Xbox360に史上最大規模の不具合 〜 問われるMSの品質軽視

先日のエントリで取り上げた、「異常に高いXbox360の故障率」という問題。正直、自分の中ではこの故障率3割前後というのがデジタルプロダクトとしては常識外れ、あり得ないレベルの数字だったため、本当の出来事だとはとらえられないでいました。

しかし今回驚くべき事に、この故障率をある意味肯定するかのような内容が、マイクロソフトよりアナウンスされてしまいました。

米Microsoft、Xbox 360の保証期間を3年に延長。日本でも同様の対応
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070706it06.htm
マイクロソフト、Xbox不具合で10億ドル超す対策費 NIKKEI NET

一見、単に不具合対応のサポート期間が3年に伸びただけかのように見えないこともないですが、このニュースには正負両面について重要な意味を持っていると思います。以下、双方の視点から自分の感想を述べていきたいと思います。

Xbox360ユーザーやほしがっていた人には朗報?

まず1つは正の面。これは分かりやすいですよね。上記ニュースの額面通り、無償サポート期間が3年に延びると言うことと、これまでの修理代が変換されると言うことです。

これは、すでにXbox360を持っている人や、Xbox360を欲しいと思いながらも故障率などの問題で足踏みしていた人にとっては朗報の面もあるでしょう。これまでにXbox360を購入してまだトラブルが起こっていない人にとっては、MS側に過失があるとはいえとりあえずレッドリングでのトラブルについては3年間無償で修理してもらえることになります。また、すでに故障して有償修理した人にとっても、お金が戻ってくるのは大きいでしょうね。故障率で様子見していた人でも、とりあえず無償修理もあるし買ってしまうか、という判断を下す人も出てくるかもしれません。

品質の軽視のMSの姿勢があらわになった対応

一方で、ここからが本題なのですが、負の面について。まず第一に、公式にMSが欠陥を認めたということが大きいですね。日本では特に購入者も少なく話題も少なかったためあまり欠陥については騒がれることなく、下手をすると捏造扱いされることもありましたが、これでMS自身が認めたことで、正式にXbox360の構造的欠陥が認められた形です。

そして、3割以上とも言われたその故障頻度についてですが、特に今回のアナウンスではその割合は出ていません。しかし、その故障率が相当高い物であろう事は、MSが今回の対応で見込んでいる費用の額を見ることで何となく想像することは出来ます。

その費用はなんと、約10憶5000万ドル〜11憶5000万ドル。日本円にしてなんと約1290憶〜1400憶円にもなります。PS3が「Cellの開発に5000憶円かけたせいで価格が高くなった」などとさんざん揶揄されてましたが、欠陥製品作ってその対応に1400憶円かかるというのは、それ以上に企業としてひどい事態に陥っていると感じます。品質管理の重要性が感じられるところですね。

欠陥を認めてなお、そのまま販売継続する姿勢に疑問

また、さらにおかしいのが、これだけの不良率を誇る製品について、完全な回収・リコールをすることなく、販売を続けるということ。すでに欠陥は把握し、状況は改善している、とはコメントしていますが、じゃあ具体的に今出荷している製品の、どのシリアル番号の製品からなら安全なのか、具体的提示は何もありません。これでは、これから買う消費者は欠陥を抱えたままの商品をつかむ可能性が大いにあり得るわけです。

「そのための3年無償保証じゃん」という意見もあるとは思いますが、それって要するに「欠陥商品だけど、壊れたらタダで直すから買ってください」ってことですよね。そんな製品、日本じゃまず聞いたこともありません。消費者から見れば「いや、そんなことより、まず壊れない物売れよ」とつっこみたくなるのが普通でしょう。中国などの怪しい国ならいざ知らず、世界最大の経済国アメリカの、世界有数の企業がやるようなやりかたじゃないですよね。

自分も過去にいろいろな製品で故障を経験したことがありますが、正直こうした故障の際のやりとりというのは結構ストレスたまる物です。まず、そもそも故障が起きたこと自体で不快感が生じます。「自分が何か悪いことやったかな?」とか、いろいろ原因追及もしますしね。さらに、故障した件をサポートとやりとりするのも手間ですし、さらに修理出している期間はゲームもできなくなります。自分も初期不良で無料で対応してもらったことは何回かありますが、タダであってもそもそもそうした精神的不快感があるんですよね。

