米軍の戦闘機は、ついにレーザー兵器を手に入れる──SFのような技術が実用化に向け動き出した

戦闘機がレーザー兵器でミサイルを撃ち落とすシステムの開発を、ロッキード・マーティンが進めている。音速で飛ぶ戦闘機に光速で発射されるレーザー兵器を載せ、超音速で飛んでくるターゲットを破壊する技術だ。まるでSF映画の戦闘シーンを思わせるが、いかに実現しようとしているのか。
米軍の戦闘機は、ついにレーザー兵器を手に入れる──SFのような技術が実用化に向け動き出した
PHOTOGRAPH COURTESY OF LOCKHEED MARTIN

ロッキード・マーティンはつい数カ月前、これまで開発されたなかで最も強力なレーザー兵器を米陸軍に供給した。戦車に損傷を与えたり迫撃砲をやっつけたりする、地上車両搭載のシステムだ。

そしていま、同社のエンジニアたちは米空軍のために、映画『スター・ウォーズ』のパイロットであるポー・ダメロンが夢中になりそうな兵器をつくっている。飛んでくるミサイルを戦闘機が撃ち落とせるレーザー銃を開発しているのだ。

SF作家や映画監督が、殺人ビームが飛び交う世界を想像してから数十年で、現実が追いつきつつある。防衛関連メーカーのレイセオンはこの春初めて、ヘリから発射されるレーザーで標的を破壊してみせた。ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場で、「AH-64アパッチ」ヘリコプターが飛行しながら、1マイル(1.6km)を超える距離にある戦車をさまざまな高度から撃ったのだ。

レイセオンは、レーザーを発射してドローンを撃退するデューンバギーの開発も進めている。ボーイングにも独自の対ドローン・レーザー砲がある。

「こうしたテクノロジーは『やってくる』とされて久しいものですが、実際にはまったく登場せず、もう実現することはないと考えられていました」と語るのは、軍事アナリストのピーター・シンガーだ。「それがいま、実現しつつあります。このアイデアは、出だしで何度もつまずいた末に、やっと本物のブレイクスルーによって実現可能になり始めているのです」

レーザーの技術革新がもたらした「SFの世界」

実現への鍵を握ったのは、電気で動作する固体レーザーの開発だ。先行技術の化学レーザーは、強力なビームをつくり出す反応を起こすために、大量の化学物質を必要とする。米国防総省に属するミサイル防衛局は2012年、機上レーザー実験機を棚上げにした。ICBMを撃ち落とすことを目的にした化学レーザーを搭載した「ボーイング747」だったが、コストがあまりに大きく手に負えなかったのだ。

しかしこの10年で、固体レーザーは威力も効率も向上し、利点も備える実現可能な代案になった。「いまでは目標を狙える強力なビームを生成でき、それを標的に十分な時間あてて無力化することができます」と、レイセオンのトム・ケネディ最高経営責任者(CEO)は語る。「電気がある限り弾倉は無限なのです」

これが戦闘機に搭載されるかどうかは、ロッキード次第だ。この新しいアイデアは、米空軍研究所の自己防衛高エネルギーレーザー実証プログラム(軍の略称の世界は相変わらず柔軟で、SHiELDとも呼ばれる)の管轄下にある。ロッキードは軍事請負業者として、戦闘機でテストできるシステムを21年までに実現することを目指している。

ロッキードは、この新しい2,600万ドル(約30億円)の契約で提示されている課題に対処すべく、陸軍向けに開発したシステムを利用する。これにより、地対空ミサイルや空対空ミサイルに対して戦闘機が自己防衛できるようにすることを目指している。

このプログラムは3つのサブシステムに分かれるが、いずれもかなり無理のある略称がつけられている。ビーム制御を含むシステムは「SHiELD Turret Research in Aero- eFfEcts(STRAFE)」という。「Laser Pod Research and Development(LPRD)」は、戦闘機上でレーザーの電力供給と冷却を担う。そしてレーザー自体は、「Laser Advancements for Next-Generation Compact Environments (LANCE)」と呼ばれている。

急速に進んだ小型化

中核をなす技術はファイバーレーザーだ。光ファイバーを使ってビームの威力を強化するもので、複数のレーザーを束ねることで拡張性のあるシステムができる。これらがひとつになって、飛来してくるミサイルの燃料タンクを加熱してミサイルを爆発させたり、フィンなどの制御面を狙って無力化したりする。

このところ技術的に進歩はしているものの、高速で動く軍用機上でレーザー兵器を稼働させるのは大変な難題だ。「音速で飛ぶ航空機に光速で進む兵器を載せ、超音速で飛んでくる脅威を標的にするのです」と、ロッキードでレーザー兵器システムを担当するシニアフェローのロブ・アフザルは語る。さらに、乱気流や気象条件による動きにも対処する必要がある。「耐環境化は極めて重要です」

レーザーのサイズや重量、消費電力については、小型ジェット機で使える程度に削減しなければならない。ロッキードはかつて、ミサイル防衛局向けに機上レーザー実験機を開発したが、このシステムはボーイング747の胴体のほとんどを占めるものだった。この問題には、固体システムの採用が有効なはずである。

「われわれはサイズや重量、電力を削減して、戦術戦闘機に搭載できるようにしたばかりでなく、ポッドの一部になるまでレーザーを小さくしました」とアフザルは述べる。「ほんの5年前なら、開発には長い時間がかかると言われていたような技術の成熟度です」

非ステルス戦闘機の活躍の場を広げる

ロッキードが納入できれば、同等のミサイルシステムやマシンガンシステムよりも軽く、さらに(おそらくは)安価な兵器を空軍は手にする。加えてこの兵器は、空軍戦闘機の配備方法まで変えるかもしれない。ミサイルを撃退するレーザーを搭載できれば、現状では「F-22ラプター」や「F-35ライトニング」のような極めて高価なステルス技術を必要とするような戦場で作戦を遂行できる。

「ヘリコプターや爆撃機、戦闘機が、飛来してくるミサイルを撃墜したり、十分に損傷させたり、そらしたりできるようになれば、最近までオペレーションが不可能だったところで作戦を行うことができます」と、軍事アナリストのシンガーは指摘する。「将来の戦闘シナリオでは、以前は自己防衛ができなかった非ステルス機に新しい活躍の場を与えられるかもしれません」

検知されないことが多く奇襲に使えるステルス航空機の必要性はなくならないとしても、戦力多重化の役割は果たせる、とシンガーは主張する。さらには、中国が開発していると伝えられている、最もステルス性能が高い航空機も見つけられるという量子レーダーシステムに対する保険にもなる。

敵陣を攻撃し、ミサイルを撃墜しながら空から作戦を遂行し、帰還することがレーザーによって可能になるなら、見つからないことはそれほど重要ではなくなる。少なくとも、敵もレーザーを開発するまでは。

そのあとは、何かはわからないが次に登場するSF兵器にかかっている。次に登場するのはデス・スターかもしれない。


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TEXT BY ERIC ADAMS

TRANSLATION BY RYO OGATA/GALILEO