小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

風刺画 デイリーテレグラフの場合



 英国の新聞は問題となった12の風刺画を紙で印刷した紙面では今のところ出していない。

 2月1日(水曜日)にフランスやドイツの複数の新聞が「表現の自由」のために掲載をし、さて英国はどうするか?という話になった。

 デイリーテレグラフにいる人から話を聞く機会があったが、早速、英国でも対応を決めないといけなくなったときに、以下のような流れがあったという。

 2日(木曜日)の編集会議で、スタッフがどうするか?を話し合った。いろいろな意見が出て、それぞれ分かれてしまった。一部の人は、国内のイスラム教徒に十分に留意した方がいい、慎重にしたほうがいい、といった。一部は、表現の自由のために、絶対に載せるべきだ、と主張した。

 もし掲載したら、セキュリティーのレベルをあげることになり、編集室のあるビルに入りにくくなったり、人を雇う必要があるので、随分お金がかかる、いちいちチェックされるのが面倒だ、という意見も出た。

 載せるべきだ、と主張したグループは、「載せないのは卑怯だ、意気地なしだ」、という論理を展開した。編集長は載せないほうに傾いていたようだったが、「載せないと卑怯だ、意気地なしだ」という意見の前に、これは「編集長が意気地なしだ」ということになり、むくれたような表情になったという。

 そのあと、何故、「載せない」ことに最終的になったのかは、編集長のみが知っているようだ。しかし、英国の高級紙はテレグラフ、タイムズ、インディペンデント、ガーディアンだが、編集長は他紙に電話をかけまくっていた、という。

 道理で、どの高級紙もそれぞれの理由をあげながらも、足並みがそろったように「紙での掲載なし」になったのだなあ、と納得した。(編集長どうしがどこまで決めたのかは、不明にしても、一種の了解をお互いにしていたようだ。)

しかし、働いているスタッフ自身も、掲載をしなかった本当の理由は分からない、という。

 もちろん、イスラム系市民への考慮、など様々な理由を社説で各紙は挙げたことを既に書いているが・・。

 9日付新聞から、英各紙は、風刺画問題をやや小さく扱い始めた。デンマークでの取材がラジオで放送されたりなどし、土曜日に行われる英国ムスリム・カウンシル主導の、ロンドン市内でのデモの話が話題に上りだしている。もちろん、まだまだ問題が終わったわけではないが。

 
by polimediauk | 2006-02-10 09:47 | 欧州表現の自由