せめて精一杯品質が高い状態で出荷され、それでも運悪く不良をつかんだのならまだ分かるのですが、今回のように欠陥を抱えたままで売り続けるという行為は、消費者から見れば「お金があるからって欠陥品をとにかく売ってシェアを伸ばそうとしている」と受け取られても仕方ありません。ですから、各種マスコミの記事では「イメージ悪化」、「シェア争いに懸念」とか書かれたりする訳です。

PS3やWiiとの争いが生んだ歪みか

今回のようなXbox360の欠陥、そして欠陥を抱えながらも売り続けてしまう行為は、結局は次世代機戦争によって生み出されたものと言えるかもしれません。

そもそも、Xbox360は前世代のXBOXがPS2よりずっと遅れての発売になってしまったため、PS2の牙城は崩せませんでした。ですので、今回はなんとしてもPS3よりも早く出そうと躍起になっていたわけです。そんな中で、SCEは得意のハッタリ戦法を繰り広げ、PS3の2006年春発売予定をかたくなに崩そうとしませんでした。そのため、Xbox360は2005年末の発売のために、相当無理な開発を強いられたことでしょう。また、下手に日本を意識してデザイン性を重視したのも、熱対策などで苦戦した要因だったように思います。デザイン至上主義で製品を作るというのは、相当な技量がいるでしょう。「ソニーはデザイン優先だから壊れやすい」とか言われることもありますが、逆に言えばソニーだからこそあれだけ凝ったデザインでも一定の品質に仕上げてこれるのだとも言えると思います。そうしたデザイン性と品質の両立を、MSはまだ確立出来ていなかったということになるわけですかね。


また、欠陥を認め、多額の保証費用を計上しながらも発売を続けなければならないのは、ライバルのWiiの躍進があるからだと思われます。日本ではすでに圧倒的差をつけられているわけですが、Xbox360の強いはずの北米でも月間売り上げでWiiを上回れず、世界累計でもここ数ヶ月の内にWiiに追い抜かされそうな事態な訳です。

Video Game Charts, Game Sales, Top Sellers, Game Data - VGChartz

本来、欠陥が判明したのならば、一旦製品出荷を止め、欠陥製品が市場に出回るのを抑えて対応を実施、対応品が出来た段階で市場製品を良品と切り替えていく、というのが普通の対応です。そうでないと、いたずらに回収・修理費用がかさんでしまいますからね。しかし、ゲーム機の場合だとどうしてもシェア争いというものがあり、シェアがないとサードがソフトを出してくれないという事情があります。ですので、MSは欠陥商品を売り続けてでも、シェア拡大を選んだと言うことでしょう。このあたりの判断は、バグ満載でソフトを出し続けるマイクロソフトらしいアプローチだとは思いますね。ただ、パッチやアップデートで改善できるソフトウェアと違って、ハードウェアは回収・修理といった物理的コストがかかります。いくらOSで稼いでいるからって、そうしたアプローチをハードの分野にまで持ってくるな、と言いたいところですね。

落ちたマイクロソフトへの信頼感〜日本での復活の道はあるか

今回の対応において、冒頭に述べたようたしかに一部恩恵を受ける消費者はいるとは思いますが、世間的に見ればやはりMSに対するイメージは大きく低下すると思います。特に日本は品質に対しては非常にうるさい国ですしね。商売をされている方から見れば、欠陥商品を資金に任せて売り続けるMSの行為に、唖然としている人もいるんじゃないでしょうか?

自分は、マイクロソフトについて、マウスやコントローラなどをPCで優れていた物を提供していたこと、そしてなお長期保証も提供していたことから、ソフトはともかくハードメーカーとしてはかなり高い信頼をしていたつもりでした。ただ、このXbox360の件で、それも一気に失せた印象ですね。もうこの会社に品質の高い商品は期待できない、という感覚さえ受けます。元々自分はPC好きで、Appleよりもむしろマイクロソフト、Windowsの方が好きなのですが、こういった無茶な展開されると、本当がっかりしてしまいますね。

とにかく、MSとしては落ちた信頼を取り戻すために、一刻も早く致命的トラブルの生じない改良版Xbox360を出して頂きたいですね。10月に出るEliteがそうした対応版になっていればいいのですが、果たしてどうか。Eliteでも同様の故障が頻発するようだと、お話にならない状態になってしまいますよね。ヒートシンクの改造といったレベルではなく、LSIシュリンクなど根本的対応もとにかく最優先で取り組んで欲しいところです。次世代機のHDゲーム機として、PS3とXbox360のいずれかはいつか購入したいと思いますので、双方とも安心して製品購入できるよう、質と量の両方の充実に努めて頂きたいものです。