歌と踊りと物語と、全ての要素が詰まったエンターテインメント「ミュージカル」は世界中で多くの人を魅了しています。突然歌い出すという非日常感に苦手意識を持っている人もいますが、普段は表現されない気持ちを高らかに歌い上げるからこそ、日常をより素晴らしく美しく描き出し、人の心に強く残るのです。
ミュージカル鑑賞歴25年、ミュージカルを愛する私が最高だと心を震わせるミュージカル作品を10作品選び抜きました。ぜひ一度、ミュージカルを観てみてください。ミュージカルはあなたの人生を変えます。
ミュージカルとの出会い
私が生まれて初めてミュージカルを観たのは4歳の時、劇団四季の『夢から醒めた夢』でした。初めての空間、ふかふかの座席からは足が地面に届かずぶらぶらしていました。開演ブザーが鳴り響き、息をするのもはばかられる静寂の後…私の全身を音が突き抜けていきました。
心臓をそのまま鷲掴みにして揺さぶられたかのような、ダイレクトに伝わる感情や感動がありました。心を奪われるとはまさにこのこと。4歳ながらに「なんだ、これは…」と、衝撃を受けたのをよく覚えています。
ミュージカルとの衝撃的な出会いを経て、今もなお「ミュージカル」を深く愛している私が選ぶ最高のミュージカル作品をご紹介します。
ちなみに、ミュージカルオタクにも色々ありますが、私は物語重視派です。他には、役者重視派や劇団重視派などがいるため、一口に「ミュージカルオタク」「ミュージカル好き」を名乗っても話が合わないことが多いです。ミュージカル好きだからといって同じ空間に集めると思ったより盛り上がらないのでお気をつけください。
一度と言わず何度でも観たいミュージカル
ミュージカルのよさは、舞台ならではの「一度きり」の時間を過ごせるところにあります。役者さんの呼吸一つ、観客の反応一つとっても、同じ舞台は二度とはありません。そのミュージカルを観にいく時の自分の気持ち、環境によって受け取るものも変わります。何度見ても心に受けるものが違う。だからこそ、何度でも観にいってしまう、それがミュージカルです。
Wicked(ウィキッド)
気に入ったミュージカルは本当に何度でも観に行ってしまうのですが、中でも日本(東京・名古屋・大阪)、NYのブロードウェー、ロンドンと3箇所で合計20回以上観に行っているのがミュージカル『Wicked』です。
あらすじ
1939年に公開されたアメリカのファンタジーミュージカル映画『オズの魔法使い』よりも前のお話。『オズの魔法使い』に登場した善い魔女グリンダと緑の肌をした西の悪い魔女は実は友達だった、というところから始まる物語です。
『Wicked』の原作は1995年にグレゴリー・マグワイアが刊行した『オズの魔女記』が元になっています。
おすすめポイント
善と悪、魔法、友情、そして恋、人生に必要なものは全て『Wicked』に詰まっていると言っても過言ではないと思います。舞台転換時に幕を下ろすことなく歌と踊りの一部として変化させて行く様子など、非常に完成度の高い作品です。開演ブザーが鳴るだけで涙が出る。
特に1幕最後のエルファバの「Defying Gravity(日本曲名:自由を求めて)」は自分も飛び立ちそうな気持ちになる程、めちゃくちゃかっこいいです。1幕終わりなのでこの後休憩に入るのですが、放心状態になります。
私が初めて観たのは19歳くらいだったと思いますが、観るたびに新しい発見のある作品です。日本では現在公演されていませんが、再演されることを願っています。サントラも最高なのでぜひ聞いてみてほしいです! アナ雪で「Let it go」を歌って日本でも一躍有名になったイディナ・メンゼルがブロードウェーでの初演をつとめました。
このミュージカルが好きすぎて、私の部屋のインテリアは『Wicked』をモチーフにして作られています。
自分の持つ容姿、能力、全てのものが人に疎まれてしまうエルファバは誰にも認められずに孤独に生きてきました。家族でさえも心を許せる人などいなかったのです。そんな彼女が初めて自分のことを認めてくれる人と出会い、そして…自分が自分のままで生きることを受け入れます。自分の活かし方、世界との折り合いのつけ方までじんわりと心に染みるミュージカルです。
Wickedについては語っても語っても足りないのでこれくらいにします。
Rent(レント)
『Wicked』の初演エルファバを演じ、『アナと雪の女王』でエルサを演じたイディナ・メンゼルがモーリーン役で出演しています。
あらすじ
ニューヨークで一旗上げるという夢をみながら貧乏生活を送っている若者たちに焦点をあて、夢を叶えるまでの時に虚しささえ覚える努力、友情、恋、そして大切な人の死、テーマは重たいのですがそれを明るく力強く作品に仕上げています。
おすすめポイント
冒頭で歌われる「Seasons of love」は多くの人に愛される曲となりましたが、その意味を噛み締めながら聞くとしょっぱなから涙が止まりません。登場人物はみんな破天荒で個性が強いです。一番好きなのはやっぱりエンジェル。色々あったからなんだろうけど、心が美しく一緒にいたくなるような人だと思います。
エリザベート
オーストリア皇后エリザベートの一生を描いた作品です。
あらすじ
皇后になり、窮屈な宮廷生活を嫌い、自分らしく自由気ままに生きることを追い求めたエリザベートですが、最後には暗殺されてしまいます。そんな彼女の人生を、死に愛されたという設定で描いたこのミュージカルです。
おすすめポイント
宝塚版では、男役が演じる死神トートが中性的でまさしく「死」です。美しくて怪しい、私は特に春野寿美礼さんのトートが好きです。歌が圧倒的に上手だから!
