フレッシュ唐辛子の魅力に惚れ込んで、副業で唐辛子農家をする二重生活の苦労と魅力【いろんな街で捕まえて食べる】

著: 玉置 標本 

f:id:tamaokiyutaka:20200922035446j:plain

心から熱中できる対象を見つけたとき、それを本業にする道を選ぶか、あくまで趣味として手軽に楽しむか。一瞬でも迷ったことがある人は多いと思う。もちろんケースバイケースだし、明確な答えなどないのは当然だ。

これまでは本業にすることを選んだ人から話を聞く機会が多かったが、今回は本業か趣味かの二択ではない生き方の例として、大好きな唐辛子の栽培を「第二の人生」ならぬ「第二の仕事」とした人に、その体験談を伺った。

村山さんの運命を変えた、手違いで実ったハラペーニョ

世界の唐辛子栽培というちょっと変わった兼業農家をしているのは、平日は東京都内にてIT系エンジニアの仕事をフルタイムで勤務し、週末は作業着に着替えて群馬県の山奥で多種多様な唐辛子を育てている、村山晋作さん(47歳)だ。

村山さんの農園があるのは周辺には人が住まなくなった過疎地で、この地に移り住んできた母親と一緒に、約800坪の唐辛子畑を管理している。ご夫婦二人で住む都内の家から一人で車に乗って下道を三時間半かけて移動して、群馬に金曜夜から日曜夜まで滞在する二重生活。そのきっかけは、ちょっとした偶然の重なりだった。

f:id:tamaokiyutaka:20200922035655j:plain週末だけの作業で維持できるように、自作の灌水チューブを張り巡らせた唐辛子畑

村山晋作さん(以下、村山):「元々辛いものが好きで、ホームセンターで買った鷹の爪(唐辛子の品種名)の苗を家で育てていたんですが、激辛で有名なハバネロの栽培キットを見つけたんです。これはいいぞとプランターに種を撒いたら、一本だけ明らかに違う実がなった。調べたらハラペーニョだったんです。これが衝撃的だった。

ピクルスとかでは食べたことがあるけれど、当時はフレッシュのハラペーニョなんてまだ日本で手に入らない時代です。こんなにも味や食感が違うのかと驚いて、きっとこれからは唐辛子ブームが来るに違いないと、ちょうど群馬に一軒家を買って田舎暮らしを始めた母親に手伝ってもらって、唐辛子屋さんになることにしました」

f:id:tamaokiyutaka:20200922035548j:plainこの畑で育てている本数が一番多いハラペーニョ。パリっとした食感、ほどほどの辛さ、村山さん一押しの唐辛子だ

f:id:tamaokiyutaka:20200922035738j:plainお勧めの調理法は、ワタとタネをとってチーズを詰めて、ベーコンで巻いて焼く食べ方。肉厚でジューシー、唐辛子の概念が変わるうまさだ

――ハバネロ栽培キットに混ざったハラペーニョの種、そして母親の群馬への引越しという二つがちょうど重なったんですね。でも農家の経験は親子共にゼロですよね。いきなり唐辛子を育ててと言われたお母さんの反応はどうだったんですか?

村山:「そんなに反対はせずに協力してくれました。その当時もサトイモを育てたり畑作業はしていたので、延長ですよ、延長。平日に注文が入ると、収穫から出荷まで対応してもらいます」

――それはまた、随分と長い延長線ですね。

f:id:tamaokiyutaka:20200922035825j:plain平日は77歳のお母さんが一人で畑を世話している

f:id:tamaokiyutaka:20200922041112j:plain唐辛子には品種名とバーコードのついた札が置かれていて、これと一緒に収穫をすることで間違いを防止している

f:id:tamaokiyutaka:20200922041134j:plain札の裏には畑のアドレスが書かれているので戻すのも簡単。そしてパソコンにはどこに何が植えてあるのか管理するための地図がある

f:id:tamaokiyutaka:20200922122339j:plain札のバーコードを読み取ると、自動でラベルが印刷される。このシステムがあるからこそ、平日はお母さん一人で発送までできる。さすが本業がITエンジニアの村山さんだ

村山:「最初は猫の額ほどの畑でしたが、当初から販売を想定した唐辛子栽培。唐辛子屋さんになれば儲かるかなーと夢をみた訳ですね。それが2006年かな。ハバネロを中心に、でもそれだけだとおもしろくないなと20種類くらい植えました。

