いま、eスポーツが熱い。若者たちがゲームの腕前ひとつで億万長者になり、スターダムをのし上がる。ゴールドラッシュに乗り遅れたくない企業やファンドが巨額の資金を投入。その熱狂がデジタルツールを通じて世界中に波及している。ここでも覇権争いの主役は米国と中国。サイバー空間で繰り広げられる激戦から目が離せなくなってきた。
ゲームは
遊びじゃない
その時、ゲーマーは
アスリートになる
eスポーツは過酷だ。反射神経に操作精度、チーム戦では高度な戦術理解が試される。長時間戦い抜く持久力も要るため、走り込みで体力作りに励む選手も多い。集中力を測るメガネ「JINS MEME」で事業開発を担当するジンズの渡辺寛紀氏もeスポーツ選手の集中力に注目。「eスポーツで集中力は重要な要素。トップ選手にはゲーム開始から数秒で集中力を最高にし、維持する驚異的な能力がある」と舌を巻く。
プロvsアマで検証
ぶれない視線が勝負の分かれ目
プロチーム「Libalent Vertex」のLeisia選手の視線は無駄な動きがない。映像や音で戦況を正確に把握し、見る場所を絞り込む。「視線のプロ」のTobii Technologyの藤井久仁子氏は「ショットを打つ時のプロゴルファーと似ている」という。eスポーツには深い先読みと大局観も必要で、囲碁や将棋と共通点もある。東大生のSpicies選手は「DetonatioN Gaming」に所属。カードゲーム「シャドウバース」で1500種超のカードを分析し、最適な組み合わせや戦術を日々研究する。試合は制限時間内に最善の打ち手を探す「瞬発力」を争う。「決め手は局面ごとの『定石』を多く学ぶこと。無意味な選択肢を瞬時に絞れば、勝てる選択肢の吟味に時間を割ける」。何を見て、何を考えるか。取捨選択のスピードと精度がプロの証しだ。
1/1000秒の攻防
「三種の神器」が支える
選手の能力を引き出す道具もスポーツの注目点。eスポーツはマウス、キーボード、ヘッドセットが「三種の神器」で、試合前は機器調整に数十分をかける。ゲーミングデバイスは最新技術を惜しみなくつぎ込む。「eスポーツ選手に選ばれることが技術力の証しになる」(Logicoolの伊達玄四郎氏)
神器①
マウス
銃撃戦で狙う、撃つの動作を託す最重要デバイス。手の大きさや筋肉のつき方で、「かぶせ」「つかみ」「つまみ」の3タイプから持ち方を選ぶ
神器②
キーボード
ゲーム内の移動にはW、A、S、Dの4キーを使用。キーの沈み込む荷重(押下圧)やキーが反応する深さ(作動点)で好みが変わる
APEX PRO
(steelseries製)
神器③
ヘッドセット
敵の方角や距離を把握するため、選手は銃撃音や足音に耳をすませる。マイクを通した仲間との連携もeスポーツの見所だ
膨張する
eスポーツマネー
スポーツビジネスの
フロンティア
トヨタ自動車、Louis Vuitton、Coca Cola――。名だたる企業がイベントや選手のスポンサーに名乗りを上げる。サッカー選手の本田圭佑氏と俳優のウィル・スミス氏が設立した「Dreamers Fund」などはeスポーツチームのGen.G esportsに4600万ドル(約50億円)の出資を決めた。FCバルセロナやマンチェスター・シティといったビッグクラブも続々と参入している。
eスポーツを巡るお金
人気イベントは即完売
eスポーツ大会の収益
eスポーツ大会の収益は2022年に3000億円を超える見通しだ。大小さまざまな大会がほぼ毎日、世界のどこかで開かれている。Intelはオリンピック・パラリンピックに合わせ、2020年に東京でイベント開催を予定する。
eスポーツ大会の収益構造
収益構成を見ると、スポンサー料が過半を占める。一方、サッカーなど既存の人気スポーツはテレビなどで試合を中継するための放映権料が富の源泉だ。今後はeスポーツでも放映権収入が膨らむとみられている。
億万長者も夢じゃない
eスポーツ大会の賞金総額
高額賞金も注目の的。8月に中国で開催された「The International 2019」の賞金総額は3433万ドル(約37億円)、優勝チームのOGは1562万ドル(約17億円)を手にした。ゴルフ最高峰の四大メジャーの賞金総額は合計で約4500万ドル(約50億円)だった。
Aichi Sky Expoで開かれた「Rainbow Six Siege」のPro League Season10 Finals。世界各地のトップ選手が優勝を争った(11月10日、愛知県常滑市)
エンタメ産業の主戦場
ゲームの市場規模
2018年のゲームの市場規模は世界で1379億ドル(約15兆円)で、映画や音楽を上回る。スマートフォンの登場と通信技術の進化がゲームの間口を広げ、市場成長は一段と加速している。今では娯楽産業の主役だ。
ゲームジャンルは7種類
スポーツ
サッカーや野球、レーシングなどスポーツをゲームにしたもので、ルールがわかりやすい。競技団体と協力関係を築く事例も増えている
格闘
パンチやキック、必殺技を駆使して闘う。相手の動きに合わせ素早く技を繰り出す反射神経と入力操作の正確性が試される
RTS
リアルタイムストラテジーの略。軍隊の指揮官になり、敵国の攻撃や補給体制の整備を進める。複数のタスクを同時処理する能力が必要
MOBA
マルチプレーヤーオンラインバトルアリーナの略。プレーヤーが1つずつキャラクターを操作し、チームで敵陣地を破壊する
シューティング
銃火器を打ち合って敵チームの制圧をめざす。銃撃音などで敵の位置を把握したり、素早く正確に銃撃したりする能力が必要
