うららの記事一覧 | 今日もだらだら、読書日記。

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私はご都合主義な解決担当の王女である 7

 

新章突入でお待ちかね(!?)媚薬イベント発生───!!! 大人気7巻!
護衛の騎士クリフォードと偽の恋人になった私オクタヴィア。 すると父王が護衛の騎士をもう一人増やすと言い出した!  しかも相手は因縁の相手ルスト……まもなく諸侯会議も開かれるし、仕方ないんだけどすっごく複雑です!!  それに諸侯会議といえば、原作でも発生する媚薬イベントが──断固阻止すべく立ち回ったはずなのに、どうしてこうなった!?

護衛騎士であるクリフォードと偽の恋人になったオクタヴィア。ところが、父王にに呼び出されたオクタヴィアは護衛騎士をもう一人任命するよう迫られてしまう。しかも、新しい護衛騎士候補として連れてこられたのはあのルスト・バーンで……!?

父王カップル(?)の馴れ初め話が面白かった

新たな護衛騎士にシル様の記憶、そして諸侯会議に向けたあれこれ……本編もイベント盛り沢山だったけど、幕間で語られる父王イーノックと王配エドガーの過去の馴れ初め話が印象的でした。あくまで互いに恋愛感情のない夫婦関係、エドガーの妹でありイーノックの恋人であったアイリーンの死によって結ばれた、いわば「共犯者」同士の偽装結婚的ななにかを匂わせるふたり。普段はラブラブカップルを装いながらも実際の関係性は全く違う、殺伐としたもので……あっこれ私が好きなやつや…。

この世界が上位存在によって不自然に歪められた同性愛至上主義社会というのは以前にも語られていましたが、父とエドガーの話を聞いていると更なる何かがありそう。貴族が不自然に同性愛嗜好を持つ傾向があるというだけでなく、王が異性と恋愛すること自体が何らかの強制力によって許されないような何か……?うーん謎が深まってきたぞ。

それはそれとしていい加減未解決のフラグが多いな……

シル様の出自やクリフォードの関係性、兄王子セリウスの記憶の件、セリウスと同じく記憶を操作されたらしきデレク、弟アレクシスの変貌、結局味方なのか敵なのかわからないまま懐に滑り込んでくるルスト・バーン、見え隠れするヤールシュ王子の姿……なんというかクリフォード以外は誰がいつ敵対してもおかしくない──セリウス&デレク&アレクシスの問題の根本には同じ原因がありそうではあるんだけど──所々の問題が解決しないままどんどん他の問題が山積みになっていく感じは正直読んでいてあんまり気持ちよくない、もともと刊行ペースが早い作品ではないこともあって、新刊が出る度にこれどの話だっけ!?と混乱するようになってきたのも気持ちよくない。そういえばヒューと面会する話も今回何も進展しなかったな……。

今回明かされたイーノックとエドガーの話で語られた世界の強制力っぽい話も含めて色々気になる件が多すぎるんだけどとにかく本編の刊行ペースも展開もそんなに早くないので増えていく謎に対して速度が足りない感すごくて(とはいえこのシリーズ初期からそういう部分あった)、そろそろどれか一つでもなんとかなってほしいかも。偽恋人の件だけは決着したけど、意味深に積み上げられたフラグが多すぎるんですよね。

そして公式のあらすじではさもかし今回のメインのように描かれながら最後の最後で思い出したように滑り込んできた媚薬イベントの途中で次巻に続く。混迷していく謎に翻弄されつつラブコメはじまった主役二人!!ほんとこの作品、物語本線は面白いんだけど毎回悪い意味で「ここで切るの!?」ってところで切れるよなあ……。あらすじの書き方が悪いのか、本編の切り方が上手くないのか……どっちもか。

ところで今回、4巻以降長らく「電子限定」で発行されていた当シリーズが4〜6巻の紙本発売を経て遂に紙&電子の同時発売に戻ったのは本当にめでたかった。私は電子書籍派なので購入で困ってたわけではないんだけど、やっぱ紙での発行あるかないかって大きいから……。


ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編1

 

さあ、本当の実力主義を始めよう。
2年最後の「学年末特別試験」を経て、3年生をAクラスで迎えるにいたった堀北たち元1年Dクラス。だが最大の立役者・綾小路清隆がクラス移籍をしてしまう。堀北クラスの生徒たちは混乱と混沌の感情に陥るが――たった一つの残酷な事実がそこには存在していた。堀北たち3年Aクラスは、『綾小路清隆』に勝利せねば、Aクラスで卒業できない。 成長を見せる龍園とBクラス、綾小路のCクラスと一之瀬のDクラスに新たな繋がりが生じる中、3年最初の特別試験『全体、少数戦学力総合テスト』が発表される! Aクラスで卒業できるのはたった1クラス。頂点に立つのはどのクラスなのか! 待望の『3年生編』スタート!

最低のDクラスから這い上がり、3年生の始業式を悲願のAクラスで迎えた堀北達。ところが、担任の茶柱から逆転劇の影の立役者である綾小路が他のクラスに移籍したと告げられる。一方、リーダー不在となったCクラスに移籍した綾小路は、三学年初の特別試験を舞台にリーダーとしての器を試されることとなり……。

各クラスの新たなスタンスが透けて見える前哨戦が楽しかった

綾小路と新たなクラスメイト達の駆け引き、そして綾小路を失った堀北が周囲の人の激励や叱咤を受けて再び立ち上がるまで……綾小路と堀北、両者の視点から描かれる新しい物語が本当に面白かった!今回、綾小路の一人称と同じくらいの分量で堀北の一人称が適宜挟み込まれる形になってましたが、これって3年生編は綾小路清隆/堀北鈴音のW主人公体制だと思って良いのかな?堀北クラスのその後をどう描くのか気になっていたので今後も続く流れなのか気になる所。