すると『あの家で唐辛子栽培を始めたらしいぞ』と周囲の方が好意的に見てくれて、この辺は高齢化で畑が余っていたから『この畑も使っていいよ』と貸してくれる人がでてきて広がった。おかげで現在は800坪に約200種類、4000本くらい育てています」

f:id:tamaokiyutaka:20200922035909j:plainハラペーニョに比べて一回り小さく、辛味も穏やかなセラーノ。タコスなどにかけるサルサによく使われるメキシコの品種

辛いだけじゃない、知られざるフレッシュ唐辛子の魅力

唐辛子だけで200種類、究極の少量多品種生産である。唐辛子の種類ってそんなにあるのかと驚いてしまう。フレッシュ唐辛子は生鮮野菜なのだがら、商売として考えたら売れ筋の品種に絞って栽培した方が効率は絶対に良さそうだが、どうも村山さんは栽培コレクターの気質が強いようだ。

村山:「販売はネットが中心で、品種ごとに売るのは人気の30種程度。あとはお任せで『世界の唐辛子セット』にしたり、東京でマルシェ(生産者が集まる直売会)があればそこで並べたり。ここまで種類が多いのは……趣味ですね。趣味であり、うちの売りでもあります。ここまで種類を育てている農家さんは他にないと思うので。

唐辛子の世界は企業や愛好家がどんどん掛け合わせて栽培品種を増やしているので、その数は誰にも分からない。新しい品種を見つけたらとりあえず育ててみて、それを試食するのが楽しみ。これまで1200種以上の種を植えましたが、海外の種は発芽率が悪くて収穫できたのは半分以下の500種くらいです」

f:id:tamaokiyutaka:20200922041018j:plain種をとる場合は虫の媒介で交雑しないようにガードして自家受粉させる。品種が混ざると、そのときにできる実は本来の味だが、次の代で味が変わってしまうそうだ

――家のプランターで個人的に栽培していた時代から、だいぶ延長しちゃいましたね。

村山:「そうですね、どうしちゃったんですかね。でも畑は広いし、もうなかなか減らせないです。個人の趣味だけでやっているなら減らしてもいいんですけど、今は買ってくれる人の趣味も背負っているので。

ここまでできるのは副業だからこそ。普通の農家さんだったら、こんなことできないですからね。副業といいながらも『趣味です』と割り切っているから。本職にしちゃうと楽しめない。やりようでなんとかなるかもしれないですけど」

f:id:tamaokiyutaka:20200922040242j:plain少量多品種の唐辛子を育てるエリアは、まるで花畑のようだ

これまでに何百種類もの唐辛子を育ててきた村山さんだが、そこまでハマった理由はその多様性だ。実際に畑を見せていただき、そして唐辛子を齧らせてもらうと、多品種過ぎて販売が大変になろうとも、種類をどんどん増やしたくなる気持ちがちょっと分かる。

さすがに名前と味を覚えることはできないけれど、その違いは素人の私でもはっきりと理解できた。辛さの強弱だけではなく、甘さ、青臭さ、香り、歯ごたえ、形、成長による変化など、本当に奥が深い世界なのである。

本やレコードを集めるのと違って、唐辛子は基本的には一年で枯れて消えていくものなので、その味の記憶と栽培の経験だけが残っていく。毎年畑の上で入れ替わるコレクションアイテム。これだけ育てられたら楽しいだろうな。いや大変なんだろうけどね。

ちなみにナス科トウガラシ属には、みんなが野菜として認識しているピーマンやシシトウも入ってくる。これらも唐辛子の栽培品種なのだ。よって辛くない品種は意外と多く、それらの生唐辛子は個性的な野菜となる。

f:id:tamaokiyutaka:20200922040320j:plain爽やかな香りと鮮やかな黄色が特徴のレモンドロップ

f:id:tamaokiyutaka:20200922040330j:plain「香りはいいですが、まだあまり辛さが乗っていないかな。でもジワジワきます」

f:id:tamaokiyutaka:20200922040357j:plainそんなに辛くないというから油断して食べたら猛烈な辛さ。ヒーヒーいっている私を見て「楽しそうですね、結構ガッツリいくなーってみてたんですけど。ハラペーニョとハバネロの中間くらいじゃないですか」と村山さん。実だけ食べるとフレッシュな甘さと果実感があるのだが、唐辛子は胎座(たいざ:ワタ部分)が辛いんだった

