おばば奇譚

ここ数ヶ月、いや半年ほど娘がムッシュウＨｉｒｏのケーキ「怪盗セピア」が食べたいと何度も言い続けていた。
それでネットで一番人気というチョコレートケーキのミキュイを年末に注文したのだが、娘曰く、これよりも怪盗セピアの方が私は好き。うーむ、値段は倍以上するのに。
お正月、帰郷した息子が突然「あの怪盗セピアは美味しかったね」と言いだした。二人揃ってなんで突然、怪盗セピア怪盗セピアというのだろうとちょっと不思議で偶然でおかしくもあった。それに、子供頃に食べたケーキの味ってそんなに忘れられないものなのかと感動すら感じていた。仕事も辞めて、経済的にもそれほど豊かでなくなっていたので、ケーキを１ホール買うということも少なくなっていた所為もあるが。
１月の娘の誕生日に何がいいか？と聞いたら、またもや「怪盗セピア」もう、これは買いにいくしかないなと。久留米に車を走らせたのだが、お店は閉まっていた。もう、どうして休業日に限って尋ねる自分の不運さを嘆いた。

今日、八女に行ったので、帰りに寄った。お店の前に花が沢山が飾ってある。


改装祝いかなにかしらと思いつつ、よかった開いてて。飛び込んで「怪盗セピア」を下さい！「すみません売り切れました」ギエエエエ残念。店員さんがこれ１個だけだったらあるのですがと見せてくれたのが、怪盗セピアのワンカット。それ一つだけ下さい。これがおばばの厚かましさだ。笑　
だけど、お店は全然変わっていない。気になって尋ねた。お花が沢山あるけど何かお祝いでも？「去年の８月にムッシュが亡くなって、今日から奥さんが作り始めたのです」
がーん！そういうことだったのか。それで何回かたずねたのにしまっていたのだ。車の中から見るだけだったので、貼り紙を詳しく読んでもいなかった。「そうだったのですか。どうりで来ても閉じていたのですね。知らなくてごめんなさい」。


もう一つこのお店の人気商品「アリスのパイ」

こういう事ってあるんですね。不思議だったのです。突然「怪盗セピア」「怪盗セピア」と、思いだしたように言い出した二人の子供。今日、その大事なひとかけらのケーキを娘が嬉しそうに食べました。「ああ、この味、これよこれ、やっぱりチョコレートケーキはこれよ」と。
奥様、旦那様の作ったケーキと同じ味でしたよ。涙。ご冥福をお祈りします。