「総合編成チャンネル」4局に認可か

韓国各紙によれば、2010年12月31日に開かれた放送通信委員会の会合において、CATVの「総合(韓国では一般に「綜合」の字を当てる)編成チャンネル」4局とニュース専門チャンネル1局を認可するとの決定がなされた模様。
「綜編」こと総合編成チャンネルというのは、CATVながら既存地上波3大キー局並みの総合編成(ニュース、ドラマ、バラエティ、スポーツ中継、教養・ドキュメンタリーなど何でもあり)が可能な、文字通りの総合チャンネルを運営できる番組供給業者のことです。6社が応募し、朝鮮日報(局名はCSTV)、中央日報(jTBC)、東亜日報(チャンネルA)、毎日経済新聞(MBS=韓国毎日放送)の4新聞社系が選ばれ、韓国経済新聞と財閥の泰光グループ系の2社が脱落。「合格」の各社は新聞資本としての資金力や世論への影響力からすれば妥当といえますが、親会社の論調から言うとバランスを欠いているような気がしないでもないです。一昨年あたりはせいぜい2局までと言われていたのに蓋を開けたら4局、というのも多すぎ。あと繊維・化学メーカー「泰光産業」を筆頭とする泰光グループは韓国の主要財閥ではたぶん唯一の無借金経営、最高レベルの財務力とそれに付随する超高株価を誇る優良企業で、CATVのMSOとしての実績もありながら、昨秋、創業一族間での相続や贈与を巡る不祥事が続々と明るみに出たのが響いての脱落となったようです。
ニュース専門チャンネルにはソウル新聞やヘラルドメディアなど新聞・通信・ネットメディア6社が応募したものの、選ばれたのはなんと、通信社の聯合ニュース(旧聯合通信)系列の「聯合ニュースTV」。ピンと来た方もおられるかもしれませんが、聯合ニュースはかつて、韓国初の24時間ニュース専門CATVチャンネル「YTN(旧聯合テレビジョンニュース)」を立ち上げた会社です。現在YTNには韓国電力公社の子会社「韓電KDN」やKT&G(旧韓国たばこ人参公社)、韓国馬事会(日本のJRAに相当する組織)などの公企業・団体が大株主に名を連ね、聯合ニュースとは無関係となっていますが、「聯合」の名の入った2社が韓国のニュース専門CATVチャンネルを独占する形となります(現在ニュース専門局としてYTNと共に認可されている毎日経済新聞系の「MBN」は、同紙の総合編成参入決定により事業転換・廃止を余儀なくされるため)。しかも聯合ニュースがYTNを手放したのは、CATV立ち上げ当初の契約数の伸び悩みによる経営難が原因で、その点からも聯合ニュースのCATV「再参入」には批判の声が強いようです。
ちなみに「綜編」の一角に食い込んだ中央日報は、かつてサムスングループの直接の傘下にあり、TBC(東洋放送)というテレビ・ラジオ(AM/FM)局を1980年まで運営していました。新局の略称「jTBC」には「中央日報(Joong-Ang Daily News)のテレビ放送会社(TV Broadcasting Company)」という略語に加え、TBC(Tongyang Broadcasting Company)の復活という意味も込められているようです。で、日本でも報道されている通り、このjTBCにはテレビ朝日が130億ウォン(出資比率3.08%)出資するそうです。
個人的にはバランスを考えて左系や中道といわれるメディアにも1チャンネル持たせてやれば…と思ったのですが、左翼紙とされるハンギョレ新聞や京郷新聞の経営は思わしくなく、テレビメディアへの進出など夢のまた夢という状況、「中道紙」を公式に標榜し、かつては韓国初の民放テレビ(HLKZ-TVこと大韓放送)運営会社であった韓国日報も同様。同じく中道に分類されるソウル新聞は、ニュースチャンネルに応募したものの脱落。
で、韓国各紙の分析によればCATVの「綜編」が獲得できる視聴者数はせいぜい地上波の1/3程度で、広告市場では食い合いが発生*1する上に広告主はより影響力のある地上波を好むとなると、「綜編」4社の先行きには早くも暗雲が…というところのようです。*2
ただし、CATVでは現状の放送基準がそのまま適用されるのであれば、地上波では禁止の日本語楽曲や歌番組、ドラマ、バラエティ*3などの番組を無修正で放映できることになり、その辺がキラーコンテンツになる可能性がなくもないです。今もCATVの専門チャンネルでは多くの日本ドラマが放映され、日本語曲のPVなども普通に流れていますから。もちろん、「綜編」だから何もかも地上波と同じで…という条件を付けられる可能性も否めませんが。
で、中央日報のjTBCがテレビ朝日と資本提携にまで踏み込んだのは、日本へのコンテンツの売り込みや日本からの輸入というより、かつて「振り向けばテレビなんとか」とまで貶されたのに、ここ数年はバラエティや「相棒」に代表される中高年向けドラマ(若い視聴者の皆さん、すみません)でヒットを連発し、この年末年始の視聴率でも(大晦日以外)圧勝した同局から、人気番組を低コストで作るためのノウハウを学ぼうとしている意味がより大きいような気もします。日テレとSBS、フジとMBC(あとNHKとKBS、TBSとYTNも)という既存の提携関係もあって、組める相手としての空きがテレ朝とテレ東だけ、という事情もあったのでしょう。
【追記 1/6】 毎日経済新聞系の「韓国毎日放送」には、日本経済新聞社が1%出資しているとのこと。日経傘下のテレビ東京との提携もあるかもしれません。なお、朝鮮、東亜と聯合ニュース系の各局に、日本企業による大口の出資はない模様です。

*1:CM市場の争奪対策かつ「綜編」の育成策として、KBS第2テレビのCMを廃止し、代わりにKBS受信料の2倍以上の値上げを検討中とのこと。(1/6追記)

*2:広告主を増やすため、現在は禁止の医療機関(美容整形)、結婚仲介業等のCM解禁も検討されているそうです。(1/6追記)

*3:バラエティ番組は現時点ではCATVでも未開放のままでした。もっとも「綜編」開局に合わせ、コンテンツ確保のために日本製バラエティの開放を求める動きが事業者側から出ているようです。(1/6追記)