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主に映画の感想文を書いています

「この空の花 長岡花火物語」バリアフリー版、大林千茱萸さんの全面監修にて上映します(7/14〜@シネマ・チュプキ・タバタ)

2020年、大林宣彦監督の訃報をきっかけにわたしが大林映画および大林監督にまさしく心酔してしまったことは、本ブログを読んでくださっていた方であれば嫌というほどご存知かと思います。

一気見した関連作品は50本超、本も読み漁り、得られる情報は得られるだけ得て、「大林宣彦監督について書いた記事一覧」なんていう目次記事も作ったほどでした。

2020年の10月には、深谷シネマにて開催された『海辺の映画館-キネマの玉手箱』の上映&舞台挨拶にて、奥様の恭子さんと、ご息女の千茱萸さんに初めてお会いしました。映画をもっと広めてください、とお二人からそれぞれ使命をいただき、当時できることはブログを書くことくらいだったのでひたすら書いていました。

そののち、現在でもヘビーリスナーであるTBSラジオ「アフター6ジャンクション(アトロク)」をきっかけに映画のアクセシビリティに興味を持ったわたしは、東京・田端のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」と出会い、なんという巡り合わせか『海辺の映画館』に音声ガイドを付ける、という大役をさせてもらえることになります。

主演の厚木拓郎さんに観に来ていただけたり、アトロクで宇多丸さんにこの件のメールを読んでもらえたり、この時も一体何がどうしてこうなったのかという夢見心地でした。

気付けば、わたしは17年間続けていた食品製造業を辞め、シネマチュプキに就職していました。どういうわけか、映画館スタッフになったわけです。それが今です。

そしてこの度、大林監督2012年公開の作品『この空の花 長岡花火物語』を、チュプキにて上映できることになりました。上に貼った記事にも詳しく書いてありますが、チュプキは上映する全ての映画にバリアフリー日本語字幕と音声ガイドを付けて上映している映画館です。『この空の花』には、それらがありません。付ける=作る必要があります。言わずもがな、ガイドはわたしが担当です。

前回『海辺の映画館』では、台詞データの提供は公式にいただきました。しかしコロナ禍真っ盛りだったこともあり、以降の作業はこちら側で完結させてしまいました。今回はというと、2020年の深谷以来何度かお会いする機会のあった大林千茱萸さんにご連絡をし、バリアフリー版制作の全面協力をいただけることになりました。

5月中旬には千茱萸さんご同席のもと「音声ガイド検討会」を実施。並行して字幕制作(制作は外部の専門チームに委託)も細かく監修いただき、きわめつけとして「音声ガイドのナレーション」も千茱萸さんのお声で収録させていただきました。一昨日が、その収録日でした。

雲の上の存在だった千茱萸さんに自分の書いた原稿を読んでいただくという経験。『この空の花』はラストに監督自らの声でナレーションが入りますが、そこから引き継ぐかたちで入れた千茱萸さんのナレーションの、感慨深さ。どれぐらいすごいことなのか、まだ客観視できていません。

そんなわけで、その上映告知です。もうまもなく、2024年7月14日(日)から30日(火)まで、定休日の水曜をのぞき、連日14時25分からの固定スケジュールで上映いたします。チュプキは「総席数20」の非常に小さな劇場なので、ご来館の際はご予約ください。こちらからご予約いただけます。

なお今回は豪華アフタートークも企画がございまして、既に満席の日もあります。トークゲストは、高嶋政宏さん、根岸季衣さん、石川浩司さん、作編曲家の山下康介さん、ふ、震える…。さらにこれはわたしがブッキングさせていただいた夢の極み企画なのですが、宇多丸さんのトークもあります…! どうするわたし、死ぬのか。死なずとも、この先しっかり生きていけるのか。

長くなりまして、すみません。どうか、もし比較的お近くにお住まいで、かつご興味ございましたら、まずは映画そのもの、加えて千茱萸さんナレーションのイヤホン音声ガイドと、千茱萸さん監修の日本語字幕、情報の嵐ですけれども、ぜひ浴びに来ていただけたらと、切に願っております。何卒、よろしくお願いいたします。

以上、わたし的いま一番のビッグニュースでした。お騒がせしました。

大林千茱萸監督作品「100年ごはん」上映会へ行ってきたはなし。

2024年6月28日、雨。梅雨生まれの誕生日にふさわしい雲模様の中、溝の口のおしゃれなライブハウスで、とある映画の上映会に参加しました。その映画とは、大林千茱萸監督の『100年ごはん』

大林千茱萸(ちぐみ)さんは大林宣彦監督のご息女。2013年に一本だけ映画を撮っておられて、それがこの『100年ごはん』です。大分県臼杵市が推進する有機農業の取り組みを扱ったドキュメンタリーなのですが、自主上映メインの作品で、なかなか観ることが叶わず。この度ようやくタイミングが合いました。

この映画の上映会は「観て、食べて、話す」の三本立てが原則となっているようで、今日もまず映画の上映、そして臼杵の食材を使ったお弁当でしっかり食事をとる時間、身も心も満ち足りたところでトークセッション、という流れ。ちなみに今日の「お弁当」を作ってくれたのは、現在全国で公開中のドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』の主人公である「ふーみんママ」こと斉風瑞さん!

「このピーマンは、『100年ごはん』を観て臼杵へ移住した子が作ったピーマンで…」なんていうエピソードが全てについてくるようなこだわりの食材で丁寧に作られたお弁当は、素朴ながら染み入るおいしさでした。やさしい味わいのものが多い中で、一つだけ入ったエビチリが意外とパンチの効いた味付けだったりするのもよかった。

さて、順番が前後しましたが映画のはなし。お父上の作風は知り尽くしているけど、千茱萸さんはどういう映画を撮るんだろう。それもドキュメンタリーで、オーガニックな感じの題材で、そんなに作家性が出そうには思わないけれど……、なんて思っておりましたが、どっこい。始まった瞬間からめちゃめちゃ「大林映画」でした。

こちらに語りかけてくる「ワタシ」と「アナタ」。時をかけ、手紙を交わし、ピアノも弾いちゃう。ナレーションの調子も、劇伴も(クレジットに山下康介さんの名前を見て納得)、びっくりするほど大林映画。だけれども確かに大林宣彦監督には撮れないであろう作品になっていて、ものすごく不思議な感覚……。やはり大林一家は渾然一体としているんだなあ……。

映画本筋の感想としては、失礼ながらわたしあまりオーガニック的なるものに関心がなくて、そもそも「食」に対する興味もかなり低い人間だもので最初はどうしても斜に構えた見方をしてしまっていたのですが、最終的には揶揄でもなんでもなく「丁寧な生活」しないといけないなあと大真面目に思っていました。お皿買おうかなあとか、そんなこと考えてました。ちょうど「家が好きな人」を前の晩に読んでたし。

引っ越して一年近く経って、ようやく自炊欲もちょっとだけ復活してきたので、まずはコンロを買うところから、かなあ。今の家、コンロのスペースがぽっかり空いてるのだ。いや、別にそういう映画じゃないんですけどね。ただ、未来のわたしに恨まれるよなあ、この生活は。とは思いましたね。そんな映画でした。

映画の公式サイトは上映会情報が更新されていないので、千茱萸さんのInstagramなどを見ていただくのが上映会情報には近道かな?と思います。食や農業に興味がある方はもちろん、大林映画を愛する方にも見逃してほしくない一本です。

すっかり更新が途絶えてしまった今日この頃ですが、流石にこれはしっかり告知せんといかんぞよという件があるので近いうちまたお知らせいたします。今回の『100年ごはん』とも関係あり。しみじみです。