自分の生き方に窮屈さを感じた時、私の頭の中では「私だけに」が流れます。孤独でも強く美しく生きて、生き切ること、そうすれば最後に暖かな死を迎えられる…? 死に愛されるとはどういうことなのか、自分なりの解釈を見つけてほしいです。
エリザベートは、東宝でも何度も上演されています。こちらは宝塚とは違って、男性も出演しているのですが、アンサンブルの重厚感が圧倒的でめちゃくちゃかっこいいです。
東宝の『エリザベート』の方が先で、小学校高学年の頃に初めて観に行ったのを覚えています。母親は「まだストーリーが難しいかな…?」と思っていたそうですが、このストーリーは私にだだハマりしました。
宮廷生活はしていないものの、他の人と考え方が違うことが多く窮屈さを感じていたがゆえかと思います。自分のことは、自分が信じなきゃいけないんだと思いこの辺りからたくましさを増していったように思います。
夢から醒めた夢
私が生まれて初めてみたミュージカルは『夢から醒めた夢』でした。赤川次郎原作の小説を元に作られています。
あらすじ
冒険や知らないものに出会うことが大好きな少女ピコが、夢の配達人の案内で夢の世界を旅します。人々の楽しい気持ちが眠る夜の遊園地で、交通事故で死んでしまった少女マコと出会い、「私と1日入れ替わってほしいの。お母さんにお別れを言えなかったから…」とお願いされたピコは、死後の世界を見てみたかったし! ということで怖がりながらも快諾。死後の世界で出会った人たちの生き方や、死ぬことってどういうことなのか、生きることってどういうことなのかについて描いたミュージカルです。
説明しているだけで泣きそうになってきた。
おすすめポイント
1日で元に戻らなければ死んでしまうというリスクを負いながらも、マコのために死後の世界に行くピコ。考えなしかもしれないが、これが私なんだ! と胸を張って言える様は羨ましさすら覚えます。観た後には心臓が洗濯されて透明になっているような気持ちになれる、美しいミュージカルです。
ファミリーミュージカルとして扱われていますが、大人も心にくると思いますよ! 劇団四季のオリジナルミュージカルです。
私はこのサントラをずっと聞いていました。カラオケにも入っているので、カラオケに行くと必ず歌います。セリフまで完璧に覚えています。
『夢から醒めた夢』略して『夢醒め』も何度観たか分からないくらいです。10回以上は観ているはず。ピコのように元気に、人に優しく、そして自分を持っていたいと思っています。
ディズニーミュージカル
誰にオススメしても間違いないであろうディズニーミュージカル、その中でもお気に入りをご紹介します。
美女と野獣
2017年4月21日に実写版映画が公開されることで再度注目が集まっている『美女と野獣』ですが、劇団四季のミュージカルも相当素晴らしいのでぜひ観てください。
ミュージカル版のみどころ
ストーリーはアニメの映画と同じですが、歌は少しずつ異なります。舞台になったことでより素晴らしくなったのは何と言っても「Be our guest(日本曲名:おもてなし)」のシーンです。蝋燭台のルミエールが城に迷い込んだベルを晩餐会でおもてなしするシーンですが、魔法をかけられたたくさんの食器、ナフキン、スプーン、フォークたちが賑やかに舞台上を彩ります。ミュージカルは初めて観るという人に、ミュージカルらしさを最大限味わってもらうためにも『美女と野獣』をオススメしたい!
