矢野顕子+TIN PAN『さとがえるコンサート』disc 2

2枚目も絶好調ですが、1枚目と一緒で実は一番光っているのは鈴木茂の曲のような気がします。ここでは、はっぴいえんどの「氷雨月のスケッチ」を演奏していますが、イントロのギターが鳴った途端に70年代に引き込まれるような不思議な魔力を持っていて、それでいて入ってくるボーカルは佇まいが優しい、という離れ技。これは堪らない。

 

その他にも大滝詠一の「水彩画の街」「乱れ髪」をメドレーで演奏したり、細野晴臣の「終わりの季節」をご本人とのメドレーボーカルで披露したりと、見せ場が続くステージとなっています。そしてラストの「ひとつだけ」でまたもやグッと来てしまうという展開。この後観る映像版が楽しみです。

 

それから結構、糸井重里作詞の楽曲も多く取り上げていて、まるで糸井重里もTIN PANのメンバーと一緒に矢野顕子とセッションしているような感覚。これまでのキャリアを意図せず振り返ってしまったようなステージとなっているのが印象的です。とても手応えがあったので、翌年もまたTIN PANのメンバーとさとがえるコンサートを開催したのでしょう。そんな感じで、Part2の方も引き続き楽しむ予定です。

テストパターン『APRES-MIDI』


82年に細野晴臣プロデュースでYENレーベルからリリースされたテストパターンの唯一のアルバムが再発されました。当時、さすがにここまでは手が出せなかったのできちんと聴くのは今回が初めてです。

 

80年代初頭のテクノポップの音が鳴っていて、もうそれだけで理屈抜きに支持してしまうリスナーがいるのはよく分かります。ある意味ノスタルジーですね。音の質感が当時の機材の音なので、YMO関連の作品として聴くのでも充分に楽しめる、というより当時に思いを馳せることができる。従って後追い世代に響くのかどうか、という問題もありますが、スカートの澤部渡もしばらく前にラジオで紹介していたので、何か響く要素はあるんだと思います。

 

ここに諸手を挙げて称賛するまでは正直至らない気がしますが、YENレーベル関連としてはマストアイテムなので、パズルのピースがまたもや修復された、という位置付けで問題ないのではないでしょうか。意外と音の質感が温かいので、結構中毒性のある音のような気がします。ふと聴きたくなるJAPANのアルバムのような感じ。B面のインストの方に耳が持っていかれるのは、ボーカルが入らないことで音そのものにスポットが当たるからでしょう。

矢野顕子+TIN PAN『さとがえるコンサート』disc 1


2014年に行われた矢野顕子とTIN PANのライブ盤第一弾。このコンサートはBSでも放送されたので録画して観ていましたが、発売当時に会社の先輩から強くお勧めされていたので、いつかは聴かねばと思っていました。少し単価が高かったので、発売された2015年には手が伸びませんでしたが、今回は中古盤で初回限定の映像付きを入手。一生ものということで。

 

CD2枚組+ブルーレイということで豪華版ですが、内容も豪華。結構カバー曲が多いのがいいですね。そして何といっても鈴木茂の「ソバカスのある少女」、細野晴臣の「冬越え」なんかが演奏されていてグッと来ます。「ソバカスのある少女」は本当にいい曲。こうした曲では矢野顕子がバックに回るところがまたいいですね。

 

1枚目だけで既に素晴らしいですが、これが後1枚あって更に映像版もフルで収録されているという作品。何度も書きますが、映像よりも音だけの方がリピート性は高いので、こうした仕様はとてもありがたいです。

 

鈴木茂のギターソロパートもたっぷりあって、演奏も渋い。いいライブです。

南佳孝『SOUTH OF THE BORDER』


78年リリース作品。全曲のアレンジを坂本龍一が担っています。

 

本作に手を伸ばしたのは大貫妙子とのデュエット曲「日付変更線」を耳にしたからですが、こんなにYMO、ティン・パン・アレー関連のミュージシャンがバックアップしているとは思いませんでした。

 

細野晴臣、高橋幸宏、鈴木茂、林立夫、浜口茂外也、佐藤博、と挙げればキリがないですが、78年というタイミングはティン・パン・アレーとYMOの間にあたる時期なので、当然と言えば当然。しかし、なかなか豪華です。

 

