ポッドキャストが、瀕死のラジオ局を救った

National Public Radio (NPR、アメリカの非営利・公共ラジオ局) の財政収支の数字が合うのは、ここ6年で初めてのことだ。そして、その背景にあるのが、ポッドキャストの人気なのだという。
ポッドキャストが、瀕死のラジオ局を救った
PHOTOGRAPH BY TED EYTAN (CC BY-SA 2.0)

非営利団体であるアメリカのラジオ局、National Public Radio (NPR)。彼らは、放送を続けるために主に連邦政府の出資や企業スポンサー、個人献金に頼っているが、過去数年の赤字などに苦しみ、才能あるスタッフの削減をやむなくされてきた。しかし今年は違う。コスト削減や新戦略構築に加えてこのラジオ局の救済に役立ったのが、インターネット、だ。

社長兼CEOのヤール・モーンはまず、そのニュースをAP通信に伝えた。彼が言うには、ポッドキャストが若いリスナーを引き付けているのは、そのメッセージではなく「メディア」だという。

彼はAPに対して、次のように語った。「わたしたちは若い視聴者を獲得しようとして、その存在の本質を変える必要はない。必要なのは、ただ素晴らしいストーリーを語ることだ」

これは、かなりの一大事だといえる。1970年に設立されたNPRは、テレビネットワークや新聞と並んで、アメリカの“オールドメディア”を象徴する存在だ。新興メディアがヴェンチャーキャピタルから何百ドルもの投資を集めて旧来メディアを突き崩そうとするなか、NPRは若い視聴者や新しい売上げを得る機会を獲得しようと試み、現状を維持しようとしているわけだ。

彼らのありようが示すのは、リスナーが(ニュースを得る)プラットフォームを別のものに変えていくなかで、(旧メディアが)新しいメディア時代に付き従うだけでなく、繁栄すら可能だということだ。──少なくとも、いまは実現している。

インターネットは昔ながらのメディア企業にとってすれば、“少しややこしい”場所だった。登場する新興企業や売上げの減少、新しい配信手段、情報を無料にするかどうかの争いなどに対処しなければならないからだ。

そのとき、企業によっては、若い視聴者を呼び寄せるために特別なストーリーを提供することを選んだものもある。しかしモーン氏は、そうしたある種の「きらびやかさ」はNPRにとっては有効ではなく、そうである必要はないと気付いたのだ。「ストーリーが重要なのに変わりはない」と、彼は話す。

インターネットはメディア企業が金を儲ける方法を劇的に変えた。広告主にとってバナーは印刷に比べて安価だし、ニュースや情報の選択肢が無限にあるいま、読者はストーリーに金を支払うことをより躊躇しているようだ。

そのような状況でも、NPRはポッドキャストによる売上げを2013年から大幅に増加させた。2015年の同売上げは、2014年と比べて2倍になっていると、NPRはわれわれに教えてくれた。また、NPRはかつてスポンサー企業を示すときに「広告主」という言葉を使うのを避けてきたが、モーン氏の下ではブランドやマーケティングの考えを積極的に取り入れ、ライヴイヴェントを数多く開催してファンが同局のスターと関わることができるようにした。

nprの「podcast directory」には、音楽はもちろんコメディアやアート、「science&medicine」などといった多岐にわたるジャンルの番組が並ぶ。

いま、ポッドキャストは、アツい。実際のところ、NPRは大々的に宣伝されている「This American Life」のスピンオフ番組「Serial」で成功をおさめ、非常に高い人気を誇っている。Edison Research社の最新の統計によると、アメリカ人の4,600万人が少なくとも1カ月間に1番組のポッドキャストを聴いていて、この数字は2008年から順調に伸びている(そして、わたしのようなポッドキャスト中毒のユーザーは、毎週数時間も聴いている)。また、NPRのポッドキャストの多くは全体で見ても人気は高く、iTunesのポッドキャスト・ランキングをしばしば独占している。

すべての人のための音声

しかしこれらトップランク番組のすべてが、“巨人のごときオールドメディア”による番組だというわけではない。リスナーの急増は、高いレヴェルのクオリティやプロフェッショナリズムを目指す「独立ポッドキャスター」や、ポッドキャスト専門企業の台頭と平行して増えている。ならばポッドキャストがさらに人気になると、懐の深いヴェンチャー資本が後援するメディア・スタートアップとの競争に、NPRは直面せざるを得なくなるかもしれない。

ポッドキャストが人気を博するにつれ、リスナーの要求はますます高くなり、何をどこでいつ聴くかの選択肢をさらに多く求めるだろう。

最も重要なことは、ポッドキャストはカーステレオにおける「オンデマンドでの選択肢」に対して、参入しはじめたばかりだということだ。しかし現在のところ、そのうちの44パーセントがいまもってラジオ視聴者なのだ。AppleとGoogleは自動車のダッシュボードにスマートフォンを接続するツールをそれぞれ販売している。しかし洞察力に溢れたポッドキャスターたちは、コネクテッド・カーがポッドキャストをオンデマンドで自動的に流す将来に備えている。

いずれにせよ、ポッドキャストがなくなることはない。オンデマンドのトークラジオやインタヴュー、オーディオストーリーテリングの需要は高まっている。

NPRには「独占の歴史」があるが、成功が保証されているわけではない。変わりゆく世界に順応しようとするその他のオールドメディアと同様に、戦い続けるためには機敏でいなければならない。しかし、「もっと聴き続けたい」と思っている人たちは確かにいる、のだ。

TEXT BY JULIA GREENBERG