EMの「抗酸化波動」によって土壌の放射性セシウムを消滅できる?

前記事
・EMで作物の放射性セシウムの吸収を低減できるか?
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20120907/1346997502

では、福島県農林水産部試験結果からは、EMの特別な効果によって作物の放射性セシウムの吸収を低減させるということは言えず、"EMが放射性セシウムを消滅させる"ということを否定するデータが出されていることを示しました。


ところが、EM推進団体は"EMが放射性セシウムを消滅させる"という可能性を示したという結果を報告しています。
・EM生活:【福島県】放射能汚染対策プロジェクト
http://www.em-seikatsu.co.jp/example/detail.php?id=36 

EM提唱者である比嘉氏の指導により、飯館村の圃場試験において5月から7月中旬までの約2ヶ月間で得られた結果を報告しています。

試験は約20aのブルーベリー園内に無処理区、EM処理区、EM+有機物処理区を設定し行っています。EM処理区には、光合成細菌(EM3号)を20%添加し強化したEM活性液を、週に2回、10a当たり100リットル散布しました。EM+有機物処理区にはEM活性液散布に加えて有機物(米ヌカ)を1回散布しました。土壌中の放射性セシウムの計測は、採取した土壌を(株)同位体研究所に送付し、ゲルマニウム半導体検出器による測定を依頼しました。試験圃場の土壌の放射性セシウムの測定は、実験開始から約1ヶ月毎に行いました。試料とする土壌の採取は、文部科学省の環境試料採取法および農林水産省の通知に従い、深さ15㎝までの土壌を採取しています。

その結果は、

放射性セシウム濃度は実験の開始直後は、土壌1kg当たり2万Bq以上ありましたが、すべての処理区で放射性セシウムが1ヶ月目には40%減少し、2ヶ月目には75%減の5000Bq/kgまで減少していました。

「すべての処理区」の土壌の放射性セシウム濃度が急速に減少したことを報告しています。
では、EM処理していなかった対照の「無処理区」はどうだったのでしょう?
せっかくきちんと測定したのですから、対照のデータも知りたいところです。
どこかにこの実証試験の詳しい報告がないかと探したところ、ありました。

・Human Fund:EM(有用微生物群)による放射能汚染対策の可能性
http://www.em-platform.com/npo/modules/d3forum/index.php?topic_id=13 

EM処理区と対照区では、土壌の放射性セシウムの減り方がほとんど変わらなかったことが分かりました。
(こういうデータは貴重ですね。きちんと対照を組み入れた実験をされていたことは、高く評価します)

※よって、「対照区」と実は放射性セシウムの減り方は変わらなかったので、EMの効果によって放射性Csが消えたとは言えません。

しかし、EM推進側の説明は違っています。

なお、対照区(EM処理していない区域)の放射能も低減していることの理由は、
 ・EMの持つ抗酸化波動が数メートル隣接の対照区の放射能を無害化または安定化させているものであること、
 ・通常の環境では、放射性セシウムの半減期は30年なので2ヶ月で75%低減はありえない、
  つまりEMは周囲に対しても放射能低減に影響していることを示唆している、
などが考えられる、としている。

(太字は私による強調です)

でました、「波動」による説明です。
「抗酸化波動」によって”数メートル隣接の対照区の放射能を無害化または安定化させている”だなんてことにしたら、対照実験が同じ農地では不可能になります。
「実証(反証)不可能」にしてしまう後付けの言い訳は、ニセ科学特有のものです。

土壌表面に堆積していた放射性セシウムが、2ヶ月で自然に1万5000Bq/kgも消滅することはあり得ません。試験圃場の放射性セシウムは何らかの要因により減少したと考えられます。

土壌の成分の違いによって、放射性セシウムの吸着度合いは大きく異なってくることが知られています。
ブルーベリーの栽培に適したこの土壌では、放射性セシウムの吸着が少ない為に対照も含めて土壌中の減少が早かったのではないかと考えることができます。
報告者は、15〜30㎝深さの土壌の放射性セシウム濃度は300Bq/kgと低いので下方に移動したのではないとしていますが、もっと下の方に全体的に浸透していった可能性もあります。
15〜30㎝深さの土壌についても、時系列のデータがあると良かったと思います。

こちらの報告では、さらにそれぞれの試験区で採れたブルーベリー中の放射性セシウム濃度のデータも出されています。

「無処理区」>「EM処理区」>「EM処理+有機物区」の順で果実中のセシウム濃度が高くなっています。
もし、EM推進側による”EMの持つ抗酸化波動が数メートル隣接の対照区の放射能を無害化または安定化させている”という説明を適用すれば、こういう違いが生じることに矛盾がでてきます。

ここで思い出して頂きたいのが前回の記事です。
土壌中の交換性カリウム量が多い程、作物への放射性セシウムの移行率が下がるという関係です。

「EM処理区」>「EM処理+有機物区」は、有機物として使用した米ぬかに含まれるカリウムが加わったことで、放射性セシウムの移行が少なくなったと解釈できます。

「無処理区」>「EM処理区」も、EM活性液に含まれるカリウムによって放射性セシウムの移行が少なくなったと予想されます。例えば、EMの培養に使うとされる糖蜜には糖分の他にカリウムが豊富であることが知られています。

※作物への放射性セシウムの移行量の差は、土壌中の交換性カリウム量の違いによるものと推定されます。

ニセ科学系の「波動」をわざわざ持ち出さなくても、科学的な知見によってもっと合理的に推論することができるのです。