兎の耳

Webライターにいつかなりたい人の記事

灰皿をきれいに洗う

本文

100均のレジ横に大抵ある、四角い銀色の蓋つき灰皿。
灰と吸い殻放り込み、蓋を閉めれば火が消える。
いっぱいになれば、内蓋を外して中身を捨てる。

吸い殻放り込んで、放り込んで、放り込んで。
この灰皿がいついっぱいになるか分からない。
吸い殻が「もう入らん」と教えてくれるまで。

ある日中身を捨てた時、何気なく底を眺めると、わずかふくらみができていた。
買い直せば済むが、あっさり物を捨てるのが苦手なので、いっそ大掃除をしようと思った。

まずは灰皿をざっと水で洗い流す。
灰はサラサラ溶けていき、暗い排水溝の中へ消えていく。
灰皿に目をやれば、まだまだ汚れている。あのふくらみもある。
コレは何なんだろうかと、指先でちょっと触れる。
少しだけ固く、水をかけても揺るがない。
ただ、鉄が変形したものではなさそうだ。
部屋から小さなマイナスドライバーを持ってくる。
そのふくらみと、底面の隙間へ、ドライバーを滑り込ませる。
これはちょうど、岩礁にへばりついた貝をはがして取るような感覚だった。

メリっと、一枚の黒い塊が剥がれ落ちる。
それは一見醜くて、すぐに捨てるべきだろう。
しかし塊の底を見てみると、灰皿へぴたり張り付いていたために、黒くつややかに輝いている。そして滑らかで、よく磨かれた黒曜石のように見えた。

そうだ、これはタールの塊だ。
まじまじ眺めてしまうほど、意外と奇麗なのだ。が、気を散らしてはいけない。
ごしごしと、次へ次へと、ドライバーで底を擦る。
次々に、同じような塊がはがれていく。
もう十分だと思って、塊を取り除き、灰皿に水を注ぎ、ざっと捨てる。

何度か繰り返していると、次第に灰皿が美しくなっていく。
灰皿が美しくなるとは何事なのか?
擦っても磨いても、どうしたって取れない染みついたヤニの色が、金属の壁にある、床にある。黄ばみが金属の輝きに呼応しているのだ。
だから眺めてみると、黄金の茶室がまさにこの中へ納まったようなのだ。
遺跡を掘り返したようだった。
久々に呼吸をした灰皿が、その喜びを伝えてくれるようだった。

けれども灰皿を乾かした後、たばこ一本に火をつける。
次もちゃんと洗ってやるからと、灰を灰皿へ放り込む。

自己紹介

何回自己紹介すんだよと……まだ3回目なので良いでしょう。
はじめまして、兎の耳と申します。
私は毎年、新しい灰皿を使うという、マイルールというか、景気付けをやっています。

ただ、喫煙者にとってあるあるかもしれませんが、箱型の灰皿って中身捨てるのが面倒なので、灰皿を二つ以上用意して、いっぱいになったら別の、いっぱいになったら別の、という風にゴミ捨ての手間を減らしたいわけです。

その!昔から使っている方の灰皿を一度マジ洗いしてみてください。
新品より(視覚的に)なんかきれいです。
この文は、それを伝えるだけの文です。