NGNの技術的特徴の整理
前回のエントリからまたしても時間が経ってしまった。
ところが、少し考えていたところを書きながら整理しようと、うっかりブラウザ上で書いていたら、データを消失してしまった。いわゆる「ブラウザのバックボタンの悲劇」である。
とはいえ、これでよかったのかもしれない、と今は思っている。やはりあまりに公開情報が不足していて、概要的なことを想像で補うしかなかったからだ。そこで新しいエントリでは、NGNに関する情報を得るためのポインタの紹介とその考察で構成し、引き続き状況をフォローしたい。
【追記】
書いていたらいろいろ抜けを発見したので、追記しました。
10/12 11:30 課題を追記
10/13 11:10 他ネットワークとの接続を追記
アーキテクチャ概要
○NGNについて
○NGNの標準化と各国の動き
NGNのアーキテクチャは、大きく「サービス・ストラタム」と「トランスポート・ストラタム」に分類することができる。大まかにいえば、前者はサービス提供、後者は伝送制御を担う。両者は階層関係にはなく、あくまで機能で整理された関係である。それぞれに下記の下位システムが配置される。
- サービス・ストラタム
- IMS(IP Multimedia Sub-system)
- 接続制御(セッション管理)
- 位置情報管理(位置情報に応じたサービス制御)
- アクセス制御(接続制御と連動したIPアドレス書換など)
- SDP(Service Delivery Platform)
- 他のネットワークとの相互接続(IPネットワーク、PSTN)
- アプリケーション制御(上位層の包括的制御、一種の仮想化)
- IMS(IP Multimedia Sub-system)
- トランスポート・ストラタム
サービスの品質を決定する多くの部分をサービス・ストラタムが担っている。特にIMSは、セッションの管理、帯域管理など、サービス制御に関する重要な部分を担っている。
IMSが担う機能について、インターネットの世界ではそれぞれ別のプロトコルが階層的に用意され、処理されてきた。それらですらも必ずしも安定したものではなく試行錯誤が続いているが、現在のインターネットは運用技術によってその課題を吸収できている。
一方IMSにその役割が担えるのか。ここは一つの課題だろう。少なくとも「まだ誰もやったことがない」ことはリスク要因である。ただこれを吸収する運用ノウハウの一部は、携帯電話事業者が3G/GPRSシステム・ネットワークの運用によって蓄積している。その意味でNGNに携帯電話事業者の関与は欠かせないだろう。
設計思想
上記のアーキテクチャから、NGNの設計思想が垣間見える。すなわちNGNとは、
- サービスによる伝送の制御
- セッション管理によるサービスの制御
の実現を目的とした、「サービスによって制御されるインテリジェント・ネットワーク」だと言える。
これはインターネットの考え方とは大きく異なる。インターネットは、サービスと伝送を階層によって分離し、両者が互いの状況を知らなくても通信が可能なネットワーク(スチューピッド・ネットワーク)を目指して設計された。それはインターネット以前の主流であった回線交換網が抱えていた、不効率および物理的な攻撃への脆弱性の改善を目指して設計されたからである。
通信の変革は、ある人が「違う方法を考えた!」と言ったところから始まりました。それがパケット交換です。この方法は回線交換とは全く違う方法で、この話を聞いた電話会社の関係者の反応は「これは絶対に動かない」というものでした。
しかし通信キャリア(特に電話事業者)は未だにパケット交換網の品質に対する信頼性は低いと考えている。それはパケット交換網が、理論的にはベスト・エフォートとしか表現できない方式で通信しているからである。しかし上記のリンク先をさらに読み進めていただければ分かるとおり、ヴィント・サーフ氏ははじめからそのつもりで実装したのだから、当然といえば当然である。
そこで通信キャリアは、彼らが信じる「通信の品質・信頼性」をIP技術で実現するために、回線交換網の思想をIPで表現しようとした。前述の「サービスと伝送の機能的分離」と「サービスによる伝送の制御」はまさにそれを実現したアーキテクチャであり、その中核には(パケットスイッチではなく)交換スイッチの役割を果たすIMSが欠かさない。
すなわちNGNとは、回線交換網の伝送技術をIPに置き換えた(に過ぎない)ネットワークのである。
サービス内容
○特集1:NGN(Next Generation Network)概説 - JPNIC(JPNICニュースレター)
- PSTN/ISDNエミュレーション
