TwitterやFacebookは、もはや政治的に「中立」ではあり得ない

シリコンヴァレーの巨人は、ここ5年で「政治的な責任」が急速に膨らんでいることを痛感してきた。Twitterをテロリストが利用したり、大統領選の際にロシア人がFacebookでデマを拡散したりするなどの出来事が起きたが、管理者は中立を装い何も手を打たなかった。だがいま、自分たちのデジタル帝国をどのように統治するかを真剣に考えるときがやってきた。
TwitterやFacebookは、もはや政治的に「中立」ではあり得ない
TwitterとFacebookは言い訳をするのをやめて、社会全体の利益のためにプラットフォーム上のコンテンツを管理するべきだ。IMAGE BY CASEY CHIN

トランプ政権は2018年6月に、アメリカに亡命を希望する親子を別々に収容するやり方を中止すると発表した。生後数カ月の赤ちゃんまでも親と引き離すという冷酷なやり方に対して多くのアメリカ市民が怒り、大変な戦いの上に勝利をつかんだ。

国会議員へのロビー活動を続け、国土安全保障省との契約者によるショッキングな証言があり(子どもに対して、風呂代わりにキッチンの流しを使わせた)、引き離される親子の胸が痛くなる画像や映像が多く流された。つまり、大勢の活動家が行動した結果の勝利だったのだ。

活動家のなかには、国土安全保障省の組織である米国移民・関税執行局(ICE)の施設を閉鎖したり、トランプ政権の高官をレストランからつけ回したりした者もいた。

こうした努力を束ねたのはソーシャルメディア、はっきり言うとTwitterだった。

動きが早く、口の悪いこのプラットフォームを利用するアメリカ人は5人に1人しかいないが、現代のアメリカ政治の礎石になりつつある。Twitter上でジャーナリストは事実を集め、大統領が意見をつぶやく。ここにストーリーが集まり、勢いよく広まっていき、やがてここを離れて大きな流れとなる。また、ここは戦場の様相を日に日に強くしている。

ハッシュタグがついた意見の分かれる問題の白黒をつけようと、それぞれの陣営に人が集まり、「戦争」をくり広げるのだ。

だが、Twitterには管理者がいる。彼らは間違いを犯しやすい生身の人間の小集団だ。そして、トラブルはここから始まる。世界を崩壊させようという管理者たちの行動によって、シリコンヴァレーの王たちは、自分たちが政治と距離を置くことがますます難しくなっているのを知る。

Twitterが下した意思決定

親子分離政策に反対する熱心なロビー活動がネット上で展開されているときに、Twitterは2つの特筆すべき意思決定をした。1つ目は、サム・ラヴィーンというソフトウェア開発者が、1,500人ものICE職員のデータベースをつくった件だ。

その個人情報はLinkedInに公開されているものを利用したり、Twitterボットを使って集めたりした。だがラヴィーンの計画は、「ドキシング」活動であるとして禁止させられたのだ。ドキシング(晒し)とは、本人が望まないのに個人情報をシェアすることを意味する。

2つ目は、左翼系ジャーナリスト組織の「Splinter(スプリンター)」が、大統領上級顧問で移民政策強硬派のスティーヴン・ミラーの携帯電話の番号を入手して公開した件だ。Twitterの管理者はすぐにこのジャーナリスト組織のTwitterを凍結し、「Twitter監獄」に送った。この組織のTwitterをシェアし、リツイートを送った者のアカウントも凍結させられたのだ。

ほどなく管理者の対応はエスカレートして、スプリンターにリンクを貼ったユーザーのアカウントも凍結した。これはテロリストのプロパガンダをブロックするときに使われる方法だ。最後には、この凍結に言及しただけのユーザーのアカウントまでもが凍結された。

皮肉なのは、暴力的な白人至上主義で以前にTwitterから追放されたオルタナ右翼[編注:既存の右翼を否定し、白人至上主義、反フェミニズム、反イスラムを標榜する]が戻ってきて、しばらくTwitterを利用したことだ。彼らはこの時間を使って、ルールを破ったユーザーを見つけ出し、管理者に報告する手伝いをした。

両件とも、親子を引き離すトランプ政権に反対する数百万人の力強い戦いに大きな影響を与えるまでには至らなかった。だが、シリコンヴァレーが政治的な役割を担いつつあると見ている者にとっては、とても大きな出来事だったといえる。

なぜなら、インターネット初期のカルチャーである進歩的で自由な言論のためのサーヴィスとして生まれたTwitterが、左翼の活動家を妨害するためにその力を使ったからだ。21世紀版の強制収容所に抗議する活動に対して、この力が振るわれたのはさらなる衝撃だった。

Twitterや同様のサーヴィスの創始者は、「プラットフォームの管理者は公平な観察者だ」と主張するが、実際にそれが真実であったことはない。シリコンヴァレーの巨人たちによる小さなクラブは、急速に政治的な力を蓄えている。プラットフォーム上のコンテンツに関する彼らのどんな決断でも(決断しないという決断も含めて)、はっきりとした社会的影響を及ぼすのだ。