そんなわけで綾小路が移籍したのは坂柳を失ってCに転落した旧Aクラス。移籍後初めての特別試験は「龍園クラスとの学力勝負」というAクラスにとっては負けるのが逆に難しいくらいの内容で……勝って当然の試験の「結果」よりも大半のクラスメイト達から値踏みされている綾小路がいかにして自らの能力の高さ・異質性を見せていくのかという「過程」が問われるお話だったんですけど、例によってこれ以上になく完璧に全員を手のひらの上で転がして自分の望み通りの展開を引き寄せていく展開が流石だった。

そして今回の特別試験、Cクラス側の事情を把握してこれまでの勝負に拘る姿から一転して「いかに綾小路に恥をかかせるか」という形で場外乱闘に徹する龍園、綾小路の「協力者」としてこれまでとは違った絡め手で堀北クラスを苦しめる一之瀬……と、各クラスの3年生編における新たな勢力図・スタンスが透けて見える展開なの超良かった。いやしかし一之瀬、一転してワルい女になったな……。

坂柳の退学で不安定になっていたCクラスを特別試験1回であっさり掌握してクラスリーダーの座を掴んだ綾小路。でも正直、今回一度も彼らを「Aクラスで卒業させる」とはいってない気がするんですよね。堀北クラスと拮抗するところまで持ち上げてやるとは言ってるが。2年生編ラストでも軽く言及されてたけど、綾小路って多分どちらかというと4クラスを拮抗させてヒリつく勝負をするのが目的みたいな……いやほんとうになんというか、人の心が中途半端に芽生えた結果これまで以上に人の心がないみたいななにかが……。

移籍をキッカケに一気に変わってしまった人間関係の中、これまでと変わらぬスタンスで「友人」として接してくれる石崎や明人の存在が唯一の癒やしでした。啓誠や須藤はもともとの評価が高かっただろうから厳しい気がする……あとガチで誤字じゃなかった平田の「綾小路くん」呼び……。

綾小路を失った堀北&周囲の面々の動きが今後とも楽しみ

一方、綾小路の不在を受け入れられない堀北は失意のまま一之瀬率いるDクラスと対決する特別試験に臨むことに。1年生編最初のツンツンぶりはどこへやら、一気に重い女化する堀北が印象的でした。いやまあ堀北って最初から重かったけど……堀北兄への依存が本人も無自覚なまま綾小路への依存にすり替わってたみたいな……。

素直じゃない櫛田や伊吹からの叱咤というか応援というか激励というかなんというか、そして軽井沢との対話によって綾小路への気持ちを自覚して……なんというか、1年生編の序盤で周囲の人間を見下して距離を置いていた堀北がこれだけ沢山の人から心配されて、その気持を受けて再起する展開はメチャクチャ熱かったし、少なくても今巻においては文句なしに「もうひとりの主人公」と言える立ち位置だったのかなと。個人的には素直になれない伊吹のどつき愛・挿絵が最高でした。いやなんなんだよあの可愛い生物は。

堀北のことなんだかんだでほっとけなさそうに見える反面で綾小路からの誘いに揺れる櫛田、いまだホワイトルームからの密偵として機能し続けていることを伺わせる七瀬……と不穏の種も多くて、今後どうなっていくのか楽しみしかない新シリーズ第一巻でありました。七瀬や天沢だけじゃなくて宝泉や椿・宇都宮など影が薄くなりかけていた下級生組も改めて絡んできそうなのは結構嬉しい。

ホワイトルーム関係では2年生編では大きな動きを見せなかった石上、綾小路の父親繋がりだと高円寺や鬼頭も絡んできそうだし、まだ見ぬ一年生がどのくらい絡んでくるのかも含めて今後が気になる。こっちの繋がりだと今回完全に空気化していた神埼とかもどう動くのか気になりますよね。シリーズ完結を踏まえると、ホワイトルーム関係は結構本格的に動きがありそうだよな。

というか椿の正体ひょっとしてあの子なんです……?0巻再読したくなってきた。

スレイヤーズすぴりっと。 『王子と王女とドラゴンと』

 

リナに、ナーガに、あの人その人も大暴れ! 13年ぶり、待望の爆笑短編集
図書館をむしばむ悪(?)を成敗だ! アメリアの正義感はやっぱり騒動を巻き起こし――「『王子と王女とドラゴンと』」 リナ=インバースの自称弟子あらわる!? (金魚のうんち、もとい白蛇のナーガを添えて)――「魔法使いの弟子志願」 喪った剣の代わりを探すリナとガウリイ。 凄腕と噂の鍛冶屋が提示する、剣作りの条件とは――「魔力剣のつくりかた」 元の姿に戻る方法を探すゼルガディスは、ある男と再会する。 ちょっぴり磯臭いハードボイルド短編――「水と陸との間にて」 ドラゴンマガジン掲載の短編に、書き下ろし4編。 さらに文庫未収録SSも大盤振舞。 待望の『スレイヤーズ』短編集新刊!

ある日、とある町を訪れたリナ=インバース。そこで自分の「弟子」を名乗る存在を知った彼女はその真意を問い詰めるため本人に会いに行くが、そこには例のごとくなんか拗らせた「自称・弟子」と白蛇のナーガがいて……!?

久しぶりでいつも通りのようでいつも通りではないドタバタ短編集!

「すぺしゃる」のノリを思い出すリナ単体&リナ&ナーガが活躍する短編に加えてガウリイやアメリアやゼルガディスが登場する書き下ろし短編、合間にドラマガに掲載されたショートストーリーを挟んだ、「スレイヤーズすまっしゅ。」から数えて実に約13年ぶり(!?)のスレイヤーズの新作短編集。

いや〜良い意味でリアルタイムに読んでいた頃から変わらない「いつも通り」のノリ、それでいて登場人物や時系列に囚われずこれまで以上に自由なノリの短編ばかりで楽しかった〜!!「すぺしゃる」と同じリナの一人旅+時々ナーガな前半2編もいつも通り面白かったし、リナとガウリイが2部の序盤で魔剣探しをしていた頃の一幕を描く「魔力剣のつくりかた」とか、短編と入っても基本的に本編前時間軸固定だった「すぺしゃる」では見れそうで見れなかった本編の隙間を描くお話で楽しかったです。というかこのエルフの鍛冶屋、おそらくブラストソード作ったその人…だよな……?