テイストとしては78年の坂本龍一プロデュース作品である高橋幸宏1st『サラヴァ』に少し近いかな。南国風の音やサンバのリズム、煌めくキーボードの音とテクノ前夜の電子音、そんな装飾が耳を捕らえます。

 

南佳孝は1stの『摩天楼のヒロイン』が自分の耳にはさほど引っ掛からなかったのでしばらくご無沙汰していましたが、もう少し深堀していかねばいけませんね。これ程心地いい音だとは思いませんでした。

ベティ・ライト『I Love The Way You Love』


小沢健二の「ラブリー」の元ネタ、「クリーン・アップ・ウーマン」が入っているベティ・ライトの72年リリース作品。何度かラジオで耳にしたことはありましたが、きちんと聴くのは初めてです。

 

その「クリーン・アップ・ウーマン」以外の曲もいい曲が多くて、アルバム全体として良い作品でしたが、なんといっても「ラブリー」がそっくりそのままなのには驚きます。小沢健二は何でこんなことをやったんだろう。

 

こうしたオマージュが非常に多いのも小沢健二の特徴ではありますが、恐らくは曲よりも詞の人だったのではないかと。フリッパーズ・ギターの話を小山田圭吾がしていた時に、「小沢は詞がかけたんで」と話していたので、裏を返せば曲は小山田の担当だった。その余波がソロ作品のオマージュに走る契機となった、ということなのかな、などと想像してしまいます。

 

90年代は過去の作品を掘り起こす審美眼が問われる時代だったので、主に渋谷系を中心としたミュージシャンがそうしたリスナーの先頭を走っていた。そこから掘り起こされた音は一般のリスナーには初めて聴くものばかりで、後から元ネタが判明していく。それが今ではインターネットの時代になったので、ずっと残り続ける、言及され続ける、掘り起こしされ続ける、といったことなんだろうと思います。

 

ヒップホップのサンプリングともまた違った引用の仕方が、今ではちょっと考えられないやり方で行われていたのが90年代初頭、ということなのでしょう。

ミーターズ『Cabbage Alley』


72年リリース作品。ミーターズはオリジナル・アルバムのどれを聴いていてどれを聴いていないかが判然としないところがあるんですが、こちらの作品も既に何度も耳にしたような楽曲があって、一瞬ダブって買ってしまったかと焦ってしまいました。

 

ベスト盤に「Stay Away」や「Soul Island」といった楽曲が収録されていて、どれもが強いインパクトを放っているのでそのように感じたのかもしれません。その2曲もそうですが、冒頭の「You've Got To Change」なんかも本当にカッコいい。タイトル曲の「Cabbage Alley」も最高。

 

このアルバムからボーカルパートを増やしてインストバンドからの脱却を図ったといわれていますが、バックの演奏もファンキーで物凄いので、ボーカルが霞んでしまうくらいです。どっちにしろ最高で、タメの効いたリズムセクションは何者にも変え難い。

 

初めて聴いたような気がしない作品でしたが、この辺りでもこんなに素晴らしいクオリティなのでやはり侮れない。もう少しミーターズは真剣に聴かないといけないなあ、と思いを新たにしました。

アイヴィーズ『Maybe Tomorrow』


バッドフィンガーの前身バンドの69年リリース作品。バッドフィンガーの1stと曲が被っているのでこれまで手を伸ばして来ませんでしたが、最近またバッドフィンガー熱が再燃して来ているので、改めて聴いてみることにしました。

 

曲によってプロデューサーが異なっていたり、発表時期もまちまちだったりと、若干の寄せ集め感はあるものの、原石としては充分な出来栄え。でもこれはリニューアルしてよかったかな。

 

トニー・ヴィスコンティも関わっていたんですね。これは知りませんでした。ビートルズのアップル・レーベルからデビューするまでの間にも紆余曲折があったようですが、最初にバッドフィンガーを聴いた時の「薄味のビートルズ」感がやはり忘れられません。しかしそこがいい。時期的にビートルズ解散後にその不在を埋めてくれる存在でもあったようで、確かに全盛期の作品はとても勢いがあっていい。

 

でもそのクオリティが初期や後期も一貫しているかというとそうでもないのが悲しいところで、かつ商業的成功や充分なプロモーションがなされなかったことで中心メンバーの2名が自ら命を絶ってしまうという悲しい末路を辿るバンドでもあります。だからこそエヴァーグリーンになっている側面も否めないんですが、端的に楽曲はいいので、そこを素直に楽しむのが正当な聴き方でしょう。