もしもフェイスブックが、感染症のように広まるデマやロシアによる偽情報攻撃を、16年の大統領選挙前に躊躇しないで取り締まっていたならば。あるいはユーチューブが、YouTubeのアルゴリズムがテロリストのコンテンツにユーザーを案内しているのを何年も前に調べていたならば、きっと歴史は変わっただろう。

「政治的な責任」が急速に膨らむ

そして、Twitterが政府の職員や高官のプライヴァシーをすみやかに守り、のちに渋々ながら同じ脅威にさらされたジャーナリストも保護の対象としたとき、この決断も影響力を持った。同様に、Twitterが極右のメディア番組司会者にひれ伏したり、第45代大統領(トランプ)が毒のある長広舌を披露したりするのを、見て見ぬ振りをしているのも社会に影響を与える。こうした選択を経て、市民に力を与える目的でつくられたプラットフォームが、少しずつ権力者にとっての聖地になっていくのだ。

この5年超の間に起きた出来事は、ノンポリのシリコンヴァレーの巨人たちに対して、自分たちの政治的な責任が急速に膨らんでいるのを繰り返し思い知らせている。

第1の出来事は、彼らのプラットフォームがテロリストに利用されたことだ。この結果、のんきだったエンジニアたちがアメリカの外交官や軍の幹部と奇妙なミーティングを開いて、斬首の動画の詳細について議論する羽目になった。

第2の出来事は、トランプが立候補した大統領選挙の最中、ロシア人がネットを駆使してデマ情報を拡散したことだ。これは、国家の誕生においてもシリコンヴァレーのプラットフォームは効果的な武器になり得ることを示した。

次に、ヴァージニア州シャーロッツヴィルで17年に事件が起きた[編注:8月12日に白人至上主義者の集会で、反対派との衝突が起こり、死者1名、負傷者多数を出した]。ここではソーシャルメディアによって、わずかひと晩のうちにヘイトスピーチが仲間に伝えられ、それによって対立が助長された。

関連記事 :白人至上主義者の集会後、Twitterを「悲しみ」と「ユーモア」が席巻した理由

現在は、4番目の革命的な出来事が起ころうとしているところだ。これを外から見ると、冷酷さを増すトランプ政権の政策に恐怖心を抱いた左翼活動家が、テクノロジーを利用して反撃している図に見える。ところが内側から見ると、政府の政策を嫌っているテクノロジー企業の従業員が、自分の会社が政府の武器となっているのに抗議している姿が見える。

この中間に位置するTwitterやほかのプラットフォームの管理者は何もしたくないようで、真面目に取り組んで難局を切り抜けるつもりはないのだ。

中立は選択できなくなる

最近のシリコンヴァレーとトランプ政権の動きは、どのみちうまくいかなくなる。Wikipediaではすでに、軍が管理する亡命希望者の収容施設の呼び方を、「抑留(internment)施設」にするか、「強制(concentration)収容所」にするかで議論が白熱している。ほどなくして、賭け金がさらに上がる瞬間がやってくるだろう。

例えば、脱走した移民が国境警備隊によって殺されたり、テントの抑留施設で室温が38℃近くまで上がって悲劇が起きたりしたときに、ソーシャルメディアの巨人たちは抗議の声に飲み込まれる。そして明確なモラルに直面する瞬間を迎えるのだ。

活動家を助けるか、政治的抗議に直接手を差しのべるか、あるいはリスクを覚悟で「中立な」プラットフォームだという立場を守ろうとするのか。どの道でも、どちらかの陣営に肩入れをすることなので、明確な選択になる。

政府による抑留措置への怒りが最高潮に達した18年6月19日に、Twitterの共同創業者でCEOのジャック・ドーシーは、420万もいる自分のフォロワーに対して、短い質問を投げかけた。

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「彼らを助けるための最も有効な手は何だろう?」

だが、ドーシーもその仲間たちもすでにその答えを知っている。真に問うべき質問は、自分たちがその結果を受け入れられるかどうか、なのだ。

彼らは世界で最も影響力をもつコミュニケーション・システムを支配している。実際に、ユーザーのホームページに資金集めのリンクを貼るという小さな行動や、アルゴリズムを抜本的に変えるという大きな行動によって、彼らは毎日、政治のバランスを動かしているのだ。

アメリカ政府はいま、ひどい状態だ。この先もっと悪くなるだろう。ソーシャルメディア・プラットフォームは、そもそも最初からそれほど中立ではなかった。そしていま、彼らは「中立性」を言い訳にするのはやめて、社会全体の利益のために、自分たちのデジタル帝国をどのように統治すればいいかを考えるときが来ている。


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TEXT BY EMERSON T. BROOKING AND P. W. SINGER

TRANSLATION BY NORIAKI TAKAHASHI