f:id:tamaokiyutaka:20200922035941j:plain日本で品種改良された福耳。大きいけれど辛味が強い。赤くなると辛さの元であるカプサイシンの含有量が増えるけれど、完熟することで甘さが勝つタイプ。収穫のタイミングで味が違うのも唐辛子のおもしろさだ

f:id:tamaokiyutaka:20200922040915j:plainこんなに小さな唐辛子もある。原種に近いアマシト・ワイルドは潰してスープなどに入れる。意外とジューシー

f:id:tamaokiyutaka:20200922040039j:plainメキシコのチラカはボリュームたっぷりで、齧ると辛味はほどほどでパリパリしている。 赤く熟したものを乾燥させて使うことが多い

f:id:tamaokiyutaka:20200922040103j:plain瑞々しい青りんご風の味がするジェイミー。ぜひ生で試してほしい品種だ

f:id:tamaokiyutaka:20200922040116j:plain舌を伸ばしたヘビみたいなエロティカ。いろんな形がありますね

村山:「フレッシュ唐辛子の魅力は、生だからこそ品種ごとに際立つそれぞれの個性。乾燥したりピクルスにすると、本来の味や香り、ジューシーさが分からない。ほとんどの種は海外から取り寄せていますが、最近は種子を輸入することが厳しくなってきて、検疫で止められてしまうことも多く、今年は注文した何万円分かが届かなかった。それでも、いろんな品種を育ててみたいなと思わせてくれるなにかがあります」

――唐辛子栽培の年間スケジュールはどんな感じですか。

村山:「2月の半ばから種を撒いて、温室で発芽させて苗をつくる。畑に定植するのがゴールデンウィーク前後。唐辛子は株の下から花が咲いて実がなり、それが上に伸びていくので収穫時期が長い。7月ごろから収穫が始まり、11月後半の霜が降りるまで続きます。肥料がたくさん必要なので、追肥は二週間に一度くらい。温かい国の作物というイメージがあると思いますが、適応力が強いので世界中の唐辛子を群馬で育てることができるんです。

収穫が終わったら畑のかたずけをして、土を耕して石灰を入れる作業を地面が凍りつく前にやる。だから12月も忙しい。1月も来ないのが毎週ではなく隔週になる程度です」

――平日は会社員、休日は農家だと、休みの日がほとんどないですね。

村山:「たまに長い連休のときとかは一日休むとかもあります。あまり家のことをほっぽっておくと、奥さんが大変なことになってしまうので。平日はちゃんと家のことをやっていますよ。最近は在宅勤務を活かして、風呂掃除とか晩御飯づくりとか洗濯とか。奥さんは同じ会社でずっと働いていて、この生活になにも文句は言ってきません。忙しい定植作業の時期は手伝ってくれることもあるし、マルシェでの販売を一緒にすることも多いので助かっています」

f:id:tamaokiyutaka:20200922040138j:plain見た目はピーマンそっくりのベンディゴ。苦みがまったくなく、辛味も弱いけれど風味はあくまで唐辛子

f:id:tamaokiyutaka:20200922040151j:plainもぎたてということもあり、驚くほどジューシーでうまい。ピーマンが嫌いでも食べられるかも

f:id:tamaokiyutaka:20200922041430j:plain新潟の神楽南蛮。南蛮味噌とかに使われる在来品種で辛い。見た目だけだと、辛いんだか辛くないんだか分からない品種が多いね

f:id:tamaokiyutaka:20200922040448j:plainビショップ・スクラウンは司祭の王冠という意味。赤いパプリカみたいに肉厚

f:id:tamaokiyutaka:20200922043219j:plain胎座は少し辛いものの、肉厚でサクとして甘くて果汁が滴るほどの瑞々しさ

f:id:tamaokiyutaka:20200922040505j:plain一回り小さなビショップス・ハット(司祭の帽子)というのもある

f:id:tamaokiyutaka:20200922040523j:plainブラジリアン・スターフィッシュ。ブラジルのヒトデはこんな形なのだろうか。これはちょっと辛い

