#2 社会保険・税金がわかる

給与明細からたどる
お金のこと


シリーズ1回目では「額面」と「手取り」の違いについて説明しました。今回はそこから「天引き」、つまり手取りの前に給与からあらかじめ引かれるお金について説明します。

企業に勤める多くの人はこの天引きによって税金や年金、社会保険料を支払うため、具体的なことが見えにくくなっています。ただ、それでは自分が一所懸命に働いて得たお金が、知らないうちに引かれているということになってしまいます。どんな理由で、どういう仕組みなのか、給与明細から税制や社会保険を見ていきましょう。

前回、給与明細は「勤怠」「支給」「控除」の3つで構成されていると説明しました。この「控除」の欄に、天引きされた税金や社会保険料の金額が記載されています。

企業によってはここに労働組合費や、団体保険の保険料などの天引きもあり、項目は少し異なります。みなさんに共通の税と社会保険を中心に、具体的にみていきましょう。

4種類ある社会保険料

会社員が支払う社会保険料は健康保険、厚生年金、雇用保険、介護保険(40歳から)の4つです。病気、ケガ、介護、失業、労働災害などのリスクはいつどこで遭遇するか分かりません。

社会保険はそんな不測の事態を国民がお互いに資金を出し合ってともに助け合う公的な保険制度です。財源となる保険料は会社と従業員がともに負担し、足りない分は国庫で国が負担して補います。みなさんの給与からはこの保険料が天引きされています。ほかにも会社が保険料を全額負担する労災保険があります。

みんなが入る健康保険

「国民皆保険」ということばを聞いたことがあるでしょうか? 日本では全ての国民が公的医療保険に入る仕組みとなっています。加入すると病気やケガの治療費のうち負担は原則3割ですみます。学生時代は親の扶養のもとにあれば、自分で保険料を支払う必要はありませんでしたが、会社に入ると自分で支払う形になります。

健康保険組合の種類主な被保険者
会社の組合健保大・中規模の企業で働く人
協会けんぽ中・小規模の企業で働く人
共済組合国家公務員・地方公務員
国民健康保険組合自営業など
老後以外も保障 厚生年金

国の年金制度は人生のリスクに直面したときの生活保障を目的に、国民が加入する国の「保険」制度です。日本の年金制度には1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金があります。さらに企業によっては3階部分の企業年金などもあります(企業年金については連載第3回でみていきます)。

国民年金は原則20歳から60歳まで加入が義務付けられています。会社員や公務員になると国民年金の上乗せ部分である厚生年金に加入することになります。厚生年金の保険料は会社と折半して納め、そこから国民年金にも支払われます。

原則65歳になると年金として受け取れます。老後の年金だけでなく病気やケガで仕事が制限された時の「障害年金」、亡くなった時に家族に支給される「遺族年金」としての役割もあります。

失業に備える 雇用保険

会社を辞めたり失業したりして職探しをする時に失業給付が受けられます。会社に在籍している間も、資格勉強などに支払われる教育訓練給付や育児休業給付を利用できます。

40歳から支払う 介護保険

40歳になると加入するのが介護保険です。健康保険と一緒に保険料を支払うことになります。介護を受けることになった時に、原則自己負担が1割になる制度です。

健康保険・年金の額は
どうやってきまるの?

社会保険や年金の保険料は給与に一定の保険料率をかけて計算します。少し複雑ですが、ある会社員の9月の給与を例に計算方法をみてみましょう。

まず厚生年金、健康保険、介護保険の保険料は毎月の給与金額のかわりに「標準報酬月額」というものに料率をかけて決まります。毎月の給与は変動が大きいため、毎年4~6月の支給額から平均月額を出します。これを金額ごとの「等級」に分け、定められた料率をかける仕組みです。

健康保険料の料率は協会けんぽの場合、地域によって異なり、金額は協会けんぽのサイトなどで確認できます。健保組合は組合ごとに保険料率を設定しています。社員が負担する保険料は健康保険が全国平均で約5%、厚生年金が9.15%、介護保険が0.8%で、合計約15%が給与から引かれることになります。

一方、雇用保険は毎月の給与総額(基本給+手当)に雇用保険料率をかけて金額が決まります。料率は失業保険の受給者数などに応じて毎年見直されます。2022年度は一部業種を除く一般の事業で社員の負担する保険料率は0.3%となっており、10月からは0.5%へ引き上げられます。

賞与にも保険料がかかり、賞与の支給時に天引きされます。

稼ぐ人ほど高くなる
所得税・住民税

給与明細から天引きされる税金は所得税と住民税の2種類があります。

本来は税金を納める義務のある人が自ら計算し、申告して納める必要がありますが、みなさんに代わり、会社が計算して天引きすることによって納税しています。

「所得税」は個人の「所得」に対してかかる税金で、「国税」として国に納付します。 所得が高い部分ほど税率が上がる「超過累進税率」が採用されています。

「住民税」も個人の「所得」に対してかかる税金で、居住する自治体に納付します。税額の計算方法が所得税とは異なります。

税金はどうやってきまるの?

