Back Stage Of Play Station
プレステの裏側
All photos by KENTO AWASHIMA (NIKKEI)
Editing by YUJI NITTA.
Filming Locations:Sony City,Sinagawa,Japan.
Sony Kisarazu Site,Kisarazu,Japan.
新生ソニーの屋台骨
ソニーと言えば、何を思い浮かべるだろうか。トランジスタラジオか、ウォークマンか、それともaiboか。
ゲームに親しんだ世代なら、それはプレイステーション(PS)だろう。2013年に発売したプレイステーション4はゲーム、映画、音楽とあらゆるエンターテインメントが交差し、VRなど最新テクノロジーとも融合する。
そして、稼ぐ。リーマン・ショックで痛手を負ったソニーの復活劇。その原動力はプレイステーションだった。新生ソニーで最も売れているエレクトロニクス製品はテレビでもスマートフォンでもなく、プレイステーションだ。2018年、2019年度は半導体や金融を抑え、稼ぎ頭に台頭。2020年度は年末商戦に最新機「プレイステーション5」の発売を控えるビジネスの端境期にあたるが、それでもネットワークサービスが生み出す安定収益でコロナ禍に見舞われたソニーグループをリードする。
しかし、プレイステーションがものづくりの側面から語られる機会は少なかった。生産現場には関係者でさえ立ち入りを制限してきたからだ。
開けられることがなかった扉、
その先に足を踏み入れた。
PS4の発売は2013年11月。スマートフォンで遊ぶアプリゲームが最盛期を迎える中でも着実に売り上げを伸ばし、累計販売は据え置き機の史上最速ペースで1億台の大台に乗った。ソフト販売は約12億本に到達。6年半で稼いだ売上高は10兆円、利益は1兆円を超える。
白くしなやかな腕が左右から突き出す。配線をつないで、ネジを回して。休みなく働いて、次のアームにバトンを渡す。ロボットが見せる身のこなしは優雅なダンスのようだ。しかし、設置当初は80台を超えるロボットが物々しく並び、実用にはほど遠かった。
ひとつひとつの作業工程を丹念に見直してきた。1台のロボットが右へ左へと平行移動を繰り返し、それぞれの場所で別のロボットと共同作業にあたる2役をこなす工夫も。もっと効率良く、もっと正確に。ラインの下部やロボットを囲むパーテーションのあちこちに書き込まれたメモが、これまでの試行錯誤が物語る。2018年にようやく全工程の自動化を完成させた。
「眺めていると、だんだん人間のように見えてくるんですよ」。エンジニアのまなざしは、我が子を見守るように優しい。重量物を大胆に持ち上げる大型ロボットと違い、人の腕を思わせるコンパクトなロボットの動きは細やかで、不思議な温かみがある。「このロボットをここまで使いこなしている現場は、おそらく他にないでしょう」。控えめな語り口で、確かな自信をのぞかせる。
エンジニアの英知がぎっしりと詰め込まれた生産ライン。その神髄は「柔軟物」と総称するケーブルやテープ状の部品で発揮される。ロボットは紙、ひもが苦手だ。ひらひらとたなびくパーツは、たるみやねじれの予測が難しく、しかも壊れやすい。
1台のアームがつまみ上げたケーブルを固定し、もう1台のアームで先端部分をつかむ。ひねりを加えて角度を調整したらコネクターへ。差し込みは強すぎず、弱すぎずの絶妙な力加減。人間なら造作もない作業だが、ロボットでの再現は難しかった。
テレビもスマートフォンも、エレクトロニクスの組み立ては自動化の難しい工程が多く、今でも労働コストが競争優位を決める。
日本企業は安い労働力を求めて海外に拠点を移してきた。2000年代には中国やマレーシアで大規模な生産体制を整えるEMS(電子機器の受託製造サービス)が台頭。多くのメーカーがEMSとの蜜月関係を築いた。プレイステーションも例外ではない。
自動化で競争条件は変わる。労働力の安さよりも、消費地との近さ、安定した電力供給、設備投資のしやすさが工場立地の決め手になる。熟練度の違いによる作業ムラや人手不足の悩みは消える。サプライチェーンは再構成を迫られ、その先にはパーツの内製化も視野に入る。製品設計も人間の手作業を前提にした設計から、ロボットを前提にした設計に変わっていく。
ものづくりの最前線が変革の起点になる。
休日を過ごす親子、最新ゲームにくぎ付けの学生、スーツ姿のサラリーマン。プレイステーションの売り場にはいろいろな人たちが集まってくる。コロナ禍で寸断された物流網も少しずつ動き始め、売り場も再開。平穏を取り戻しつつある。
TOPIC
2020年の年末商戦に発売を予定する「プレイステーション5」。ライバルのMicrosoftも新型機を公表済み。次世代のゲーム機市場を巡る覇権争いは、2020年代のソニーグループの浮沈をかけた正念場になる。
そこはソニーの最前線。
秘密のベールをくぐり抜けると、そこはソニーの最前線。
先頭に立つのは、かつては異端児だったプレイステーション。オーディオやテレビに代わって、グループの屋台骨に育った。モノづくりはソニーの原風景。そのど真ん中にプレイステーションがある。
ソニーのモノづくりは
プレイステーションで進化する。