「偽物」の対策を、ブランドに丸投げしようとしている

アマゾンが、急増する偽物の排除を目的としたプログラム「Project Zero」を発表した。Amazonで販売される製品のブランドにとっては偽物の申告と排除が容易になるが、アマゾンが労力を削減できる点で同社へのメリットが大きい。このプログラムによって、どこまで偽物や悪徳業者を排除することができるのか。
アマゾンは急増する「偽物」の対策を、ブランドに丸投げしようとしている
PHOTO: BILLY H.C. KWOK/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

わたしのルームメイトが昨年、Amazonでアップル純正品と思われるヘッドフォンを購入した。アップルが販売するものとまったく同じものに見えたが、実際は偽物だった。iPhoneに接続しても、何も聞こえなかったのだ。

こうした経験は偶然の出来事ではない。アップルは、充電ケーブルなどの同社アクセサリーの偽物をAmazonで販売したとして、ニューヨークの会社を2016年に訴えている。そして2018年4月には「The Atlantic」の記者が、アップルの「AirPods」の偽物をAmazonで注文することに成功している。

これはアップルに限ったことではない。Amazonにはびこる偽物は多くの会社にとって問題となってきたし、そのうち数社は不満を公にしてきた。そしてついにアマゾンは、ブランドがこういった怪しい商品群と戦いやすい方向に舵を切った。

アマゾンは2月28日(米国時間)、Amazonで販売される模倣品を減らすことを目的としたプログラム「Project Zero」を発表した。この取り組みには、セラー(出品者)がアマゾンの介入を必要とすることなく、偽物を自動的にはじく新しいツールが含まれている。

これまで、ブランドがアマゾンに調査・対処してもらうには、まず偽物の存在をアマゾンに届け出る必要があった。いまのところProject Zeroの利用は招待制だが、ブランドはウェイティングリストに登録することができる。

複雑だったAmazonでの偽物対応

「Amazonマーケットプレイス」で製品を販売するセラーは、250万以上にのぼる。こうしたセラーはAmazonに製品を出品する費用を支払い、さらには広告や発送、倉庫などの追加サーヴィスも購入できる。アマゾンも自社製品を販売しているが、2017年に顧客が購入した品物の半分以上は、これらのサードパーティのセラーから購入されている。

これらのセラーは、Amazonの検索結果で上位に入って「Amazon’s Choice(アマゾンズ・チョイス)」のような称号を獲得すべく、激しい競争を繰り広げている。またセラーは、価格を下げてきたり、製品リストの乗っ取りを試みたりする再販業者や偽物業者とも戦わなければならない。

サードパーティセラーがAmazonで自社製品の偽物に気づいたら、アマゾンの極めて複雑な規約やポリシーをたどり始めなくてはならない。例えばブランドは、問題となっている製品が本当に偽物かを確認するために、テスト用の製品を購入することをしばしば求められる。

アマゾンのシステムはときとして非常に複雑なものになり、サードパーティセラーが対処できるように支援する小規模なコンサルティング業界が生まれたほどである。Project Zero により、アマゾンはそのプロセスにおける自社の役割を減らし、合理化することを目指している。

「ブランドがいま取り組んでいることは非常に労働集約的で、アマゾン側の責任が高まっています」と、元アマゾン従業員で現在はAmazonセラーのためのコンサルティング会社を経営するクリス・マッケイブは話す。「これは再販業者とブランドの間で問題を直接解決させ、アマゾンの関与度を減らすための試みなのです」

偽物の供給元の解明が容易に

多くのサードパーティセラーは、アマゾンで自社製品を売っているわけではない。ほかの小売業者や卸から購入した製品を販売しているのだ。例えば、再販業者は実店舗で製品を安く購入し、それをAmazonで高値で販売したりする。

これらの業者は、「ファーストセール・ドクトリン」として知られる法則を巧みに利用しているのだと、Amazonセラーを顧客する弁護士のCJ.ローゼンバウムは語る。これはCDや本の再販を合法としている著作権法の一部である。

しかしProject Zeroにより、ブランドがこれらの再販業者を締め付けたり、そこに製品を供給しているのが誰かを解明することが容易になるかもしれない。

例えばアパレルブランドが、再販業者の販売リストから同ブランドのTシャツを取り除く場合を想像してみよう。再販業者が再度アマゾンに出品するには、アパレルブランドに対して製品が正規の供給業者から購入されたものであることを証明しなければならなくなるかもしれない。「供給業者はブランドとアマゾンの間で板挟みになるでしょう、これまでになかったような非常に興味深いかたちです」と、マッケイブは語る。

製品個別の番号で偽物を撃退

Project Zeroは、Amazonにおける偽物販売の抑制を図る取り組みの一環である。2016年にアマゾンは偽物を出品したとされるセラー数社を訴えた。それ以来、アマゾンはブランド登録プログラムのテコ入れも行ない、それによりいくつかのブランドが自社製品を「囲い込む」ことが可能になり、ほかのセラーが出品できないようになっている。アップルなどいくつかの企業は、認可再販業者にのみAmazonでの販売を許可するよう、アマゾンと合意を交わしている。

Project Zeroの一環としてアマゾンは、ブランドが製造する製品1点ごとに個別の製造者番号を振り当てることも可能にする。これにより、アマゾンがそれらの製品を販売するたびに正規の番号が添付されていることをチェックし、正規品であることを確認できる。アマゾンが呼ぶところの「製品消毒」プログラムは、しばしば高級ハンドバッグに付いてくる識別番号に類似したものである。

アマゾンの新しい偽物撃退ツールは、模倣品を扱おうとするセラーに素早く対処する手段をブランドにもたらす。ブランド側には支持されることだろう。Amazonユーザーが安い偽物を購入する機会も減るかもしれない。

アマゾンのメリットが大きい

しかしProject Zeroは偽物対策をブランド側に任せることで、アマゾンが労力を削減できる点で同社へのメリットが大きい。上訴のプロセスがセラーにとってどのようなものになるかは、まだ明らかではない。

Amazonにおけるブランドと偽物業者との戦いは、アマゾンが手を尽くしても続くと思われる。世界最大級のマーケットプレイスで模倣品を売りさばくことは、依然として魅力的である。数十億ドルが懸かっているのだから、なおさらだろう。


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TEXT BY LOUISE MATSAKIS