- 従来の電話網との互換サービスです。ユーザーはNGNへの切り替えを意識せず、従来の電話機もそのまま利用できます。
- PSTN/ISDNシミュレーション
- 同じく電話サービスですが、電話機とのインターフェースはIPとし、従来の電話機はアダプタを介して接続します。後方互換性よりも将来への拡張性や作りやすさを重視します。
- マルチメディアサービス
- IP網ならではのサービスです。公衆網と接続可能な音声通話、PTT (Push To Talk)、 IM/SMS/MMS等の各種メッセージング、テレビ電話やゲーム、eラーニングなどの一対一・多人数マルチメディア通信、プレゼンス、位置情報を使ったガイド等のサービス、などが考えられています。将来的にはテレビ放送も検討される予定です。
- インターネットアクセス
- インターネットへの接続もNGNを介して可能です。
- その他
- VPN、ファイル転送等のデータサービス、センサー・ネットワーク、ユーザーの機器の管理を代行するOver the Network (OTN)デバイス管理、などが挙げられていますが、2005年9月現在では具体的な検討は行われていません。
- 公衆サービス
- 110番などの緊急通信、警察による合法的盗聴、身障者への対応、サービス・プロバイダーの選択、プライバシーの保護、悪意あるユーザーの追跡など、社会インフラならではのサービスです。こうしたサービスは国毎に法規制が異なるため、それらへの適合が重要となります。
このような「先祖返り」のネットワークを実装する必要があったのは、NGNが当初「既存の公衆電話網のIPによる置換」を目指して設計されたからである。既存の電話サービスが提供する品質は、それを実現しているアーキテクチャの模倣をしなければ実現できない。ましてやインターネットの通信方式ではとても品質を保証できない…このような考え方による。それゆえ、そこで想定されているサービスも、既存の電話から派生するものが多い。
やや余談じみるが、NGNインフラの機器ベンダとしてプレゼンスを有しているのが、CiscoやJuniperといった「インターネット機器ベンダ」ではなく、EricssonやNECといった「交換機ベンダ(もしくは携帯電話インフラベンダ)」が多いのが興味深い。その理由の一つには、すでに3Gインフラの設計でIPベースの交換網/交換機を手がけた経験があり、IMSの実装に優位性を持っていたことが挙げられるだろう。またNGNの標準化がETSI、3GPP、ITU-Tと言った欧州系(さらに言えば非インターネット系)団体によって進められていることも影響しているとも考えられる。
他ネットワークとの接続
○NTTのNGNは「オープンな標準を使ったクローズド網」~IIJが説明
このうち、インタラクティブ通信とマルチキャスト通信については、トランスポート層以上の高位レイヤまで、使用するプロトコルが多く規定されているのが特徴。インターネットで規定されているのはだいたいネットワーク層のIPまでのため、島上氏は上位レイヤまで規定されているNGNに対して「特異」との印象を受けたという。なお、インタラクティブ通信、マルチキャスト通信ともQoSが提供されるのも特徴で、UNIとSNIとの間におけるSIPを用いたセッション管理とNGN網内でのQoSが、NTTのNGNの肝だとしている。
一方、PPPoEによってNNI経由でインターネットへ接続する場合はQoSは利用できず、ベストエフォートとなる。島上氏は、インターネット接続という観点で見る限り、NGNは単なるアクセス回線であり、現在のフレッツ網を利用した接続と何ら変わりがないと指摘。そうなると、輻輳時の公平な制御など、フレッツ網で発生している問題がそのまま問題となるのではいかと懸念する。
ここでNTTのNGNに議論の焦点を向ける。NTTのNGNでは、他ネットワークのために、以下のインタフェースを用意している。
- NNI(Network-Network Interface)
- 他社ネットワークやインターネットとの接続インタフェース
- SNI(Application Server-Network Interface)
- VODやIPマルチキャスト放送、アプリケーションサーバ等との接続インタフェース
- UNI(User-Network Interface)
- ユーザ端末との接続インタフェース
UNIはユーザと局舎と結ぶインタフェースで、SNIやNNIはNGN内での接続インタフェースである。UNIでコネクティビティを構築し、SNIやNNIで制御されたデータ転送をUNIが末端まで伝送することになる。その意味で、SNIやNNIの制御とUNIの制御は連携しており、SNIやNNIで指定されたデータ転送の方式をUNIが制御し、端末にデリバリする形になる。
