中途半端だと思っていた「札幌」には、シャイでハイな人たちがいた

著: かんそう

札幌に住んで10年目になる。

生まれは、北海道の東部にある釧路という港町。1年の3分の1以上が深い霧に包まれ、平日だろうが休日だろうが人なんてほとんど歩いておらず、たまに半端ない終末感に心がえぐられる街。

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そんな田舎出身の北海道民からしてみれば、10代後半で引越した「札幌」という街はとても輝いて見えた。大勢の人が昼夜問わず行き交い、大型ショッピングモールがあり、地下鉄があり、オフィス街があり、歓楽街がある。港でおじさんに釣り上げられ、放置されたヒトデを蹴飛ばして遊ぶしか能がなかった僕にとって、札幌はまさに「夢にまで見た街」だった。

しかし、あるとき東京で数カ月暮らすことになった。

よく田舎出身者が東京を表すたとえで「毎日が祭り」という言葉があるが、まさにその通り。外に出ると、毎日どこかでなにかしらのイベントが開催されていて「街に飽きる」ということがまるでない。

とりわけ都心部は、商業施設やビルの多さはもちろん、街を歩く人たちの圧倒的なキラキラ感と、あまりのきらびやかさに両目を焼かれそうだった。そして、なんといってもライブや演劇は、札幌の何倍もさかんで滞在中は足繁く通った。特に「ルミネtheよしもと」は、お笑いファンの僕にとって最高の環境だった。

わずかな期間ではあったが、大都会・東京に住んだことで、僕は札幌のことをいつしか「中途半端な街」と思うようになった。

ただ、今回10年という節目に改めて札幌での生活を振り返ってみると、札幌は都会と田舎の良いところを併せ持っているのではないか、と思い直すようになった。そして、キラキラ感こそ薄いかもしれないが、札幌には札幌市民ならではの愛らしさのようなものを持っている人があふれていることに気付いた。今回はそのことについて書いてみたいと思う。

都会らしさと、田舎らしさが一体化した街

理性と野生。

長年住んでみて、一番の特徴として僕が挙げたいのは、近代的なビル群と大自然がすぐ近くで共存しあっているところだ。

札幌駅から車で30分ほどの藻岩山からは札幌の街並みが一望できる

街を歩けば、道を一本変えるだけで景色はガラリと変化する。

たとえば、札幌の中心部に位置する「中央区」は、いわゆるオフィス街としてよく知られているが、大型商業施設が並ぶ「大通」や「ススキノ」という日本を代表する繁華街もあれば、豊かな自然に彩られた「藻岩山」もあり、通り一本隔てるだけで全く違った景色がそこには広がっている。

その気にさえなれば、日本有数の繁華街から大自然へとすぐに飛び込むことができる。自分が知っている街の中で、ここまで近くに大自然をたたえる都市はほかにない気がする。


地図を見れば、いかに札幌の中心部と自然が密接しているかが分かる

現在、僕は中央区右隣の「豊平区」に住んでいるのだが、ススキノや大通で遊んだ帰りは、地下鉄やタクシーを使わずに「中島公園」や「豊平川」あたりをふらふらと散歩しながら帰るのがゴールデンコースになっている。札幌の夏は、本州に比べて空気がカラッとしているところも気持ちいい。

中島公園。四季によってその色を変えるレインボーロード

特に「平岸」は、札幌の空気を感じられる「暮らすための街」だ。

2つの地下鉄が通り、スーパーやドラッグストアが数多く存在するだけでなく、「隠れスポットの宝庫」としても有名。

駅を出てすぐの所にある飲食店街「平岸ゴールデン街」は、立ち飲み屋やスナック、バーなどが立ち並ぶ地元民の憩いの場所になっている。『水曜どうでしょう』でおなじみの平岸高台公園も、駅から15分ほどでたどり着くことができる。

平岸ゴールデン街。蕎麦のうまい焼鳥屋やカウンターしかない立ち飲み屋、親近感がウリのガールズバーなど、バラエティ豊かなお店が軒を連ねる

なかでも僕のお気に入りは、平岸街道沿いにある『SOUP CURRY KING』。数あるスープカレー店のなかでもトップクラスのおいしさを誇る名店で、ダシが違う、ダシが。

イベントも豊富で、夏には「豊平川花火大会(道新・UHB花火大会)」という札幌市内でも大きめの花火大会が開かれる。「友達として花火を見て、恋人として帰る」なんてロマンチックな経験をしたカップルもたくさんいることだろう(僕は去年、「恋人」と花火を見て、「一人」で帰りました)。

繁華街やオフィス街といった都会的な部分と、迫力ある木々や山、川といった田舎的な部分。この両方を兼ね備えているのが、札幌の大きな特徴であり、魅力ではないだろうか。

シャイでハイな札幌市民

よくテレビ番組などでも取り上げられるが、どんな地域にも少なからぬ県民性のようなものは存在するのではないだろうか。10年ほど過ごしてみて、札幌市民には独特の特徴があることが分かってきた。

シャイ、圧倒的なシャイ

まず札幌に住む人間の特徴としてよく言われるのは「シャイ」である、ということ。

札幌は都会のイメージが強いかもしれないが、実際には僕を含め、北海道の田舎出身者が大半を占める。そのため人馴れしていないのか、初対面でいきなり「イエーーーイ!」と盛り上がれる人はかなり少ないように思う。