f:id:tamaokiyutaka:20200922040615j:plainすごくパリッとして瑞々しいクリーム・ファンタジー。まるで果物みたいでびっくり

f:id:tamaokiyutaka:20200922040631j:plainただし胎座はけっこう辛いので油断は禁物。そのギャップに萌えよう

f:id:tamaokiyutaka:20200922040412j:plainショート・イエロー・タバスコ。タバスコは調味料の名前ではなく品種名。タバスコという品種を岩塩と一緒に三年くらい寝かしたものが、我々の知っているタバスコ

f:id:tamaokiyutaka:20200922041153j:plain猛烈に辛いハバネロ・ラージ・ブラウン。「これだったら、まだ好きと言える味と香り。でもあまり断面を素手で触らない方がいいですね」と村山さん

f:id:tamaokiyutaka:20200922041207j:plain
臭いだけ確認したが、甘いけれど痛い香りがする。なんだこれ。目の前で唐辛子を炙られているようなヤバい刺激だ

f:id:tamaokiyutaka:20200922041000j:plain見た目に騙されてはいけないピンク・ハバネロ。こんなかわいい見た目なのに、米粒一個分でピリピリしまくる

f:id:tamaokiyutaka:20200922041234j:plain最近の激辛系統は表面がシワシワしているそうだ。ビッグ・ブラック・ママ、これはやばい

f:id:tamaokiyutaka:20200922041253j:plain「皮は柔らかめで香りはケミカルな感じ。最初はそれほどでもないかなという辛さで熟した甘みがある。あとからジワジワきて……ヤバいですね。遅れてくるヤバさ。品種によって辛さがやってくるタイミングが違うんですよ。これの生食はおすすめしません」と的確にレビューしてくれた村山さん。試食はやめておこう

村山さんの唐辛子を通販で買う場合、送料等が別途掛かるものの、人気のハラペーニョやセラーノで100グラム250円と、スーパーで売っているピーマンとかとそんなに変わらない値段だったりする。15~20品種ほどを詰めた『世界の唐辛子セット』は1800円、品種のラベルがない『各種唐辛子詰め合わせ』なら1000円だ。その希少価値に対して安すぎないかと、他人事ながら不安になってしまう。

村山:「金儲けのためにイヤイヤだときつい。お金のためだったら、もっと効率が良い仕事を探すだろうし、珍しい唐辛子を扱っているので値段を上げてもいいかなって思ったりもするでしょう。定価がない、比較対象がないから、値段設定は難しいです」

――安いから買うというタイプの食材じゃないですもんね。欲しい人は多少高くても買うだろうし、その魅力を知らない人はいくら安くても買わない。

村山:「販売ルートは基本的にネット通販ですが、8年前から東京の恵比寿ガーデンプレイスや六本木アークヒルズのマルシェに出店するようになり、今は青山ファーマーズマーケットに出ています」

――恵比寿に六本木に青山ですか。群馬で育てた唐辛子を大都会で売っているんですね。商品がニッチだから、東京じゃないと売れないのかも。

村山:「地元の道の駅とかで売っていても難しいでしょうね。有名になればまた違うんでしょうけど。通販だけと対面販売があるのでは全然違います。実際に商品を見て買えるというのもあるし、こちらから料理方法を伝えたり、お客さんからレシピを教えてもらうこともある。これまでに食べた唐辛子をノートにまとめている方もいました」

――唐辛子好きの人にとっても、生産者と会話できる貴重なチャンス。

村山:「マルシェは売り上げだけじゃなく、いろんな人が来るから宣伝効果も大きいです。おかげさまでメキシコ料理の店とかからの注文も増えました」

f:id:tamaokiyutaka:20200922221817j:plainマルシェに出店して対面販売をする村山さん。2020年8月30日撮影

f:id:tamaokiyutaka:20200923151115j:plain今週末2020年9月27日(日)に開催される青山ファーマーズマーケットにも出店予定。詳しくはこちら。写真は昨年の様子(写真提供:村山晋作)

――収支バランスは赤字ではなくなりましたか?人件費を考えると赤そうですが。

村山:「いろんなものをどんどん買っちゃっていますが、まあなんとか。買い物が趣味なんです。トラクターとかかっこいいやつがあるんですよ」

副業だからこそ突然の大変さを楽しめる

――週末だけの兼業農家という二重生活の魅力はなんですか。話を聞けば聞くほど、やっぱり大変そうなんですけど。

 æ‘山:「安定と不安定の両立。やっぱり農業だけだと今年みたいに梅雨が長くて収穫が遅れると、不安になることもあるでしょう。ちゃんとした仕事をしていれば、それなりの収入が得られて安心して暮らせるじゃないですか。普段やっているパソコンを使った仕事とは全然違う、体を使う仕事なので運動不足解消にもなります」