個人的にはやっぱりリナたちと別れて故郷に帰ったアメリアとやはり旅に出ていて最近戻ってきた「グレイシアお姉さん」が二人揃って暴走する表題作「王子と王女とドラゴンと」の衝撃がヤバい。いやあグレイシアお姉さんの正体があの人……というのは以前からどこかで聞いたことあったしそれを知ってるファンとしてはもう待望の展開といっても過言ではないと思うんですけどめちゃくちゃしれっと出てくるし、姉。そしてめちゃくちゃ普通に姉の大言壮語を真に受けるし、妹。知ってたけどやっぱりセイルーン王家本当にツッコミがいないんだよなあ!!!グレイシアお姉さんの挿絵がなかったのがちょっと残念だけどあれはいろいろな意味でなくてよかった気もする。

そして同じくらいズルかったのがリナたちと別れて独りで元の身体に戻る方法を探すゼルガディスがかつての仲間に出会う「水と陸の間にて」。ゼルガディスが主人公ということであらすじにもある通りハードボイルドな展開だし最後にちょっといい話風になって終わるという、スレイヤーズ(短編時空)としては珍しいシリアス風味なストーリーなんですが、その「かつての仲間」というのがアレなので何もかも台無しというか…………一周回って全部シリアスなのが全部シリアスな笑いに変換されていくというか……ヌンサ、下手するとむしろゼルガディス一味の中でも一番くらいのクールな常識人枠のイケメンだった可能性すらありそうなのがズルすぎる。レゾに対する割り切り方とかが人間出来すぎてるんだよな(魚類だけど)……いやなんかでも、ヌンサって割と頭悪いイメージが強かったんだけど…………でもそういえば二枚おろしにされたのはこいつじゃなくて別の魚類だったし確かにラハニムもヌンサのこと「あのハンサム気取り」とかいってましたわね……。

ひとつだけ残念だったのは間に挟まってる各種ショートストーリーが掲載時のイラスト抜きで収録されてること。ラノベEXPOの企画本の目玉の一つだった「サクラコラボレーション」の短編はまぁ仕方ないかなあと思うけど、ドラマガ付録のカレンダー短編はもう入手不可なんだしカレンダーイラストと一緒に収録してほしかった気がする。まあ割とあの手の、その後キャラクターグッズに使い回されたりはしてる気がするけど……どのイラストについてたストーリーか理解した上で読みたいじゃん。

2020年のカレンダー短編の短いからこそ一発の破壊力に全力を出しましたみたいなノリ好きです。流石ゼロス人の心がない(魔族ですから)。



ロクでなし魔術講師と福音後記

 

これは、どこかにあるかもしれない幸せな後日譚――
 《無垢なる闇》、そして禁忌教典をめぐる戦いを乗り越えて皆の下に帰ってきたグレン=レーダス。  彼がその後どんな未来を歩むことになったのか――  ナムルスと共に無限の世界を渡り歩く未来、帝国軍の大元帥となったイヴに寄り添う未来、リィエルと一緒に“人”として生きていく未来、ルミアと婚約を交わした未来、魔導考古学者となる夢を叶えたシスティーナと道を共にする未来、セリカについに想いを告げる未来……そして――  そんな様々な可能性に分岐する“IF”の未来が今、語られる。  これは、どこかにあるかもしれない後日譚。

《無垢なる闇》や禁忌教典をめぐる戦いを追えて元の世界に戻ってきたグレンたち。その未来には、無数の可能性が広がっていて……。各ヒロインたちとグレンが結ばれる「もしも」の未来を描いた後日談短編集。

分岐ifエンドに至るための理論武装が完璧すぎる

最初にぶっちゃけますと私、分岐ifの複数ヒロインエンドというのが本当に本当に本当に本当に本当に本当に苦手なんですけど、このシリーズに関してはあまりにも分岐ifに至るまでの理論武装が完璧すぎてで唸ってしまった……ぐ、ぐうの音も出ないすぎる。

分岐世界のすべての可能性世界線の物語だと、説明もなしに真っ先にわからせようとしてくるナムルスルートこと「永遠に新しき神」がまずズルいんですよね。ナムルスをパートナーに選んだグレンが不老の肉体も神としての力も捨てずに新たなる「神」となり、ナムルスとともに様々な分岐世界を救い続ける「正義の魔法使い」概念に成ることを自分の意志で選ぶというお話。確かに本編の終盤の展開を考えればロクアカの物語が一段落しただけでグレンがその後に無数の並行世界を神として生きていくルートがないとはいいきれないし、それなら世界ごと分裂して全ヒロインと結ばれるくらいはやってもおかしくないわけなんですが……ハーレムエンドをやる上で最大の問題となるヒロイン複数に対して主人公の体が一つしかない問題を主人公が人間じゃなくなることで解決してしまったの逆転の発想すぎる。

そんなわけで最初のルートで分岐世界線の設定をわからせてきた上で始まる、各ヒロインとのイチャイチャ話。外面は良いけど両想いになった途端にグレンの前ではポンコツ丸出し色ボケ状態になるイヴさんとそれを影に支えるグレン(とイリア)のお話「紅焔公と影の英雄」、両親の遺伝子を受け継いでとんでもないハイブリッドチルドレンが誕生してしまいなぜかグレンだけが振り回されるリィエルルート「英雄一家の休日」、ちょっとおちゃめでルミア大好きで心配性な母&姉が愛する娘(妹)を幸せにしようと暴走する(そして浮気を疑われたグレンが振り回される)「比翼連理の二人」、なかなか関係を進展させられないシスティーナがグレンと両想いになるために遺跡調査に向かいやっぱり暴走する「愛しい貴方へ」、全てドラマガ本誌で読んでいたのですがどれも各ヒロインの魅力がこれでもかというほど詰まった物語でめちゃくちゃに楽しかった!!