私が一番好きなのは、1幕の最後に野獣がテラスで歌う「If I Can't Love Her(日本曲名:愛せぬならば)」 です。人間に戻りたい気持ち、ベルに愛されたい気持ちが切ない独唱です。カラオケで歌うには音が低すぎて歌えないのだけが悔しいです。
ドライブに行くときはいつも『美女と野獣』のサントラをかけていました。おかげで弟は冒頭の「昔々…」を丸暗記していました。こちらもカラオケに入っているので歌いますが、セリフの部分も完璧に歌えます。
エマ・ワトソンのベルは聡明だけれど頑固な雰囲気をバッチリ掴んでいて最高間違いなしだろうと思います! 東京フィルハーモニー交響楽団と映画がコラボするライブ・オーケストラも観に行く予定です。
また、普段「日本語吹き替え版は観なくていっか」と思っているみなさん、『美女と野獣』の日本語吹き替え版は本気です。まじかよ! と思うレベルのミュージカル女優・俳優さんが声を当てているのです!
劇団四季『Wicked』の初演でエルファバを演じた濱田めぐみさんがタンス夫人マダム・ド・ガルドローブを演じます。私は当然、字幕も日本語吹き替え版も両方とも観に行きます。
ライオンキング
誰もが知っているアニメ映画ライオンキングをミュージカルにしたものです。
ミュージカル版のみどころ
人形浄瑠璃の手法を取り入れて、人間が動物を演じるということを自然に、かっこよく、そして表現力高く行ったのが『ライオンキング』です。ストーリーはアニメ映画の通りですが、舞台ならではの大迫力のシーンがあります。それが、ヌーの暴走シーン。スカーにはめられたシンバとムファサが…という思い出すだけでも涙が出てくるシーンなのですが、地響きと共に追い詰められる様子には、こちらも鼓動が激しくなります。
お前は何者なのか、過去から逃げるのかそれとも戦うのか、「ハクナマタタ」も大切だけれど、生きることの辛さや、過去と戦うこと、そして連綿と続く命の繋がりについて感じられる作品です。
アイーダ
アニメ映画にはなっていないので知らない人も多い『アイーダ』ですが、こちらは『Wicked』よりかなり恋愛よりな、友情と恋と生きる道のお話です。オペラのアイーダとはまた異なります。
あらすじ
エジプトがヌビアを侵略し、捕まえてきた奴隷の一人、アイーダ。彼女は実はヌビアの王女だったのですが、エジプトの人たちはそんなことは知りません。既に捉えられていたヌビアの民は、アイーダに救いを求めます。様々な思いが交錯し、そして…。
おすすめポイント
高校生の頃に好きだったミュージカルで、受験勉強に疲れたある日、唐突に京都まで出かけて一人で舞台を観たのを覚えています。
奴隷となったアイーダが王国の将軍でなんでもできるはずのラダメスが父に指示されるままに過ごす日々にうだうだ言っている時に「運命が気に入らないなら変えればいい。手枷もない…卑しい奴隷の同情をひこうだなんて、好い気なものね。」と言い放つ一言がとても好きです。私が誰かに何かを強制されそうになると頭に必ず「運命が気に入らないなら変えればいい」という声が聞こえます。
これが、濱田めぐみさんだ! 『Wicked』ではエルファバ、『ライオンキング』ではナラ、『アイーダ』ではアイーダを、そして『美女と野獣』実写映画でタンス夫人をされるお方の歌声です!
