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飲酒日記

スキー&スノーボード2004-2005

禁煙日記(1日目後半〜3日目)

 はじめに、この物語はフイクシヨンであり實在の人物・團體とは無關係である。然るに、この物語に登場する男と當ブログサイトの管理人たる筆者を間違つても同一視することの無きやう、くれぐれもご注意願ひたい。

 さて、唐突に始まり順風滿帆のうちに續くかと思はれた男の禁烟生活であるが、開始したその日の夜には早くも頓挫の危機を迎へてゐた。飮酒である。

 筆者はこの男と違つて喫烟の惡癖とは常々無縁でありたいと思つて生きてきたのでさつぱり分からないのであるが、喫烟者にとつては、飮酒の場は「朝の起きぬけ」「食後」「長時間の會議の終了後」と竝んで、最も喫烟に對する慾求が高まる瞬間であるらしい。

 とりわけ、アルコオルの效果によつて血管が膨脹し血流が促進された状態で、血管を收縮する效果を持つニコチンを攝取することの相乘效果で得られる快樂は、相當のものであると云はれる。

「フラゝゝするうへに、クラゝゝするのが重なるのだから、大したものだらう」

 ほとんどロボトミイの治療によつて言語中樞に支障を來してしまつた○○のうはごとの如き男自身の説明によれば、このやうな状態になるさうである(筆者の言語感覺では想像もつかなかつたが、男は「喫烟者の間ではこれで通じる」と自信滿々に云ひ放つので二度吃驚である)。

 さて、やや話しは逸れたが、その夜勤め先の友人逹に食事に誘はれた男は、2000圓食ひ放題の鍋をつつき、芋燒酎「藏の師魂」に醉ひ癡れながらも、この誘惑に必死で抗ひ續けた。更に、食後にはこれに輪をかけて喫烟への衝動が襲ひかかつたが、男はここ一番で逃孤劣等(ニコレツト)を服用し、これも切り拔けた。

 しかし、それに慢心したのであらうか。酒氣拂ひにと例によつて徒歩で歸路に就いた男は、歸宅と同時に不斷の習慣で無意識に換氣扇を廻し、腰を落ち着けるや否や烟草に火を點けてしまつた。いくら失敗した際には四方山話のネタにするといふ云ひ譯のもとに始めた試みと云へども、いくらなんでも早すぎはしないか。筆者がそのやうに男に問ふたところ、男は何食はぬ顏で、

「俺は昨日まで一日40本近く喫つてゐたのだ。そんな人間に突然『一切喫つてはならん』と云ふのは、男子中學生に一切何をしてはならんと禁ずるやうなものだ。すなはち、いづれの場合も一日に一本くらゐは致し仕方ないと云ふことだ」

などと、きはめて下品な譬喩を持ち出してさう答へたので、筆者は今までにも増して喫烟者と云ふ人種が嫌ひになつた。

 勿論、ここはこの男の品性を云々する場ではないのでこれ以上の個人的な評價は差し控へさせて頂くが、禁烟を試みると云ふ行爲については少なくともこの男を評價したいと考へてゐただけに、大變殘念に思ふ。

 しかし、唯一の救ひは男がその翌日も矢張り同じやうに歸宅直後に一本火を點けただけで、そこからだらしなくもチエヒン=スモオキングに走るやうなことが無かつた事である。それ故、筆者としても辛うじて男の「徐々に慣らしてゐるのだから心配無用だ」といふ言葉を信じることができさうである。

 筆者としては、男が「禁烟などは簡單だ。私はすでに何度もやつてゐる」といふ、亞米利加の文豪マアク=トウヱイン(『トム=ソオヤアの冒險』の作者)の使ひ古された引用で、ひねくれた負け惜しみを口にする日が來ない事を祈るばかりである。

 2004年5月27日午前0時15分現在、男の禁烟(正確には減烟と云ふべきであらう)はいまだ繼續中であるが、このシリーズが續くかどうかはやはり定かではない。しつこいやうだが、筆者がこの文體で書き續けることに苦痛を感じてゐるからでは斷じてない。

 讀者諸兄に於いては、尚も生暖かい目で生やさしく見守つてゐただきたい所存である。


註:當エントリイの作成にあたつては、辭書フアイル「丸谷君第三版」を使用してゐる。一部漢字表記の違ひは辭書の違ひによるものである。
by tatsuki-s | 2004-05-27 00:26 | Talking(よもやまばなし)
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