そして書き下ろしはロクでなしのダメ息子っぷりから一転して押せ押せなグレンにタジタジになってしまうセリカが大変かわいい「共に歩む」と、グレンが人生の最期に掴み取った最後の可能性の世界「グランドエピローグ」。グランドエピローグ、いやなんかあまりにも本編で綺麗にまとまってたから逆に出てこなかったけど確かにそうか〜〜ってルートで、ご都合……というにはあまりにもグレンがそこに至るまでに歩んだ道のりが遠大すぎて(グレンの人生、体感時間にしたらどのくらいになるのだろうと考えると割と背筋が寒くなるものがある)。

永遠とも無限とも言える生の中で、それでもラストまで歩ききったグレンに対して与えられたご褒美というにはあまりにもささやかな、でもこの「もしも」の物語の結末にふさわしいとびっきりの結末でした。いやあ本当、そこまでフォロー入るとは思ってなかったんだよね……感慨深いな……。

ちなみに雑誌で読んでた時全く別の人のエンディングを想像してたんですけど、これだけ話を壮大にされるとまあ確かにそこで歩みを止めてしまうグレンじゃなかったよなというかまあこれ語られてないだけでそのルートも全然あったよな!!!と思ってしまったのであまりにも強かった。いやでも実際、エピローグを読む限りは全ヒロインと結ばれなくてアルベルトと伝説の魔術師コンビになる可能性世界も新しい神のグレンがジャスティン少年救いに行く可能性世界も全然あったよこれ……(一生懸命伏せてたのに最後で台無し感想)


魔術師クノンは見えている 7

 
Laruha

師匠&婚約者と魔術都市で再会!? 夜遊びにデートにとクノンも大忙し!
クノンの発明した魔建具は祖国ヒューグリアでも話題に。その権利獲得を目論む上層部の命令で魔術都市へ派遣されたゼオンリーだったが、師弟の久々の再会となれば――まずは魔術談義! 二人は命令そっちのけで鏡眼の検証を始める。 一方、ミリカとも積もる話が沢山! クノンは久々のデートと意気込むが、そこで聞いた彼女の近況は予想外で――? さらにはシロトとの共同実験に備えて、造魔学の基礎研究も開始。恩師に恋人に新学問、イベント目白押しの第七弾!

クノンとセララフィラが開発した魔建具の利権を巡り、祖国ヒューグリアから師匠ゼオンリーと婚約者のミリカが派遣されてきた。久しぶりの再会でゼオンリーとの魔術談義に夢中になったり、ミリカとのデートにいそしんだりで短いながらも濃厚な時間を過ごすクノンだが、ミリカから予想外の「近況」を聞かされて……!?

イベントも魔術談義も盛り盛りなのが楽しすぎる

大事な話もそっちのけで「魔建具」の使い方を巡ってキャッキャする師弟が微笑ましいし、それを微笑ましく見守るミリカが無自覚クノンの女性関係に改めて頭を抱えつつクノンのいないところでこっそりとでも全力でクノンの周囲の女性に牽制……話を聞きにいってるの微笑ましい。そしてそのミリカがクノンの周囲の近しい女子達というか女の子大好きセララフィラ&天然素材の聖女レイエス嬢にしっかり懐かれてるの納得感しかない。ミリカ様って世が世ならバレンタインデーにめちゃくちゃチョコもらうタイプの女子だと思うんですよね。

クノンがふたりに別々にディラシックの街を案内する「デート」も楽しかった〜。学生時代のゼオンリーを知る街の人達の、ゼオンリーと再会したときの反応でいちいちニヤニヤしてしまうし、一方でミリカとのデートを成功させるためにクノンが慌てて学友達にデートスポットを聞いて回る展開、そこから皆魔術オタクなのでそういうキラキラした情報に疎いですという流れに更にニヤニヤしてしまう。デートスポットに詳しいセララフィラさんさすがだった。

そして何より楽しかったのは、ゼオンリーvsクノンの師弟魔術対決。いまだ魔術を4つしか修めていないクノンに発破を掛けるためにひとはだ脱いでくれる師匠、手荒ではあるけどマジでクノンのこと可愛がってるんだなと。そしてそんな師匠に対して初級魔術4つだけでなんだかんだと善戦しちゃうクノン、改めて応用力が規格外なんだよなあ。

禁忌の魔術もこのシリーズにかかれば「学問」になっちゃうんだなあ

師匠との対決やミリカから聞かされた現状を知って早めに単位の取得を進める事にしたクノン。シロトとの共同研究を進めるため、そして「目」を作るためのアプローチのひとつとして禁忌の学問と言われる「造魔学」を学ぶためシロトの師匠・ロクソンのもとに。魔術で新たな生命を生み出したり失われた魂を呼び戻したりするという、大変の魔術ファンタジーでは概ね敵側が履修しているジャンルの魔術なわけですが、そんな魔術でも「禁忌扱いされてるけど、ちゃんと学んで引き際を見極めれば危なくないよ」くらいのノリでマイナー学問として体系化されているの流石の世界観だった。配偶者を蘇生させようとして失敗した話を学問への理解をもっと深めた今なら出来るのにと振り返るロクソン先生さすがである。そして概要を聞いて早速一般で使えるような技術の転用を考えはじめてるクノンも流石だった。

ちょっとアブない新魔術を前にノリノリで魔術談義してる姿が楽しかったし、ゼオンリーとのやりとりでいよいよ水の中級魔術習得来るか!?だし、ヒューグリアでのアレコレや聖女レイエスの周辺なども騒がしくなってきた。ゼオンリーの過去編に関しても本編でのやり取りも踏まえて気になる部分が増えてきて……いろいろな意味で今後がますます楽しみになる一冊でした。


VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた10

 

そして伝説へ――
選ばれし輝く少女たちが所属する大手運営会社ライブオン。切り忘れから大人気となった三期生・心音淡雪は、五期生・チュリリをサポートし、不安定になっていた匡を救った。束の間の安寧を取り戻したライブオンだったが、なんと淡雪の飲酒企画が公式に実施されることになり!? 壮絶な飲酒企画の結果、あるものを一ヵ月禁じられた淡雪。そしてそれを再び解禁した衝撃によって淡雪は「あ、面接の時のこと思い出した!」唐突にライブオンの面接を受けた時のことを思い出して――衝撃のVTuberコメディ、伝説のフィナーレ!!

