冒頭

――。 みんなが力を合わせたこともあって、敵僚艦はすでに撃破できた。 あとは姫級深海棲艦一隻を残すのみとなっていた。 「目標、姫級深海棲艦。全艦砲撃開始。ここで決着をつけて、暁の水平線に勝利を刻みましょう!」 「「「了解ッ!」」」 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:33:28
私たちは今日この時のために、艦娘として訓練を耐え、数多の実戦を生き延び、がんばってきた。 戦いの半ばで沈んでしまった仲間たちのためにも。 だから負けない。 苦楽を共にしてきた仲間たちと一緒だから。 だから私たちはもう、絶対に負けない。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:34:41
「馬鹿ナ コノ 私ガ……ウワアアアアアアア!!111」 ――こうして、ひとつの戦いは終結を迎えた。 周辺一帯の安全を確認すると、艦隊旗艦である私は、仲間たちに海域からの離脱を指示する。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:35:37
まただ。それはまた、私のところにやってきていた。 それは私のような、生身の人間から艦娘になった人なら誰でもかかる、ちょっとした発作のような物。 精神的な幻肢痛とも言うべき、精神と身体の痛みを綯交ぜにしたようなありえない痛みがやってくる。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:37:45
……故郷に帰りたい。 けれどその故郷が何処であったかを思い出すことさえもう、叶わない。 艦娘に成った時の反動で、以前の頃の記憶がロックされてしまっているから。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:39:46
ジリ、と耳障りな波濤の音がどこか遠くから聞こえてくる。私がそれを手で振り払うようにすると、音はそれっきり聞こえなくなり、海面は静かな波の音を取り戻した。 なだらかな水平線のように、すっきりした気持ち。発作のほうもなんとか収まったみたいだった。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:40:24
私たちが艦娘としてある限り。深海棲艦がこの広大な海にいる限り。私たちの戦いに終止符なんて訪れない。 永劫、訪れる夢。叶わぬ夢。 戦いの終わりは、次の戦いの始まりの合図。ただそれだけ。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:42:48
これまでも、これからも。 この広大な海だらけの世界で、私たちの戦いは始まりと終わりとをただただ繰り返していく――。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:44:19暗転 ~幕間 ~熔明
本編第1話『吹雪、がんばります!』

――それが夢。ただの夢だったと気がついたのは、それからしばらく経ってからのこと。 カーテンの隙間から差しこむ光を浴びて、私は目を覚ます。 ここがどこで、私が誰だったのかを思い出そうとする。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:53:21
ここは部屋の中。ふわふわで、あったかなベッド。 さっきまでここで眠っていたみたい。 ゆっくりと上半身を起こして、眠気に沈んだ眦を手で擦りながら鏡を見やると、そこに寝ぼけ眼をした女の子の姿があった。 思い出す。そう、これが私。他ならぬ私自身の姿だ。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:55:23
学園の成績は中くらい。スタイルも中くらい。 いたって健康で普通で、普通の女の子。それが私だ。 何の夢を見ていたんだったっけ。仲間たちと一緒に、ピンチを切り抜けて、うーん? そこから先はうまく思い出すことができなかった。 そんな、風変わりな朝だった。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:57:00
そんな私の枕元にはカチコチと規則的な音を立てる、お気に入りの目覚まし時計が置いてある。 夢から覚め、いろいろ思い出した私がハッキリと目を開けた時には、目覚ましのスイッチは切ってあって。時計の針は……朝の7時半を刻んでいて。 ……7時半? ……7時半! #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 22:58:14
カーテンの隙間から差しこむ麗らかで陽気な陽射し。 今日から新しい学生生活を迎えようとしているときに。 まさか新学期早々遅刻寸前の大ピンチになってるなんて。 慌てて制服に着替えを済ませて、お母さんがとっくに朝ごはんを作ってるだろう食卓に向かって走る。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:00:12
「おはよう。今日は珍しくお寝坊さんだな」 「もーっ。どうしてもっと早く起こしてくれなかったのよ!」 お父さんお母さんにやつあたりしても仕方ないんだけど。ついつい大声を出してしまう。 「あんた、遅刻しないようにって目覚ましかけて寝たんじゃなかったの?」 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:05:05
えっと。そうそう。昨日は寝る前に目覚まし時計をしっかりセットしてたはずなのに、いつの間にスイッチを切ってしまってたんだろう。 思い出そうとしても、全然なにも思い出せなかった。 ……あれ? ……あれ? #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:06:16
「そういえば、昨夜あなた宛てに封筒が届いていたわよ」 封筒? お母さんから受け取った封筒を見ると宛名も何も書かれていない、いかにも怪しげな封筒だった。 おそるおそる中を開けてみたら、赤い紙が一枚入っていただけ。 「赤い紙?」 わけがわからなかった。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:10:16
「ははは。いまどき赤紙なんて時代錯誤な悪戯もあったものだなあ」 「そうね。最近こういうのが増えて嫌になっちゃう」 お父さんとお母さんは笑い、私は中に入っていた赤い紙を封筒ごとポイッとくずかごに投げ捨てた。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:10:50
「っと。いけないいけない。早くしないと遅刻遅刻!」 そうそう。こんなことをしてる場合じゃない。 チャイムが鳴るまでに学校につかないと、時間にルーズな子だと思われちゃう! 私はこんがり焼けたトーストをくわえたまま、鞄を持ってダッシュで家を飛び出した。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:12:50
ぽかぽか明るい陽気に包まれて過ごす朝。 お父さんとお母さんにおはようの挨拶をして。 学園の友達と、かけがえのない思い出を作って。 そんな当たり前の日々。 本当ならこのまま学園生活が始まって、何事もない、ありふれた日常が続いていくはずだったのに。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:15:20
そこの曲がり角を曲がったら、あとは直進で走り抜けるだけで学校だ――そう思ってうっかり気を抜いた、その一瞬の出来事だった。 「きゃん!」 曲がり角を曲がる拍子で、すれ違い誰かとぶつかってしまったみたいだった。 #艦隊コレクター吹雪ちゃん
2015-01-06 23:19:28