観ると元気になるミュージカル
ミュージカルとはそもそも、音楽、歌、踊り、セリフの全てを融合させた演劇のことをさします。パリのオペラがウィーンでオペレッタに発展し、ニューヨークに持ち込まれた時にはショーになっていました。そのショーが発展したものがミュージカルになったと言われています。なので、基本的には賑やかで楽しく明るく、最後はハッピーエンド! それがミュージカルなのです。
観ると元気になるミュージカルをご紹介します。
ヘアスプレー
2002年にブロードウェーで上演され大ヒットした作品です。8年前くらいに日本来日公演がありました。映画化されているミュージカルなので手軽に観てもらえると思います。
あらすじ
体が大きいだけの普通の女の子だったトレーシーが、テレビ番組に出演することで一躍有名人になるお話。その彼女は黒人差別撤廃運動に参加し、追われる身となる。みんなで楽しく踊ればいいのに! という純粋な思いと社会との差にやるせなさを感じつつも、全体をかっこよく楽しい歌と踊りが包んでおり、最後はハッピーエンド! 観終わると爽快な気分になります。
おすすめポイント
とにかく楽しい作品です。みんなが当たり前にやっている差別、「なんでそんなことするの?」という思いを持つことは常識はずれでしょうか? 当たり前の中に混ざっている、当たり前じゃないことを純粋かつ無鉄砲なトレーシーが引っ張り出してきてみんなが楽しい方向に持っていってしまいます。
そうだよ、みんなで歌って踊ればいいじゃない! ラストの「You can't stop the beat」は楽しすぎて通勤途中に聞くとスキップしたくなるくらいです。
動画はラストなので、作品を観てから最高潮の盛り上がりの中で観たいわ! という方は再生しないように気をつけてください。
きっとうまくいく
ここで唯一のインド映画です。3時間もある超大作なのですが、3度も観ました。楽しいし、生きる楽しさを見つけられるような作品です。英語名は『3 Idiots』三馬鹿って意味ですね。
あらすじ
インドでは勉強してエンジニアになることが成功することだと言われています。将来が有望視されるインドの工科大学に入学した3人の男たちのお話。大学卒業以来連絡が取れなくなっていたランチョーの居場所が分かった?! ということで呼び出された悪友ファランとラージューがランチョーを探しに行きます。ランチョーには実はとんでもない秘密が…
おすすめポイント
教育問題やインドの若者の自殺率の高さなどにも触れていて、インドってそうなんだ…と勉強になりました。もしかしたら、日本よりも厳しいかも。当たり前の中に埋もれない生き方をするランチョーに、当たり前の中で自分のやりたいことを我慢していたファランと、神にすがるラージューの2人が自分の生き方を見つけ出していく、そんな友情に涙が止まらなくなります。“Aal Izz Well”(アール・イーズ・ウェル)って言いながら生きたい! あと、ランチョーが魅力的すぎて好きになります。
ララランド
「セッション」で一躍注目を集めたデイミアン・チャゼル監督が、ライアン・ゴズリング&エマ・ストーン主演で作り上げた、これぞミュージカル!! 賛否両論ありましたが、舞台のミュージカルとミュージカル映画の間、今までになかったミュージカルです。今までになかったミュージカル映画、とも言えます。
あらすじ
オーディションに落ちてばかりの女優志望のミア(エマ・ストーン)は、ピアノの音色に誘われて入ったジャズバーでジャズピアニストのセバスチャンと最悪な出会いをする。後日、別のパーティ会場で不機嫌そうに80年代ポップスを演奏するセバスチャンと再会したミア。こんな二人じゃ、せっかくの夜景も台無しだなと言いながら別れたが、お互いの才能と夢に惹かれあっていく。
おすすめポイント
監督は、ミュージカルが苦手な人も観てもらえるミュージカル映画にしたかったそう。ライアン・ゴズリングとはミュージカル好き者同士でかなり盛り上がったのだとか。そう、だからこの映画はミュージカルとミュージカル映画の間にある。そのため、ミュージカルがめちゃくちゃ好きな人からは「中途半端」と言われ、ミュージカルがそんなに好きではなかった人には「なにこれ最高?!」とハマり、ミュージカルが嫌いな人には「やっぱりミュージカル無理」と言われている。
ストーリーはそこまで重たくない、ミュージカルの元来のショーっぽさ、明るいハッピーエンド感が出ている。全体的に夢追い人が描かれているため、わくわくした気持ちと期待を打ち砕かれた時の絶望が上手に描かれている。ラストは涙が止まらなくなる。完全にやられました。
サントラの1曲目は、渋滞中の高速道路でかけたい一曲。GWの帰省ラッシュにはぜひこの音楽をかけて、みんなで歌って踊ってしてほしいものです。
予告をもう一度。まだ上演中なので、ぜひ! ぜひ一度映画館で!
ライアン・ゴズリングがかっこよすぎて、関連作品も観てしまいました。ララランドの後に観て楽しくなれたのはこれだったのでぜひこちらも。
熟年離婚を切り出された”ダサい”男を、バーで女を取っ替え引っ替えしているジェイコブが男らしくイメージチェンジさせて…いくだけの話ではないのです。しっちゃかめっちゃか、怒涛のラストは爆笑、必見! エマ・ストーンも出ているので、ララランドを思い出すこと間違いなし。
まとめ
ミュージカルが好きすぎてものすごく長くなりました。私は物語重視派なので、ストーリーはどれも良いものばかりだと思います!!!
生きるって、自分らしくって、どういうことなんだ。戦え、突き進め、やってやれ! 楽しくな!
全体的にこういうメッセージが込められている作品が大好きです。どれだけ頑張ってもうまくいかないことだってもちろんある人生。そのほろ苦さも含めていかに楽しむかが全てだと思います。全部おすすめ。全身全霊でおすすめ。
『Wicked』は再演され次第行きます。劇団四季のみなさん、よろしくお願いします。もしくは海外から来日公演とかいかがですか。待ってます。