斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

専業主婦(主夫)向けの第3号被保険者の縮小が昔から議論されているのは事実。背景が"働く女性の声を受け"は本当か

週刊ポストの、

働く女性の声を受け「無職の専業主婦」の年金半額案も検討される(マネーポストWEB) - Yahoo!ニュース

この記事が話題になっています。「分断統治だ」「働く女性のせいにするな」といったようなリアクションが多いですかね。

私は、掲載しているのが週刊ポストのWeb媒体であるということと、内容が昔っから廃止が議論され続けていた第3号被保険者のことなので、この記事の中での、

第3号については共稼ぎの妻や働く独身女性などから「保険料を負担せずに年金受給は不公平」という不満が根強くあり、政府は男女共同参画基本計画で〈第3号被保険者を縮小していく〉と閣議決定し、国策として妻たちからなんとかして保険料を徴収する作戦を進めている。

この部分は、「ああ、週刊ポストらしい書きぶりだな」と思って眺めていて、そんなにモヤモヤはしませんでした。構図としては、この前の『妹の姉』と同じですね。

私が、藤本タツキ『妹の姉』をそこそこ楽しめたのは少年ジャンプ+で『ファイアパンチ』を読んでいたのはありそう - 斗比主閲子の姑日記

この辺が分かりやすいので紹介すると、週刊ポストのWeb媒体での人気記事ランキングはこんな感じです。

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※出所:マネーポストWEB

まあ、分かりやすい。この記事が転載されたYahoo!ニュースのコメント欄でも記事に対するツッコミが一番上にあるぐらい。

kiy*****さんのページ | Yahoo!ニュース 

週刊ポストの記者。
厚生年金保険の仕組みが解ってない。
厚生年金保険料が基礎年金の保険料に、3号の妻の基礎年金保険料が支払われていることを。
だから、3号の妻が、(誰が支払うかは別の問題だが、)保険料を支払わないで、年金受給できるというのは、誤り。
厚生年金勘定から、3号の妻の保険料の相当額が、会社員全員の基礎年金相当額とともに、国民年金勘定へと、移動され、充当されている。
よって、国民年金は、3号があってもなかっても、収支は同じ。
3号があるから、国民年金が大変だとか、負担が多いとか、赤字だとかには、制度上ならない。

問題は、厚生年金の保険料を支払う者に、3号の妻がいる人と、いない人がいるということ。
独身の男女が、3号の方の保険料をも負担しているという点にある。
つまり、独身の会社員の負担を増していることだ。

独身会社員と、妻ある会社員との厚生年金保険料が同等なのだから。

面白ければ何でも良いみたいな、対立煽り前提の媒体が週刊ポストだというのが私の認識です。

だけど、書いていることが全部嘘かといえばそうではなく、政府が男女共同参画基本計画で第3号被保険者を縮小していくと閣議決定をしたのは事実です。これは本当。

でも、昨日今日のことではなく、平成27年12月、だいたい4年前のことです。

第4次男女共同参画基本計画(平成27年12月25日決定) | 内閣府男女共同参画局

第9分野 男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備

・ 社会保障制度について、平成 28 å¹´ 10 月からの短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大を着実に実施するとともに、更なる被用者保険の適用拡大を進めていく中で第3号被保険者を縮小していく方向で検討を進める 

そして、第3号被保険者の縮小自体はもう何十年も議論されてきていることです。詳しくは、hamachanさんの記事をどうぞ。

第3号被保険者問題の経緯: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)

では、"働く女性の声を受け"というのは本当でしょうか。

最近の行政の議事録や報道では見つけられませんでしたが、2011年9月29日の第3回社会保障審議会年金部会での議事録から見つけることができました。

第3回社会保障審議会年金部会議事録 |厚生労働省

〇花井委員 この第3号被保険者問題は、1985年に年金法が改正されて以来ずっと議論されてきたわけです。働く女性にとっては大変不公平な制度だと、働き方に中立ではないということで批判されてきた制度でもあったと思います。そのことに対しまして、さまざまな検討がなされ、そして、2001年にあり方検討会で、相当回数を重ねて、さまざまな解決法まで提示されてきたわけですが、それでも決着つかず、結局、26年以上制度が続いているということに大きな問題があると思っております。今回の年金部会において一歩前に進む方法を模索していくべきではないかということをまず述べておきたいと思います。

花井委員は、当時、日本労働組合総連合会(連合)の総合政策局長であった花井圭子さんです。2011年ですから、民主党政権化時代であり、連合は今でも支持政党は基本的に民主党系です。私は直接は見聞きしたことはないけれど、このように働く女性にとっては不公平な制度だと連合の女性局長が言っているぐらいですから、一定程度"働く女性"の声はあったのでしょう。

以上、事実関係を少し紹介してみました。

これをもって何が言いたいかというと、週刊ポストの記事だけで持って、第3号被保険者の縮小が最近議論され始めたように考えたり、現在の政府が働く女性と専業主婦とを分断統治をしようとしていると批判するのは、ちょっとどうかなということです。

私個人としては、週刊ポストが書いている、

厚労省や社会保険審議会では、無職の主婦から保険料を取る方法も検討してきた。

社会保障審議会の年金部会は直近は3月(その前は去年の11月)だけど、第3号のことは触れられていませんし、

社会保障審議会(年金部会)|厚生労働省

こんな昔っから言われていることをさも今新しく出てきた問題みたいに書くのはどういう了見だと週刊ポストを運営している小学館に聞きたいところです。たぶん、媒体が売れさえすればよくて、何も考えていないでしょうけど。