ライブオン公式企画でライブオンライバー達と「スト○○以外の色々なお酒」を飲むことになった心音淡雪は、お酒の種類ごとにバラエティ豊かな酔い方をした挙げ句に飲み過ぎで倒れてしまう!?生命に別状はなかったものの、一ヶ月の禁酒令を出されてしまい……大好きなスト○○のない生活にやきもきしながらも、様々な企画で過去の自分を振り返ることになり……。

最後の最後で本当にヤバい飲み方をするな

第一巻からいろいろな意味で健康面を心配していた(私が勝手に)本シリーズですが、最終巻で遂に酒の飲み過ぎで倒れるをやってしまった。そんな曰く付きの企画回「あの心音淡雪が色んなお酒飲んでみた」、飲む酒によってキャラクターが変わる淡雪の様子は面白くて大変良かったんですけど、酒チャンポンは健康に良くないって皆言ってるじゃないですかーーー!!!って感想が何よりも強すぎる。

これ、前の酒が抜けきらないまま次の酒行ってるのが悪い意味で頭おかしいしなんで最初から最後まで連続した生放送でイケるとおもったのか理解に苦しむ。企画シリーズにして回分けるとか、全部別撮りしておいてその様子を肴にスト○○飲む配信のほうが良くなかった?普通にライバー倒れるのわかるだろ。この企画を淡雪本人が出してきたとしても公式が止めるのがスジだとおもうのに公式側が振ってきた企画なのマジで悪い意味で頭おかしいんだよなあ……。この流れからのどさくさのましろ告白に持ち込みたかった&エピローグに繋げたかったという意図はわかるんだけども。

自分自身と向き合うエピローグがとても良かった

…………と初手でめちゃくちゃ駄目出ししてしまったけど、マジで残りの99%は最高に面白かったのでその話をしたい。まず全体の総まとめ回とも言うべき「ワルクラ配信4」、最近マイクラはじめたのでワルクラ回というだけでめちゃくちゃ嬉しかったし全ライバーが集まってワチャワチャするの楽しかった。5期生まで含めて相当な人数になってしまった現在、全員が結集してワチャワチャする企画ってこのくらいの規模じゃないともう出来ないんだろうなというのが若干さみしくもあり。そして後輩の有素ちゃんが過去の配信を分析して作った(普通に怖い)シュワちゃんAIと禁酒中の淡雪が対談する「あわシュワコラボ」、タイトルからして出落ちなのにあわちゃんがシュワちゃんと語り合うことで自分の方向性を再確認してシュワとしての自分を受け入れて綺麗に終わるの最高にズルくて面白い。

何より一番面白かったのが禁酒中の淡雪がユーザーの作った切り抜き動画から過去の印象的な配信を振り返る「切り抜き視聴配信」、切り抜きの言葉が示す通り過去配信の小ネタをつまみ食いできる回で大変楽しかった。光ちゃんにネットミームを教える配信とか良くも悪くもネタの鮮度が命なWeb小説感あって良かったですね。いくつかわからないネタあったしわからん読者も多そうだけど。

そして最後の最後に淡雪が自身のライブオン入社面接時のやりとりを思い出し、デビュー配信を見ながら新たな決意をする「そして伝説へ2」。予想以上に面接の時ただのシュワちゃんで笑ったし、そこからのデビュー配信のポンコツぶりでもう一回笑ってしまった。温度差が凄かった。このシリーズ、アニメやコミカライズでリスナーどころかライバー達の「中の人」すらVtuberのアバターそのままか顔や特徴のないピクトグラム人間として描かれるのがかなり印象深かったんですが、そんな所属ライバー達の個性以外が没個性化しているこの世界において心音淡雪の中の人こと田中雪その人のビジュアルが作中で描かれるのも、物語の終わりを感じさせて良かった。しかしこのシーン、同席していたはずのハレルンはアバターで描かれてるんだよな……徹底してるな本当に……。

ライブオンに所属する全ライバーの性癖と本心を暴き出して片っ端から覚醒させてきた心音淡雪が同期でありママであり不遇時代から支え続けてくれた一番の相棒である彩ましろとの関係性の進展を果たし(あの酒チャンポンの流れからその展開に!?という気持ちはそこそこあるものの、まあましろさんだしそんな事件でもないと素直になれなかったんだろうな感ある)、最後に自身と向き合って新たな決意をしていく構成、最終巻として最高に綺麗だったと思います。このシリーズ、一見繋がりのない短編集みたいな作りでありながら全体で振り返ると物語としてしっかりとした指向性があるの本当に凄かったな。

それはそれとして本編と関係ないところでちょっとした配信ネタとかで思いついたら続けてもらって完結後もじわじわ短編集とか出してほしい気持ちあるしWebでもいいからそのへんの展開には期待したいです。あとアニメの前後で立ち上がったライブオン公式切り抜きYoutubeチャンネルもまだまだ続いていくらしいので期待したい。

公式チャンネル、最近の投稿だと有素ちゃんの圧迫面接回が好きです。きがくるっとる。




声優ラジオのウラオモテ #12 夕陽とやすみは夢を見たい?

 

夢は、諦めなければ絶対に叶う!……よね?プリティアオーディション開幕!
「獲りに行くぞ、由美子の夢を」 声優として経験を積んだ由美子は、遂にプリティアのオーディションへ。だが、 競争率は凄まじく高く、強力なライバルは大勢いて――。 「わたしも受けるわ、次回のプリティアを」 「今年は自信あるの。今までで、一番」  運命共同体の千佳、頼れる先輩の乙女。共に演じる仲間になるか、同じ役を争うか……。分からないけれど、今回だけは譲れない!  決意を胸に挑んだ由美子に待ち受ける結末は、意外なもので!? 「あなたの夢を――、我々にください」  シリーズ最大の夢へ挑戦する、青春声優ストーリー・第12弾!

