餅月望は「この一作で消えてくれたら言うことはない」作家か?

少年少女科学倶楽部の『小学星のプリンセス☆』評から。

あともう一つはちょっとググってみれば解かるとおり、某学院の出身者だってことですね。んでもってスーパーダッシュの新人賞にそれらしい名前がないという状況で、まあ、正直別の捉え方として興味深いんだけど、それはまあ「この一作で消えてくれたら言うことはない」というだけにとどめときます。

しかしこの人の影で何人が人生棒に振っているんだろうねぇ。そしてこの人の影響で人生を棒に振る人が何人追加されるんだろうか。

文中で言及されている「某学院」というのはアミューズメントメディア総合学院のこと。「正直別の捉え方として興味深い」というのは、おそらく新人賞を経ずにアミューズメントメディア総合学院に関係する人脈の伝手でデビューしたと推測できるということを指しているのだろう。
先日、『小学星のプリンセス☆』の感想文を書いたときにそのことは少し気になっていて、「追記」として作者の餅月望がアミューズメントメディア総合学院出身者であることを書いておいたのだが、狩田氏はより踏み込んで*1「この一作で消えてくれたら言うことはない」と言っている。そこだけ読んだのでは単なる誹謗中傷とも思われるかもしれないが、同じワナヒジネスウォッチングカテゴリー*2、特にこれが最後のワナビジネスではないを読めば、狩田氏の真意が理解できることだろう。また、別カテゴリーだが、自費・共同系の出版社から出た本の献本についてやなぜ、ワナビジネスは実写映画化したがるのか?も参照されたい。
以下、今リンクした文章をすべて読んだ人のみを対象として、思うところを書いてみる。
狩田氏がいう「ワナビジネス」の問題点を整理すると、そこには2種類の論点が含まれていることがわかる。

「ワナビジネス」とワナビーの間の問題
「本を出したい」「声優になりたい」という欲求をもった人々に対して、さまざまなテクニックを弄して、欲求の実現の可能性を実際以上に高く見せかけることにより、受益に比べて多大な負担を強いるという問題
「ワナビジネス」と消費者の間の問題
さまざまな仕掛けによりワナビーの欲求を本当に実現させてしまい、質の低い本やアニメなどが市場に出回り、消費者の利益を損なうという問題

ひどく突き放した言い方をしてしまえば、前者については「そんな『うまい話』に乗せられて振り回されるほうが悪い」、後者については「紛い物を紛い物と見抜けない人には(以下略)」と言うこともできる。すべては「自己責任」であり、「ワナビジネス」が悪いわけではない、という発想だ。
もちろん、これは極論であって、公序良俗に反するような不当契約や、事実に反する広告に基づく勧誘、あるいはそれ以上の犯罪行為までもが正当化されるわけではない。では、逆にどこまでなら正当なビジネスとして許されるのか? これはなかなか難しい問題であり、深く考えると商道徳とは何ぞや、というところまで行き着きかねない。さすがにそこまで踏み込む気はないので、ここでは「ワナビジネス」以外の経済活動で認められている程度の事柄については、それが「ワナビジネス」に関するというだけの理由では非難に値するわけではないが、それを越える場合には容認できないという大まかな基準を提示するだけにとどめておこう。もちろん、これだけでは何も言っていないに等しいので、具体的な場合に応じて個別に検討しなければならないのは言うまでもない。
さて、前置きが長くなったが、ここからが本題だ。餅月望という作家のデビューについてどう評価するか?
順序は逆になるが、まず先に掲げた論点のうち2つめのほうから検討することにしよう。
デビューの経緯について特に情報を持っているわけではないが、仮にアミューズメントメディア総合学院系の人脈のコネでデビューが実現したのだとしても、それは果たして不当なことなのだろうか?
そうは思わない。
コネがないよりあったほうが、編集者に原稿を見て貰うには有利だろう*3が、いずれにせよ出来が悪ければ出版して貰えない。もし、何らかの圧力により出版に値しない駄作を市場に垂れ流したのであれば読者にとってはいい迷惑だが、『小学星のプリンセス☆』は人によって好き嫌いは分かれるかもしれないが、少なくとも出版するに足る水準以上の作品であることは間違いない。とすれば、そこに何の問題があるというのだろうか?
では、もうひとつの論点のほうはどうか。餅月望本人はデビューを果たせたのだからいいが、その陰では全く芽も葉も出ずに枯れていった人々が無数にいることだろう。そして、今後、アミューズメントメディア総合学院が餅月望を広告塔として利用しようとすることは十分に考えられる。
が、既に田代裕彦や野島けんじなど、アミューズメントメディア総合学院出身の作家が何人もいる。狩田氏もよもやハセガワケイスケに「消えてくれたら言うことはない」とは言わないだろう。いや、言うかもしれないが、ともあれ餅月望ひとりの影響で人生を棒に振る人が出るとは考えにくいし、逆に餅月望ひとりの影響で人生を棒に振る人が続出するような逸材なのだとすれば、そのような力を秘めた作家を一作で消えさせてしまうのはライトノベル界にとって重大な損失だとも言える。
……話の勢いで、狩田氏の一言片句をあげつらってケチをつけるような書き方になってしまったが、狩田氏の基本的な考え方に異を唱えるつもりはない。ただ、「ワナビジネス」への危惧は危惧として、作品評や作家評はできれば分けてほしいと思う。それが言いたかっただけなのだが、つい長くなってしまった。妄言多謝。