――兼業とはいえ、農家ってなろうと思えば素人でもなれるんですね。私が趣味で同人誌をつくって、通販や即売会で頒布するのと、本質的には同じ話かもしれない気がしてきました。音楽でいったら村山さんはインディーズ(自主レーベル)の農家なのかも。

 æ‘山:「そうかもしれません。農協に収めるような野菜ではないから、育てた分だけお金になるのではなく、実った分だけ自分で売らないといけない。販路開拓が大変ですね。最初のころは全然売れませんでしたし、今でこそ、そこそこ注文が入るようになってきましたけど、売れなければ土に還っていくだけ。手間がすべて無駄になります」

f:id:tamaokiyutaka:20200922040756j:plainエクスプローシブ・エンバーという観賞用の品種。実の色は、紫、黄色、赤という順番に変わるのかな

f:id:tamaokiyutaka:20200922040710j:plain耳飾りという意味のイヤーボブ

f:id:tamaokiyutaka:20200922040726j:plain見た目もそうだがトマトっぽい味わい。青いトマトをカリっとさせたような感じ

f:id:tamaokiyutaka:20200922040946j:plainプリック・サン・ウォーはニンジンみたいな色をしたタイの唐辛子。そんなに辛くはなく、好ましい苦味がある大人の味だ

f:id:tamaokiyutaka:20200922041450j:plainカリっとして辛くない紫唐辛子。中は緑色で、加熱すると外側の紫も緑になってしまう

f:id:tamaokiyutaka:20200922041528j:plainインゲンマメみたいなひもとうがらし。辛さのない青唐辛子味で、ポリポリとかじると青臭さがうまい

f:id:tamaokiyutaka:20200922044956j:plainアヒ・アユーヨは白い花から紫の実がなり、最終的にアンズのような色になる

f:id:tamaokiyutaka:20200922041039j:plainペルー高地のロコト・リナ・ワジャガは、特徴的な葉っぱの裏に繊毛がある。肉厚で熟すると種が黒くなる珍しい品種

f:id:tamaokiyutaka:20200922041054j:plain唐辛子は花も個性的でかわいいよ

――週末だけの唐辛子屋さん、やっぱり大変ですね。

村山:「大変だと思ってやっていると大変。こんな生活をかれこれ十年以上やっているので、慣れてはいますよね。慣れって恐ろしい。でも人にオススメはしないですね。週末二日しか畑にいないとなると、その時に絶対やっておかないといけない作業があるから、夜中まで作業することもよくあります。超ブラック企業!」

――セルフブラック、唐辛子の品種にありそう。これまでにすごく辛い(からい)……じゃなくて、辛い(つらい)こととかありました?

村山:「仕方ないとしか思えない話ですが、数年前にすごい大雪が降って、そのときに持っていたビニールハウス三棟が全部潰れてしまって、あれはなかなか痛手でしたね。でもこんだけ雪が降ったんだから仕方ないかって。その時に群馬にいればハウスのビニールを外したり対応ができたかもしれないけれど、いなかったんだから仕方ない。そんなことを母親に頼んで、遭難でもされたら取り返しがつかないですから。本業ではなくサブの仕事だから、仕方がないですむ」

――ずっと群馬にいたら防げたかもしれないけれど、そうしていないのだから仕方がないと。副業だからと諦める部分も肝心なんですね。

村山:「その時はその時で楽しんでやっていますけどね。どうしても発送しないといけない荷物があったから、大雪で道がふさがっていても群馬にいかないといけない。そこで雪山装備を整えて、電車と徒歩で向かいました。あの時はなかなかすごかったですね。スノーシューとかアイゼンとかも買っちゃいましたよ。いやー、よい買い物でした」

――トラブルを楽しめないとやっていられないと。なんだか楽しそうでよかったです。

村山:「そうですね、楽しいことは楽しいですよ。たぶん普通に生活しているよりかはいろんなイベントが起こりますし。家のすぐ近くにクマが出るとか、イノシシに畑を荒らされるとか、ウサギに苗を食べられるとか。大変ですけど、今後もこの生活はずっと続けると思います」

f:id:tamaokiyutaka:20200922225757j:plain貴重なお話、ありがとうございました!