出演作のヒットを受けて遅咲きながら声優として勢いを付けてきた歌種やすみ。マネージャーの加賀崎が次に持ってきた仕事は、やすみの長年の夢である「プリティア」シリーズのオーディションだった!人気声優の登竜門であり、競争率も凄まじく高いプリティア。しかもオーディションには最大のライバルであり相棒でもある夕暮夕陽や頼れる先輩・桜並木乙女も名乗りを上げると言う。絶対に負けたくないオーディションのその結末は、彼女にとって意外なもので……。

※ネタバレがいつもより多めに含まれますのでご注意ください。

“「あなたの夢を──、我々にください」”

いやこれ言っちゃうとネタバレかもしれないんですが人の心ォ!!!!!!!!!!
いろいろな意味で、彼女がプリティアの役をストレートで穫れたらこのシリーズ終わっちゃうでしょってレベルの大願なわけでそりゃそんな簡単にはいかないんだろうな……という予感はありましたし、そういう方向性の歌種やすみが見たいと思ってしまった気持ちは実際にあるんですけど……いやもうほんとうに容赦がない。ひとのこころがない。前半の大学生活の話とか、高校時代のクラスメイト達と行った卒業旅行の話とか卒業旅行の夜の由美子と千佳の百合百合なやりとりのこととかマジで吹き飛んだわ。

これ恐ろしいのは番組側が無作為で彼女を傷つけたわけではなくて、歌種やすみが憑依型の声優であることを理解して、ガチの演技を演ってもらうために作為的に絶望させたってことなんですよね。いやまあそれだけ自分の手掛ける作品を最高にしたいということなんでしょうけど、それで未成年の心を粉々にしていくの、マジで人の心ないかよ……もうちょっとなんかなかったのかよ……。

ひとのこころがなかっ…………やっぱりあっ……やっぱなかった。

いつか「プリティア声優」になるためにこの道を選んだのに、ぶち当たったのは声優を続けるかプリティアへの道を諦めるというかという選択。表面上はいつも通りを装う由美子にいつもの覇気を感じない千佳は彼女を立ち直らせるために不器用ながらも奔走していく。いやあ、喧嘩中にやすが本気で返してこなかったからやっぱり落ち込んでる!という流れで不調を確信する千佳ちゃん最高に良かったですね。それはケンカップルの文脈なんですが。

今回の当事者でもある千佳や桜並木乙女だけじゃなくてラジオ番組でそれとなく心配している描写が描かれる柚日咲めくる、そして初代プリティアである偉大な先輩達。プリティアの制作側だって彼女が最高の演技をしてくれることを信じてアレを突きつけてるわけだし、本当に「歌種やすみ」という声優は周囲から実力を認められいて、もっと大きくなってほしいと望まれているのだな……と胸が熱くなる物語でした。でも何より、周囲からの励ましを受けてなんとか立ち上がった彼女が望まれた通り(それ以上)の最高の演技をして、やっぱりどうしても絶望してしまうクライマックスが最高によかったし最高に人の心がなかった。

ところでファンの知らぬところでプリティアシリーズオーディションにまざってくる初代プリティアの森先輩男前すぎんか。いつかどっかで森&大野のスピンオフとかやりません?

かりそめ聖女は今日も王太子(推し)に求婚される 私との結婚は【解釈違い】なのでお断りします!

 

聖女(オタク)が憧れの王子様と「薄い聖典(ほん)」で国を救います!?
優秀な神力を持つ聖女候補アリアセラ。 ある日呼び出しを受けるとそこには王太子ジークフリードがいて―― 「俺の婚約者になってもらえないだろうか」 「無理です」 何を隠そう彼は『薄い聖典(ほん)』で妄想のネタにしているその人で!?  国の危機を救うための政略婚約だと言われ承諾するが、なぜかジークの求愛は止まらず……結婚はしないって約束ですよね!?

「書」に聖なる力が宿る世界。優秀な神力を持ち次代の「聖女」候補とも名高いアリアセラは、神殿で巫女見習いとして聖典の転写作業に勤しかたわら正体を隠してこの国の王太子・ジークフリードを題材にした小説を書き、「名もなき様」として水面下で圧倒的な人気を獲得していた。ところがある日、小説の題材にしていた「推し」ことジークフリードその人から求婚されてしまう。何度断っても諦めてくれない王子にしぶしぶ彼を題材にした小説を書いていることを打ち明けたところ、とんでもない言葉が飛び出して……!?

「君が書いたものを含め俺について書かれた同人誌を200冊読んで、俺が君に幻滅しなかったら、俺と偽装婚約してくれ(意訳)」

プロローグでぶっこまれた王子からのプロポーズ↑が斬新すぎて初手で笑ってしまったし「他の作家の書いたものは勘弁して」と返すヒロインで追い打ちを喰らった。無表情だけど内心は顔面百変化でオタク特有の早口なヒロイン(でも推しとは絶対にゴールインしたくない同人作家の鑑)と、最初は彼女の実力を見込んで偽装婚約を求めてきて、しかしそのうちに彼女を一途に想うようになる王子の攻防戦(色々な意味)が大変良かったです。

とにかく偽装婚約を頑なに拒否されて、王太子とはいえ立場の弱い自分では嫌われても仕方ない……と諦めようとしたらものすごい早口で自分のことをめちゃくちゃ擁護してきてすぐさま好意すら示してくる少女(でも絶対に婚約にはノー)に困惑……もうこのやりとりの時点で面白かった。いやたしかに「推し」の概念を一切わからん「推し」対象(ヒロインにとっては雲の上の存在)からいきなり求婚されたらこう返すしかなくなるのかもしれない。でも「推し」本人の視点から見たら意味不明すぎて逆に追及が強くなるのもわからなくもない。そして追い詰められたヒロインが死なば諸共……と薄い本を差し出してきてという流れから飛び出すのが↑のプロポーズの発言です。王子がつよい。