余談

上の文章はもちろんライトノベル界にロリ師弟が誕生しましたを読んでから書いたものだが、実はそれ以前に関連する話題で文章を書こうとして失敗し、2時間を棒に振った*4ことがある。
もう一度2時間を費やす気はないので、端折って書くが、アミューズメントメディア総合学院のサイトにちょっと気になる表現がある。

ざっと見た感じでは、トップページ以外の各ページのタイトルは「……を目指すための専門学校」となっている*5。ところが、東京都私学行政課の私立専修学校・各種学校一覧には「アミューズメントメディア総合学院」という名称の学校は掲載されていない*6。つまり、学校教育法に基づく専修学校ではなく、無認可校ということになるのだが、そうすると「専門学校」というのは僭称ではないのか? 同法第135条第2項の規定は教育施設の名称のみに制限を加えたものであり、「アミューズメントメディア総合学院」という名称の中には「専門学校」という語句は含まれていないから直ちに学校教育法違反だということにはならないにせよ、このような表示は相当いかがわしいように思われる。

追記(2008/06/30)

上の文章を受けて少年少女科学倶楽部で補足説明が行われている(なぜ、ワナビジネスは問題なのか?)ので、併せてお読みいただきたい。また、コメント欄も参照のこと。
ちなみに、JRの学生割引と通学定期については旅客営業規則(1987)に規定がある。各社の「学校及び救護施設指定取扱規則」はネット上では探し出せなかったが、JR東日本:きっぷに関するご案内では「JRから指定を受けた中学・高校・大学・専修・各種学校の学生・生徒」と書かれているので、無認可校は対象外だとわかる。

追記の追記(2008/11/12)

その後アミューズメントメディア総合学院のサイトを全然見ていなかったので今日まで気づかなかったが、上の「余談」で指摘したページタイトルの「専門学校」はすべて「学」抜きの「専門校」に訂正されている。

*1:それでも「とどめときます」ということなのだから、本当はもっと踏み込みたかったのだろう。

*2:なぜか「ワナヒジネス」となっているが、これは単なる誤記だろうか?

*3:ここをみると、もう少し関わりは深いようだが。

*4:2時間かかって書いた文章がわずか一瞬で完全消滅した。はその名残。さすがに懲りたので、今回はテキストエディタを使って書いている。

*5:トップページだけは「学」の字が抜けているが、これは字数の都合だろうか。

*6:大阪府のほうは一覧表が更新中で確認できなかった。