トレーディングカード
様々な能力値や特徴が設定されたカードを駆使して戦う。手持ちのカードを選んだり、カードを切ったりするためには高い戦略性が必要
パズル
絵柄をそろえたり、ブロックを組んだりする。老若男女で楽しめるが、制限時間が迫る中での瞬時の判断や思考力など必要能力は高い
デジタル世代のメジャースポーツ
バンダイナムコエンターテインメントが毎週火曜に開く「FIGHTING TUESDAY」。「鉄拳7」や「ドラゴンボールファイターズ」の腕を競いに100人規模の参加者が集まる(11月14日、中野区)
スポーツのファン数
2022年にはeスポーツのファンは6億4000万人となり、野球を上回る規模にまで達するという。カジュアル層から本格派まで含めると、世界のゲームプレーヤー数は22億人とする試算もある。eスポーツの潜在力は高い。
ファンの年齢層
eスポーツの視聴環境
地域別のファン
eスポーツファンは総じて若く、16~34歳が70%超を占める。地域別には中国や韓国といった先進地を抱えるアジアが目立つのも特徴だ。注目の試合は国境を超えたライブ配信で視聴者を集める。「若年層」「アジア」「デジタル」の3つのキーワードを兼ね備えるスポーツは少なく、資金提供するスポンサー企業にとって大きな魅力になっている。
eスポーツがポストテレビの鍵に
Twitchの累計視聴時間
eスポーツの観戦は動画配信が主流。Amazon.comの「Twitch」、Googleの「YouTube」、Microsoftの「Mixer」が主要サービスで、最大勢力のTwitchは3か月の視聴時間が30億時間に迫る。日本ではCyberZが運営する「OPENREC.tv」も人気だ。中国ではテンセント系の「闘魚」や「虎牙」がファンを集める。最近ではテレビ局もeスポーツ番組に力を入れ始めている。
プロ並みの腕前と巧みな話術で人気を集めるのがストリーマーだ。トップクラスは配信収益だけで月数千万の収入があり、宣伝力に目を付けた企業からスポンサー料を受け取るケースもある。ストリーマーの去就はeスポーツ界の関心事。8月にはTwitchのトップストリーマーだったNinja氏がMixerとのパートナー契約を発表して驚かせた。
躍進する中国
迎え撃つ米国
Tier1は米中韓
日本は存在感薄く
国別獲得賞金の推移
eスポーツでも覇権争いを繰り広げるのが米国と中国だ。選手の国別に獲得賞金を集計すると、近年は中国の躍進が際立つ。現在のeスポーツ界はこの2か国に韓国を加えた3カ国がTier1。そこにフィンランドやフランスなど欧州勢が続いている。日本選手は格闘ゲームでの活躍が目立つものの、MOBAやシューティングの大会ではまだまだ存在感が薄い。
eスポーツを覆う
紅い傘
タイトル別賞金総額TOP10
(2018年)
順位 | タイトル名 | 賞金総額 | 販売・運営会社 |
---|---|---|---|
1 | Dota 2 | 4145万ドル | Valve Corporation |
2 | Counter-Strike: Global Offensive | 2268万ドル | Valve Corporation |
3 | Fortnite | 2005万ドル | Epic Games40% |
4 | League of Legends | 1455万ドル | Riot Games100% |
5 | PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS | 775万ドル | Bluehole11.5% |
6 | Overwatch | 660万ドル | Activision Blizzard5% |
7 | Heroes of the Storm | 527万ドル | Activision Blizzard5% |
8 | Arena of Valor | 519万ドル | Tencent100% |
9 | Hearthstone | 471万ドル | Activision Blizzard5% |
10 | Call of Duty: World War II | 428万ドル | Activision Blizzard5% |
資本の力でeスポーツの支配を強めるのが中国のテンセントだ。自社で人気ゲーム「Arena of Valor」を制作しつつ、有力タイトルを持つゲーム大手のActivision BlizzardとUbisoftの株式を5%所有。「League of Legends」のRiot Gamesは完全子会社だ。「Fortnite」のEpic Games、「PUBG」のBlue Holeにもそれぞれ40%と11.5%を出資する。高額賞金のタイトルを並べると、テンセントの影響力がわかる。中国政府は2019年4月にeスポーツ選手や大会運営者を新たな職業と公認。官民挙げてeスポーツ大国を目指している
五輪の正式種目も?
先入観の払拭を
盛り上がりを見せるeスポーツ。勢いに乗ってオリンピックの正式種目を目指す動きもあるが、国際オリンピック委員会の「お墨付き」にはハードルも残る。著作権の扱いや暴力描写、過度にのめり込んで生活に支障をきたす「ゲーム障害」は業界関係者が避けては通れない課題だ。一方、根拠のない「ゲームは悪」とのイメージは払拭されてもいい。ゲームの腕を競うことで国境を越えた交流を深めたり、努力や才能を認められたりして生き甲斐を手にする若者も多い。先入観を捨てて、eスポーツに注目してみよう。