色々な概念が現実の同人活動・推し活になぞらえられていて、ヒロインも現代で言うところの「ナマモノやってて公式から隠れたい同人女子オタク」であるんだけど、その一方で王子は自分を題材にした劇とか芝居とか全然ある中世ファンタジー世界に生きてるので自分を題材にした創作物への許容値が高く、そんな中で自分に対してめちゃくちゃ好意的で解像度の高い「物語」を描いてくれるヒロインの好感度が高くないわけ無くて……認識の違い、というか「生きてきた世界の違い」が良い意味でちぐはぐなやりとりを生んでいるのが印象的でした。あらすじを迂闊に説明するとナマモノ同人に御本尊が踏み込んでくる事/御本尊に読ませることへの良し悪しみたいな話に繋がりかねなくて日本語の難しさを感じるのですが……どちらかというとそのへんに対する忌憚意識をベースに認識の違いを楽しむお話になるのかなと。まああくまでヒロインのメンタルはナマモノ同人やってる女子であるので可哀想といえばかわいそうなんですが、王子も生命が掛かってるので……。

「うすいほん」 で せかいを すくう(※作者にとっては羞恥プレイ)

そんなこんなで(短いけど本当に色々あった)王国に巣食う魔女・王妃ルクレツィアによって支配された王宮に「浄化」の神力を見込まれてジークフリードの偽りの婚約者として乗り込むことになったアリアセラ。ジークフリード王子は最大の味方である王佐の大聖者を失い、王宮内で孤立してしまっていた。圧倒的な力を持つ王妃の魔力にはアリアセラが使う強力な神力でも刃が立たず、王太子はアリアセラを庇って大怪我をしてしまい絶体絶命の大ピンチ!!……というところから、まさかの大逆転劇でめちゃくちゃ笑ってしまった。アツい(けど薄い)展開が面白すぎる。いやあ、「薄い本」が世界を救った(マジで)

主人公が「ジークフリードもの」の大手同人作家だったことをはじめとしたすべてがこのクライマックスに繋がっていてめちゃくちゃ気持ちよかったし、圧倒的に不利な状況からの大逆転!!という展開でアツい展開なのにモノが「うすいほん」なせいで何もかも面白くなってしまうのバグだった。あとヒロインにとってはただただひたすら羞恥プレイなのめちゃくちゃ面白かったけど自分のことだと想像すると死ぬ。

オタク特有の「あまりにも原作が至高すぎていつまでも眺めていたいが自分の存在が許せないので壁になりたい」ジレンマとか、推し活ラブコメの定番である推しが恋愛対象になることで発生する「ひとりの男性として好きだけど推しと自分が両思いになるのは解釈違い」のジレンマとか、割と定番のジレンマは全部拾ってきて推し活・オタ活ラブコメとしても十分楽しかったけど、並行してめちゃくちゃシリアスで面白いファンタジーバトルをやっているのでほんとナマモノ同人……とか忌憚しないで読んでほしい。同人活動描写もそこそこ濃い目で、ファンタジー世界だけど装丁にこだわってる描写とか挿絵担当の友達とのやりとりとか印刷所とのやりとりとか出てくる。そして刷った本を王宮で回し読みさせることで立場の弱くなったジークフリードの立場を少しずつ回復させて時流の変化を促していく展開、シームレスに同人活動と状況の打開が繋がってて面白いんだよなあ。

あと「なんだかんだで押しが強く建前と本音を使い分けてくる、ヒロイン拗らせ気味ヒーロー」と「感情面とは違うところで両思いを拒否っている男前ヒロイン(感情的には完堕ち)」という組み合わせ、やっぱ最高なんですね…………好きなんですね…………。

1巻で綺麗にまとまってる話ではあるんだけど、いくらでも続ける余地のある話ではあったので続きが読みたい。


川上稔短編集 パワーワードの尊い話が、ハッピーエンドで五本入り(1)

 

川上稔が贈る、最高にハッピーで尊い珠玉のラブコメ短編集! 書き下ろし含む5本の他に、BONUS TRACK『コガレ』を収録!

ちょっぴり不思議な世界観を匂わせつつ、タイトル通り「尊いふたりのハッピーエンド」に焦点を絞った、カクヨムやツイッターに掲載されたWEB短編に書き下ろしを加えた短編集。

「ジャンル:川上稔」をこんな手軽に摂取しちゃっていいんですか!?

いや〜面白かった。川上稔概念のファスト摂取というか美味しいとこどり感がすごいのですが、いつもの独特な世界観を匂わせつつも主人公ふたり以外の要素はほとんど削って、どちらかというと少ない描写で読者にふたりの関係性や行間のアレコレを想像させていくタイプのお話なので短くても全然物足りなさはなく、バラエティ豊かな世界観の数々や関係性の異なるふたりの物量で推してくる感じありました。短かくて軽く読めるのに物量を感じる不思議。(ジャンル・川上稔、御本人のカクヨムコラムのキャッチがそれになってましたがあまりにも「わかる」だったので引用させていただきました)

全体的にカップルがイチャコラして全力ハッピーでエンド!!!!というよりはふたりの出逢いから因縁・その行くすえをじっくりと描き、少し重いバックグラウンドを匂わせながらそれでも最後にはほんのり心が暖かくなるようなお話が多かったです。

どのお話も面白かったけど、個人的に一番好きなのは書き下ろしの短編「空と海を結ぶもの」かな。戦争をしている国同士のふたりが出会い、深夜の逢瀬を繰り返すお話。いや色々とネタバレになるので多くは語れないのですがこういうSF好きなんですよね……。最後の最後で明かされていく真実と、すべてが終わった後にやってきた少女が放つ一言がめちゃくちゃに刺さりました。