※所得税額に加えて復興特別所得税(所得税額 ✕ 2.1%)がかかります
1年単位で決まる

税金は所得額の確定など様々な段階を経て最終的に決まります。給与明細では税金は毎月引かれていますが、計算の際には月々ではなく1年間という単位で考えます。

収入と所得は違う

所得税、住民税とも、みなさんの所得に対し課税されます。まず「所得」とは何かを把握しておきましょう。所得は収入とは異なり、収入からみなさん共通の費用や個別の費用を差し引きして金額が決まります。

所得税でみていきましょう。まず共通して引かれるのが「給与所得控除」です。みなさんは会社で働くためにスーツを買ったり、スキルアップを目指して勉強したり、お金を使いますよね。この必要経費を収入から差し引いたものが「給与所得」です。例えば年収350万円の場合、控除額は123万円です。一般的な給与水準の場合、年収の6~7割が給与所得の金額になります。

それぞれの事情を考慮した個別の「所得控除」もあります。扶養する家族が多ければ支出は多くなりますし、医療費の負担が重い人もいます。厚生年金や健康保険などの社会保険料費も控除の対象です。控除は全部で15種類あり、それぞれ金額や上限が決まっています。これらを差し引いたものが「課税所得」となります。

税率は所得によって変わる

様々な控除をした後の「課税所得」には、金額ごとに税率が定められています。「超過累進税率」といい、所得が多いほど税率は高まり、5~45%の幅があります。課税所得が195万円以下の場合は5%ですが、4000万円を超えると上回った部分に45%かかります。

課税所得金額税率
195万円以下5%
195万円超 330万円以下10%
330万円超 695万円以下20%
695万円超 900万円以下23%
900万円超 1,800万円以下33%
1,800万円超 4,000万円以下40%
4,000万円超45%
税額が減る控除もある

税率をかけた後にさらに引かれるのが「税額控除」です。一例が住宅ローンで、一定基準を満たす場合、年末のローン残高に応じて税額から差し引くことができます。最後に2011年の東日本大震災の復興のため導入された復興所得税2.1%をかけて最終的な税額が決まります。

入社2年目から住民税がかかる

所得税が「その年の所得」にかかるのに対し、住民税は最終的に決定した「前年の所得」をもとに計算、課税されます。新入社員のみなさんは、もし前年にバイトで100万円を超えて稼いでいれば、住民税を払わなければいけませんが、そうでなければ、今の会社の給与から住民税が引かれるようになるのは来年の6月からです。この時、急に給料が減ったと感じるかもしれません。

住民税の計算方法は所得税と異なります。課税対象者全員が同額払う「均等割」と、所得に応じて払う「所得割」があります。均等割は市区町村と都道府県合わせて5000円、所得割は税率が一律10%です。住民税にも所得控除があり14種類あります。

税金が返ってくる?
確定申告と年末調整

所得税は会社がその年(1月1日から12月31日)の所得を見込み、税額を試算して給与から天引きします。これを源泉徴収といいます。実際の税額を確定するため、会社員が年末になるとする必要のある手続きが「年末調整」です。みなさんも今年の11月から12月にかけて、会社から年末調整の書類が届くはずです。その結果、払いすぎた税金が戻ってきたり、足りない分が引かれたりします。

会社勤めの場合、自ら税額を計算して納める「確定申告」は基本的には必要ありません。もし年収が2000万円を超えたり、給与所得以外の副収入などの所得が20万円超あったりすると、自分で確定申告する必要があります。また、医療費が年間10万円を超えたときには、自分で確定申告をすると超過部分が所得控除されます。確定申告の期間は確定申告の期間は毎年2月16日から3月15日です。

他に引かれてる?

社会保険料と税金以外にも会社によっては、労働組合費や福利厚生施設の費用、財産形成貯蓄制度(財形)や社内預金による貯蓄金額、会社が契約主となって社員が加入する「団体保険」の掛け金などが、天引きされます。

Quiz

所得税の税率は「超過累進税率」という方式がとられ、5%から45%の7段階に区分されています。

課税所得が330万円以下だと税率は10%ですが、330万円を超えると20%に倍増します。ある年のAさんは課税所得が330万円でした。Bさんは、課税所得が340万円でした。AさんとBさんの「手取り」を比べると、どちらが多かったでしょうか?

クイズの答え

課税所得340万円のBさんのほうが「手取り」の額は多くなります。

「330万円 × 10% = 33万円、340万円×20% = 68万円」と計算してしまった人もいるかもしれません。これだと稼ぐほど損となってしまいます。しかし、実際の計算は以下のように行います。より稼いだ金額が多いほうが手取りが少なくなるということはありません。

課税所得330万円の計算:
① 195万円×5% = 9万7500円
②(330万円-195万円)×10% = 13万5000円
合計 ①+② = 23万2500円(所得税額)
「手取り」330万円-23万2500円 = 306万7500円

課税所得340万円の計算:
② 195万円×5%=9万7500円
②(330万円-195万円)×10% = 13万5000円
③(340万円-330万円)×20% = 2万円
合計 ①+②+③ = 25万2500円(所得税額)
「手取り」340万円-25万2500円=314万7500円