7月26日開幕のパリ五輪はパリ市内を流れるセーヌ川が開会式の舞台となり、エッフェル塔やコンコルド広場、パリ近郊のベルサイユ宮殿といった世界的な観光名所なども競技会場になる。街は五輪に沸き立つ一方、経済格差や人種差別問題などの課題もくすぶる。
セーヌ川で開会式
選手らはオステルリッツ橋を出発しトロカデロ広場まで、セーヌ川を約6キロメートルにわたって船に乗りパレードする。ノートルダム大聖堂やエッフェル塔といった名所や競技会場を間近にとらえ、河岸には多くの観客を迎え入れる計画だ。
スタート地点のオステルリッツ橋は、皇帝ナポレオン1世によって19世紀に建設が指示された橋のひとつ。ナポレオンがオーストリアとロシアの連合軍を破った地であるアウステルリッツの名前を冠した。
パレードはノートルダム大聖堂の横を通る。高い尖塔(せんとう)アーチが特徴だが、2019年4月の火災で尖塔や屋根の大部分が焼失した。24年12月の訪問受け入れ再開を目指して復旧作業が進められている。
13世紀半ばに完成した礼拝堂のサント・シャペル。高さ約15メートルのステンドグラスには聖書にある1113のシーンが描かれている。
パリ市庁舎は今大会でマラソンのスタート地点になる。1357年以降、パリの市行政機関はこの場所に建てられてきた。
ルーブル美術館前のチュイルリー公園に聖火台が設置される予定と報じられている。
コンコルド広場は初採用競技のブレイキン(ブレイクダンス)のほか、スケートボードやBMXフリースタイル、バスケットボール3人制の会場になる。
アーチェリーなどの会場になるアンバリッドは傷病兵を看護する廃兵院として17世紀に建てられた。
セーヌ川の代表的な橋のひとつであるアレクサンドル3世橋には、トライアスロンやマラソンスイミングなどのために観客席を仮設する。
ガラス張りの屋根が特徴的で展覧会場などとして利用されているグラン・パレはテコンドーとフェンシングの会場になる。
エッフェル塔の前にはビーチバレーの仮設会場が設けられる。
トロカデロ広場一帯はパレードの終着地点になる見通しだ。開会式終盤の式典会場となるほか、自転車競技の発着地点などとなる。
名所も競技会場に
観光名所のほか、世界的なスポーツイベントで使われてきた施設も今大会の競技会場になる。
1979年にフランス国内で初めて世界遺産に登録されたべルサイユ宮殿は、敷地内の遊歩道などに仮設施設がつくられ、近代五種や馬術の会場になる。
フランス・オープンなど世界的なゴルフトーナメントの舞台として知られるル・ゴルフ・ナショナル。今大会でもゴルフの会場になる。
標高231メートルとパリ近郊で最も高いエランクールの丘ではマウンテンバイクの競技が開かれる。
テニスの四大国際大会のひとつである全仏オープンの舞台として知られるスタッド・ローラン・ギャロス。テニスのほか、ボクシングの会場にもなる。
1924年のパリ五輪で開会式や陸上競技が開かれたスタッド・イブ・デュ・マノワール。ホッケーの会場として選ばれ、フランスでは2度の五輪を経験する唯一のスタジアムになる。
1998年開催のサッカーワールドカップのために建設されたスタッド・ド・フランス。今大会はラグビー7人制、陸上競技の会場になる。
選手村はパリ郊外のサンドニ地区に設けられ、五輪期間では1万4250人、パラリンピック期間に8000人のアスリートを受け入れる。大会後は住宅2500世帯、学生寮やホテル、公園、オフィスや商業施設に再整備される予定だ。
街は平和の祭典に沸き立つが……
社会分断の影
貧困や人種差別、
中東情勢巡るデモ
パリ郊外にはアフリカなど他の国や地域の出身者が多く住み、そのなかには低所得地区も目立つ。五輪に関連したインフラ整備などを進めても貧困問題は大きく改善しないと見る向きもある。2023年には警官による北アフリカ系市民の射殺事件をきっかけに、大規模な暴動も起きた。イスラム教徒も多いフランスでは、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突以降、パレスチナに連帯するデモも目立つ。
サンドニ地区、
人口の4割が移民
選手村が位置するセーヌサンドニ県のサンドニ地区は移民が多く住む地域のひとつだ。20年の国勢調査によるとサンドニの人口に対する移民割合は約4割と、全国の1割に比べて大きい。
空き家を不法占拠、「浄化作戦」
警察はこうした地域では困窮した移民が空き家に住み着くことが多い。現地警察は五輪を前に不法に占拠されスラム化した街区の「浄化作戦」を進めてきたとされる。ロイター通信はセーヌサンドニ県で23年、少なくとも60の不法占拠建物が閉鎖されたと報じた。パリでテント生活を続けてきたコートジボワール出身という男性は「どこに行ったらいいのかわからない。居場所がほしい」と嘆く。
フランスに住む移民の出身国・地域
フランスは旧植民地を中心に多くの国や地域からの移民を受け入れてきた。多様な価値観が交じり合い、豊かな文化を形作ってきた。一方、近年は社会分断の影も落ちる。
人種差別に反感、
抗議活動が拡大23年6月、パリ郊外ナンテールで検問中の警察官が命令に従わなかった少年を射殺し、住民らが激しく抗議した。一部メディアによると少年は北アフリカ系とされ、人種差別などに対する反感が噴出、抗議活動は広範な地域に拡大した。警察が数万人を動員して、数百人以上を逮捕する事態となった。
名門高校の校長に
殺害予告名門のモーリス・ラベル高校で校長がイスラム教徒の女子生徒に対して頭髪を覆うスカーフを外すよう指示したところSNSで殺害を予告された。校長は24年3月に辞任した。
人口の1割がイスラム教徒
パレスチナ連帯デモも活発フランスに住む人のうちイスラム教徒は約1割を占め、キリスト教徒に次ぐ規模だ。23年10月にパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム組織ハマスとイスラエルの衝突が始まって以降、パリではパレスチナに連帯するデモが繰り返し起きている。
パリのソルボンヌ大学で抗議活動に参加し、治安当局に一時拘束されたパレスチナ系の女子学生(21)は「ガザで苦しんでいるパレスチナ人がいる。沈黙することはできない」と訴える。イスラエル国籍の女子学生(25)はパレスチナ系の友人と距離を置きつつある。抗議について「理解できる面もあるが、ハマスのテロは正当化できない」と話す。