特徴としては、以下が挙げられる。
- インタフェースの提供形状
- アプリケーションシステムの世界でいうAPIのような形でインタフェースが提供されている
- ネットワークインタフェースがサービス領域をカバーしている
- SNIが制御するVODやIP放送では、アプリケショーンで使用するプロトコルが詳細に規定されている
- SIP技術が用いられている
これを踏まえた論点としては、以下のように整理される。
- NNIのようなネットワーク相互接続機能がAPI的な方法で提供されること
- 現状ではNNIを介したインターネット接続ではPPPoEによるフレッツ網利用と変わらない形態が提供されるようである
- 従ってこの部分が今後何らかの形で制約される可能性はある
- 例1:NTT側からの帯域制御の要請
- 例2:SNIで規定するアプリケーション・データの伝送の制限の要請
- また上記の構造によりNNIを介した他ネットワークの提供ではNGNが目指す品質の確保は困難である
- SNIのアプリケーションプロトコル規定の詳細さ
- SNIで規定する領域についてはNTTは他サービスベンダへの開放を制御するだろう(NTTの事実上独占も考えられうる)
- その時、NNIを介したインターネット上での類似サービスを共存させるのか
大きな懸念として、これまでのフレッツ網が下位層の制御によるサービス提供の「優位性確保」にとどまっていたのに対し、NGNではサービス制御をも行う(冒頭の「サービス・ストラタム」の領域)ため、他サービスベンダがインフラとしてサービス提供を行うことが制限されるのではないか、という点が挙げられよう。すなわち、ネットワーク利用の自由度が制限される可能性がある、ということである。
もちろん、自由度を制限することで品質を確保しようと目論むのがNGNであるため、当然の帰結と言うこともできる。ただ一方で自由度を制約された環境をエンドユーザ(特にインターネット利用にすでに親しんでいるエンタープライズ・ユーザ)がどの程度許容できるのかは未知数である。また自由度の制限がユーザニーズではなくサプライサイド(ネットワーク管理者やコンテンツプロバイダ)の都合によって導かれているように見える(特にSNIにおけるコンテンツ伝送サービスのあたり)のも、この懸念を大きく見せていると言えよう。
インターネット側からの懸念
○「一見オープンなようで、実はクローズドなネットワークだ」、IIJがNTTのNGN構想に疑問を提示 | 日経 xTECH(クロステック)
ただ、NTT版NGNによって垂直統合型の囲い込みが進むようなら、日本はネットワークの利用で世界に立ち後れてしまう恐れがある
電話、テレビから医療、教育まで様々なサービスを安心・安全に提供するIP(インターネット・プロトコル)網を目指す次世代ネットワーク(NGN)に通信各社はしのぎを削っているが、顧客の囲い込みやインターネットの自由が失われるのではとの課題も指摘され始めた。慶大環境情報学部教授の村井純氏は「インターネットは(NGNに比べ)『ぼろい』。しかし、誰もが参加できる創造的社会の基盤としてのインターネットは維持すべき」と問題提起。キャリアや行政、ユーザーなど様々な立場から発言が相次いだ。
アーキテクチャが異なり、その背景にある思想も異なるNGNに対し、インターネット側から懸念を提示されることが増えた。そしてその懸念は、技術よりもむしろビジネスモデルに関する懸念が多く見受けられる。すなわち、NGNで想定される通信キャリア主導の垂直統合型ビジネスモデルが、これまでのインターネットが果たしてきた産業振興や文化創造の土壌を揺るがすのではないか、というものである。
ただ、公衆電話網の維持・開発は、通信事業者にとってすでに大きな経営負担となりつつあるのは厳然たる事実だ。実際、それを維持・開発する人材が高齢化していること、IP技術が台頭する中で若年層の育成が合理的ではないことなど、すでに現実的な問題が切迫している。また通信事業者はインターネット・サービスの提供を兼ねているケースが多く、同じサービスに異なる二つの通信インフラを用意するのは設備投資の多重化を招く。
従って、通信事業者(特に電話事業者)はNGNを推進しなければならない理由があり、NGN自体もインターネット側の懸念に係わらず進んでいくことになると考えられる。とすると問題は、インターネット側がどのようにNGNを御していくのか、それをビジネスモデルと技術の両方でどのように担保していくのか、という検討が必要になる。