あと、ズルかったのはとある王国の聡明な王と彼の発言全てを記録する秘書官のやりとりを描く「ひめたるもの」。全部読み終わってからこの感想書くために公式のあらすじを見て「あらすじでバラしてくるのはズルいですよ!!!」ってなりましたよね……いや気付かないで読んでた自分も自分なのですが。

記憶のない男女のふたりだけの小さな世界から始まる「君が手を離さない」、化け物と呼ばれる少年と天使と呼ばれる少女が手紙を介して不器用なやり取りを繰り返す「化け物のはなし」、不安に思う僕とその不安に寄り添う私のやりとりが描かれるボーナストラック「コガレ」、会話劇の軽妙さとは裏腹な世界観の重さにひときわカワカミ成分を感じた「最後に見るもの」も大変良かったです。

とにかく手軽に手にとってなんとなく読めるのがとても楽しかったので、このシリーズもう3冊あるんですが、そちらもぼちぼち読んでいきたいと思います(というかタイトルが違うので普通に3巻目から手に取ってしまった……ありがち……)

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2〜日光浴と料理を満喫していたら、いつの間にか有名配信者になっていたけど、配信なんてした覚えがありません〜

 

王都クエスト後、功績を認められた蓮華は多額の報酬ゲット! 知らぬ間にテイムした骸骨【あいぼう】アインと新装備を揃え、平穏な時を過ごしていた。 そこへ、ついに吸血鬼用コクーン試作機完成の知らせが! わくわくしてシステムメニューを初めて開くと、『配信』の項目が目に入る。 なんと、今までのプレイ内容がすべて全世界中に垂れ流されていたらしい! まぁ今更いいかと、配信者であるヴィオラのサポートの下、視聴者と会話したり、助言をもらったり、さらにゲームを満喫! そのまま新エリア東の森攻略へ三人で出発するが、探索中にどことなく違和感を覚えて……? 超初心者ゲーマー吸血鬼のドタバタVRMMO放浪記第二弾!

王都クエストを無事にクリアした蓮華はゲームログインもままならないまま吸血鬼用に改造してもらったコクーンの試作品完成の知らせを受け、息子・洋士に連れられて東京へ。いよいよNPC扱いから脱却する日がやってきたが……『配信』という見慣れないメニューを発見して!?

配信バレしても変わらない空気感が引き続き良かった

機械オンチな吸血鬼作家の主人公(鎌倉時代から生きてる)がアナログ原稿脱却のためにVRMMOを始める物語、シリーズ第二巻。王都クエストの報酬受取、スケルトンくんが正式に相棒に、念願のPC化→配信のアレコレバレ、東京での息子との同居、装備周り更新、ヴィオラさんとのリアル邂逅、そして初めてのダンジョン探索と……と、とにかくイベントが多い巻だった。いろいろな意味で配信の存在に気づいていない蓮華をコメント欄や周囲がなんだかんだで見守っていく展開が面白かったので配信バレでどうなる!?と思ったけど、コメント欄とのやりとりが増えたくらいで良くも悪くも配信の存在を気にせず進んでいくスタイルで良かった。蓮華に直接絡みに行く方向性になった配信のコメント欄/これまでと変わらず本人が居ない前提でこっそりとレスが進む掲示板……と切り分けられているのも上手いなあ。

ここにきて(というか蓮華がPC化したことで)浮上してきたゲーム本編シナリオに関する謎とそれに関する考察、遅れて始まった他国でのメインクエストの話も盛り上がり、更には吸血鬼以外の種族の存在、蓮華自身の過去も匂わせてきて……色々と気になるところで終わって、続きが気になりすぎる。

それにしても、最初の登場人物紹介を見ると蓮華やヴィオラだけじゃなくて他のゲーム内で知り合った面々もリアル人類であるとは確定してないんですよね。全員人外の可能性もあるわけなのか。というかナナさんとか自覚あるなしは解らないけどあの終わり方からして明らかに純粋な人類ではなさそうというか……ガンライズさんいろいろな意味でどうなってしまうんです。

洋士さんがお父さんのこと好きすぎる。

マイペースなお父さんに振り回されてやれやれしつつもほっとけない、苦労人の息子・洋士さん…………と思っていたら、序盤の東京に移動中のやりとりから少しずつ様子がおかしくなり、「あれひょっとしてこのひと蓮華の配信見てますよね?」「っていうかひょっとして父親のこと大好きでは?」とか思いつつ読み進めていたのですが…………「短編 . それぞれの一日」と電子書籍版特典SSの「洋士、散在する」を読んで無事ひっくり返りました。いやこの人、父親(蓮華)のこと大好きじゃないですかーーー知ってたけどここまでだとは知らなかったなぁ!!!!!?? この人予想以上にガチ勢だし予想以上にファザコンを拗らせてるし予想以上に父親のことしか考えてないぞ!?

いや、いろいろな意味でお互いに腹を割って話せずに遠慮しあった結果として感情を拗らせてしまった感が凄くて洋士さんも被害者……と思わなくもないし、蓮華の辛い時期(詳細不明)を見守ることしかできずに歯がゆい思いを抱いていた彼が配信で楽しくしている父親を見て「守りたい、この笑顔」になってしまったのも仕方ないといえば仕方ない気がするのですが……。

蓮華もそのへんの遠慮してた部分はちゃんと話すよみたいな終わり方だったので(というかあそこで次巻に続くするの結構鬼畜じゃないですか!?)、腹を割って話し合って遠慮しなくて良い関係性になれるといいね……と願わずにはいられない短編と書き下ろしでした。

いやこれどうせヴィオラさんのストーカーも洋士さん(もしくは洋士さんの手の者)なんでしょう!?とか一周回ってヴィオラさんとは蓮華好き仲間として通じ合えるのではないかとか色々思う所はあったんですが個人的にはクリスマスと年越しは絶対に親子水入らずのホームパーティーを楽しみにしてるとおもうのでお父さんなんとかしてあげてください。腹壊してでも父さんの作ったクリスマスディナーと年越しそばを食べる気満々だとおもうよ。というか洋士もうてっとり早くあっちにキャラ作ったほうがいいのでは!?