他県の人からは「おおらか」「優しい」なんて評価をいただくことも多いが、実際のところ単に「人見知りしているだけ」の人がほとんどじゃないだろうか。警戒心が強く、なかなか心を開かないのだ。

しかし、そのぶん一度心の氷塊を砕くことができれば、札幌市民の絆の強さはすさまじい。絶対に仲間を裏切らないし、どんな相談も自分のことのように親身になる。そうなったときの札幌市民は「無敵」と言っていいだろう。

僕の友人の一人も、第一印象は「見るからに犯罪者予備軍」「100回生まれ変わっても関わりたくない」という地獄のようなインプレッションだったが、一度ススキノのキャバクラに一緒に行ったとき、互いの恋愛経験値の低さから「『おぉ…』『あぁ…』『まぁ…』以外一言も嬢と会話をすることなく退店」という失態を犯して以来、親友、いや戦友と呼べるほどの仲になったやつがいる。

人見知りを治すために、2人で「ミニススキノ」と呼んでいる麻生にあるキャバクラ、スナックを手当たり次第に回ったこともあったし、立ち飲み屋でたまたま隣になった明らかに「闇の住人」としか思えない知らないオジサンと3人で朝まで呑み明かしたこともあった。

居酒屋、スナック、パブなどが立ち並ぶ麻生町の飲み屋街。この場末感あふれる雑多な感じがたまらない

今では男2人で温泉に行き、「尻のホクロの数」まで把握しているほど最高の関係を築くことができている。

この「仲良くなるまでのハードルは高いけど、一度心を許せば信じられないほど密な関係を築ける」という部分は、札幌市民に何か共通している気質のように思う。

札幌の観客は「あったかい」

僕は音楽が好きで、よくさまざまなアーティストのライブに行く。ときには本州に遠征することもあるのだが、明らかな違いとして、札幌でのライブは「歓声よりも拍手が多め」であることに気付いた。

中島公園駅近くにあるライブハウス・Zepp Sapporo。札幌で活動するすべてのバンドマンの夢の場所

最初は気のせいかなと思っていたが、アーティストのSNSをチェックし続けるうちに、東京や大阪の場合は「素晴らしい盛り上がり! ありがとう!」「最高に暴れまくった激アツなライブでした!」とライブの「盛り上がり」に対する書き込みが圧倒的なのに対し、札幌でのライブ後には

「今日は札幌でライブでした! 本当にあったかいお客さんばかり! ありがとう!」
「札幌は本当にお客さんがあったかくてやりやすい。ありがとう!」

など、のきなみ観客の「あったかさ」に言及していることに気付き、すごくおもしろいなと思った。「シャイ」とも通じる部分で、あまり表にこそ出さないが、想いを内に秘めているからこそ醸し出す雰囲気のようなものがあるのかもしれない。

石を投げれば老人に当たる

気質とは少し外れるが、札幌はとにかくお年寄りが多いことも大きな特徴と言える。実際、普段生活していてもびっくりするぐらいに老人が多く、スーパーや薬局は平日祝日問わず常に老人たちでごった返し、そりゃあもう多種多様な人々がいる。

スーパーでよく会う、俳優の鹿賀丈史似のばあさんは「俺はアンタの孫か!」というくらいのテンションで話しかけてきてよくチョコやアメをくれるし、近所のじいさんはボルゾイというバケモノみたいにデカい犬を飼っているのだが、散歩中に僕を見つけるやいなや「ちょっとトイレ行きたいから持ってて!」とリールを僕に持たせ、そのまま一回家に帰るなど、本当に「自由」で「元気」な人たちばかり。

先ほど「シャイ」であると書いたが、大自然や繁華街で揉まれるうちに、一周回って「ハイ」になるのかもしれない。

そして、そんなハイな高齢者に惹かれるのかは定かでないが、札幌は他の地域からの高齢者の転入が非常に多い*1そうだ。

確かに、病院や介護施設は豊富にあるし、スーパーやドラッグストアで展開される「シニア割引」率の多さなどを考えれば、札幌という街が高齢者にとっていかに楽園かということは容易に想像できる。

道央を中心に展開しているスーパーでは、毎月15日に65歳以上が5%割引になる「アクティブシニアデー」を行っている

正直、「左見るとじいさん、右見るとばあさん」なこの街にたまにウンザリしてしまうこともあるが、まだまだ人生を楽しむ気満々の彼らを見ていると、「こっちも負けてられねぇな」と背中を押されるような気持ちになる。

札幌は自由で平等な街

憧れの札幌に引越したのもつかの間、僕は東京という大都会を目にしてから、しばらく札幌のことをあまり好きになれないでいた。

しかし、今回改めて街のことを振り返ってみると、札幌という街には都会の良さと、田舎の良さが両方備わっていることに気付いた。そして、そんな街にはシャイであったかい若者がいるかと思えば、元気でファンキーなお年寄りもいる。

住む人々により、都会らしい暮らしも田舎らしい暮らしもできる、自由で平等な街。それが、札幌という街なのではないかと改めて思った。

 

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著者:かんそう (id:ikdhkr)

かんそう

北海道釧路市生まれ、札幌市在住。はてな登録読者数3,400人を超えるサッポロ・ニュー・ミクスチャー・ブログ『kansou』を運営。

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編集:はてな編集部