(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

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渡邉美樹氏の謙虚さが生むブラック性

この手の渡邉美樹氏の発言に対する反応を見ていると、まだ彼のことをわかっていないんだなと。

肝心なところをわかっていない。

「人間が働くのは、お金を儲けるためではなく人間性を高めるためである」

「働くのは金儲けではなく人間性を高めるため」 渡邉美樹氏の「信念」にネットで皮肉相次ぐ : J-CASTニュース

渡邉美樹氏はうわべやとりつくろいではなく、本気でこう思っている。

渡邉氏の主張は以前からのもので、12年6月にも、「お金のために仕事をする。冗談じゃない。仕事は生きることそのもの」と講演会で語り、話題になっていた。

(2/2) 「働くのは金儲けではなく人間性を高めるため」 渡邉美樹氏の「信念」にネットで皮肉相次ぐ : J-CASTニュース

それは彼の主義主張に一貫性が見られることでも明らか。
では何故そう思っているかというと、それは彼の成功体験が根拠になっている。彼は労働を通して人間性が高まったと思っている。自分の過去が正しいと思っている。だから他の人にもそれは共通するものだと思っているし、他ならぬ自らの会社の従業員たちにも、そうして欲しいと思っている。
これは昨今指摘されているワタミのブラック性の話とも共通している。他の一般的なブラック企業と違うのは、ワタミの場合は渡邉美樹氏の労働体験が下地になっているため、ブラック性をブラックと認識していない。

青年社長(上) (角川文庫)

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青年社長(下) (角川文庫)

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渡邉美樹氏を主人公にした高杉良氏の「青年社長」にも書かれているけども、渡邉美樹氏は起業するにあたり、その資金を佐川急便で働いて貯めた。当時の佐川急便は仕事の厳しさで知られていたが、その反面、給与の良さでも知られていた。
激務の間のわずかな睡眠。その繰り返しの果てに得たお金での起業。
彼は過酷な労働の結果、夢をかなえた。成功をつかんだ。そしてこの過程で人間性も高まった。こう思っている。
佐川急便の日々は、ブラックな日々ではなく、夢をかなえるための日々。これが彼にとっての認識。ここに一般的な認識との齟齬がある。
そしてもう一点、決定的な問題がある。それは、渡邉美樹氏がそれなりに謙虚な人物であるということ。本来ポジティブな意味合いを持つ謙虚さが、実はワタミにおいてのブラック性を強めてしまっている。
どういうことか。渡邉美樹氏は自分のことを特別な人間だと思ってはいない。そういう謙虚さがあるので、自分ができたことは、他の人にもできると思っている。自分の能力でできたのだから、他の人にもできないわけがない。できないとしたら能力の問題ではなくて、やる気とか、意気込みとかの問題ではないか。
しかしながら彼の働き方を誰しもが真似できるかというと、それはなかなかに難しい。なかなかに難しいから、彼のよう成功した経営者は少ない。それが運のせいであれ、周りのおかげであれ、稀有な成功をしているという時点で、誰しもが真似できるわけじゃない。
けれども、渡邉美樹氏は「できる」と思っている。真似できる。やればできる。がんばれ! と。謙虚なだけに本気でそう思っている。しかしながら、この謙虚さができない人間にとっての絶望を深め、ブラック性を際立てていることに彼は気づいていない。
渡邉美樹氏のブラック性は、謙虚さをベースにした「やればできる」であり、自らの成功体験に基づくもの。お金儲けのためだとか、経営のためだとかというよこしまなブラック性ではない。
その証拠に他のブラック企業と違い、待遇面の訴訟などが少なく、そういう面で話題になっていないことに注意されたい。渡邉美樹氏が佐川急便でお金を稼ぎ、独立したという流れがあるために、実は待遇は悪くないし、独立にも寛容。店長以上へのインセンティブや、社内持ち株会への助成、あるいは福利厚生などは充実している。

「わたみん家」ブランドを中心にした独立制度なんかもある。
世に様々なブラック企業はあるけれど、「真性のブラック企業」と「よこしまなブラック企業」の違いがある。そして謙虚であったり人間性の良い経営者によって、本人の自覚がないままにブラック性を高めてしまう企業がある。ここに注意が必要。
渡邉美樹氏が乱暴で粗雑で横柄な人物であれば、そのブラック性がわかりやすいのだけれどね。