私は、おそらくそこで重要となるのは、次の技術とそれに裏付けられたサービスモデルだと思っている。
- 仮想化(オーバーレイ・ネットワーク)
- 物理層の制御
- 認証
- 仮想化によってユーザの匿名性は高まるが、それはサービスモデルの脆弱性にもつながる(誰から課金すればいいのか分からなくなる)
- 仮想化と認証が折り合うための技術が求められる
NTTのフィールドトライアルに向けた仕様の検討
○NTT HOME > 次世代ネットワークのフィールドトライアルのインタフェース条件開示および参加受付の開始について
○次世代ネットワークのフィールドトライアルのインタフェース条件開示および参加受付の開始について
フィールドトライアルにおいては、ネットワーク間、ユーザ端末とネットワーク間、アプリケーションサーバとネットワーク間のインタフェースを情報家電ベンダ、サービスプロバイダや他キャリア等の皆様に広く開示して、コネクティビティの確保を推進し、アプリケーションサービスのご提案を頂きます。
本書は、次世代ネットワーク技術に関して、出来るだけ最新の技術内容、動向を盛り込んだ。その内容として、(1)NGNに向けた背景と世界の動き、(2)NGNのキーワード(安心・安全、電話網マイグレーション、FMC、IPTV、IMS、SIP、Megaco、IPv4/IPv6、光ネットワーク技術)、(3)NGNのプロトコル技術(SIP、Megaco、IPv4/IPv6)、(4)NGNに対するNTTと諸外国の取り組み、(5)NGN相互接続に向けた取り組み、等のキーワードを読み解くことを狙いとしている。
トライアルの詳細仕様は来月末頃に公表される可能性が高いが、上記の実験概要を眺めた限り、NTTとしては「ネットワークのブラックボックス化」を目指しているように思える。アプリケーション・システムに喩えるなら、キャリアとしてAPIを公開し、それに適合すればNGNサービスを使えるが、API自体の仕様設計はNTT自身で行う、というものである。
おそらくこれまでの資料を見ると、NTTは「インターネットがNGNに(オーバーレイ的に)乗り入れるためのAPI」をNNIという形で用意し、各ISPに提供することになるだろう。現在のフレッツ網とISPの関係を(完全ではないにせよ)ソフトウェア的に表現したもの、と考えればイメージしやすい。
ただしそのインターフェースを使用する際の条件として、もう少しNTTの支配を強めた関係(ちょうどドコモとコンテンツプロバイダの関係)になるかもしれない。ここは従来の両者の関係を変えることになる可能性がある。特にサービス提供だけではなく課金体系などのビジネスモデルに直接影響を及ぼす可能性が考えられよう。
いくつかのキャリアやISPはそこに相乗りすることを決めるだろう。一方で、垂直統合に近いサービスを自らの手で実現しようとするキャリアやISPは、必ずしもそこには乗らないことになる。その時、垂直統合の上位にあるアプリケーションやサービスは、おそらく何らかの形で囲い込まれることが予想される。
想定される課題
ここまでの資料を受けて、NGNに関する現時点での想定される課題は以下の通り。
- 技術
- 運用
- 技術課題は当面運用で吸収することになるが、まだ誰も運用していない
- ベンダが設備の技術の中核を握ることになるが、通信事業者にその設計監理・運用管理ができるのか
- 事業
- インターネットとの関係
現時点でのまとめ
やや月並みな結論になってしまうが、「アプリケーションやサービスによってネットワークが選ばれていく」のだとは思われる。
ただしそこでの評価基準は、機能やインターフェースだけでなく、下位層とどのように紐付けられているか、その紐付けによってサービスの利便性がどの程度向上しているか、も含まれてくることになる。すなわち、アプリケーションやサービス単体ではなく、ビジネスモデルも含めた「総体」として評価されていく、ということである。
だとすれば、NGNが垂直的なサービス統合体を用意している以上、それに対抗するインターネットの側も、下位層から上位層までをNTTのNGNに依存せずに提供できる環境を用意する必要に迫られよう。それを実現できるプレイヤーとして真っ先に名前が挙がるのはソフトバンク=Yahoo!だろうが、WiFiやWiMAX等の技術を軸にした別事業者による新たな展開があるのかもしれない。
現時点でそれらの動きはまだ統合されていないので、当然バラバラな形で出てくるであろう。それゆえ状況を読み解くのがやっかいではあるのだが、現時点では仕方あるまい。というわけで、上記のポインタ周辺も含め、引き続き追いかけていきたい。