村山さんの話を聞いていると、なんだかここがバーチャルの世界みたいである。もちろん群馬での生活もリアルなのだが、それこそ『どうぶつの森』で遊んでいる人みたいだ。あるいはパラレルワールドを行き来する人。

村山さんにとって唐辛子農家の仕事は、趣味であり、副業であり、平日の会社員生活とは完全に切り離された別世界なのだろう。自分が好きなものに力を入れつつも、それに生活までは左右されないバランス感覚。いい意味で遊び半分だからこそ、好きなように取り組めるのだ。

好きなことを趣味にしておくか、本業にしてしまうか。その二択だけでない生き方の幅広さを村山さんから教えてもらった。やっぱり大変そうだから絶対に真似はできないけれど。

フレッシュ唐辛子ラーメンをつくってみよう

以下余談。せっかく色とりどりの唐辛子が食べられるチャンスなので、これらをたっぷりと使った料理を村山さんと一緒につくってみようと思う。

さて何をつくろうか。よし、フレッシュ唐辛子ラーメンだ。乾燥した唐辛子をたっぷりと使った激辛系ラーメンはたくさんあるけれど、生の唐辛子を贅沢に使ったラーメンは珍しいのでは。

私は激辛系がダメなので、あまり辛くなくて調理して美味しい品種を選んでもらって二人で仕上げた。以下、その顛末である。

f:id:tamaokiyutaka:20200922041405j:plainほどほどの辛さでお願いします!

f:id:tamaokiyutaka:20200922225926j:plain犬好き

f:id:tamaokiyutaka:20200922122148j:plain収穫してもらった色とりどりの唐辛子

f:id:tamaokiyutaka:20200922122409j:plainせっかくだから群馬県産の地粉を使い、製麺機で麺をつくりましょうか

f:id:tamaokiyutaka:20200922123205j:plain調理ガジェット系も好きな村山さんに製麺機は響いただろうか

f:id:tamaokiyutaka:20200922122431j:plain村山さんの提案で、スープの隠し味として完熟したハラペーニョを燻製にして乾かしたチレ・チポトレを使うことにした。ドライトマトのような香りがする

f:id:tamaokiyutaka:20200922122445j:plainすごく辛いんだろうなと戻し汁を舐めてみたら、意外なことに干しアンズや干し柿みたいな味。完熟した甘さがすごく出ている

f:id:tamaokiyutaka:20200922123023j:plain鶏ガラ、豚肩ロース、昆布、ネギ、チレ・チポトレをじっくりと煮込む。このスープでおでんとか鍋をやったらうまそうだ

f:id:tamaokiyutaka:20200922122620j:plainチレ・チポトレはトマトとよく合うそうなので、タレはお母さんが育てたミニトマトと醤油を煮詰めてつくった

f:id:tamaokiyutaka:20200922123045j:plainスープから豚肩ロースを取り出し、切ってタレに漬けておく。これがむちゃくちゃうまい

f:id:tamaokiyutaka:20200922122549j:plain辛さの調節用に、ベトナム原産の黄唐辛子とネギで香味油をつくる。こんなにかわいいけれど鷹の爪の二倍も辛いとか

f:id:tamaokiyutaka:20200922122604j:plain油から上がってくる煙が目に沁みるぜ

f:id:tamaokiyutaka:20200922123106j:plain村山さんに準備してもらった具。色や切り方は違うけれど、全部唐辛子なのである

f:id:tamaokiyutaka:20200922123120j:plain生でも食べられる唐辛子ばかりだけれど、ラーメンの具にするなら加熱した方がいいだろうと、湯通しをして辛味や雑味を抜いてから油で炒める

f:id:tamaokiyutaka:20200922123146j:plainこの種類と量、生産者だからこそできる贅沢だ。味付けは塩を少々

f:id:tamaokiyutaka:20200922231625j:plain麺を茹でている間に、丼へトマト醤油ダレ、黄唐辛子の香味油を入れて、チレ・チポトレが隠されたスープを注ぐ

f:id:tamaokiyutaka:20200922123411j:plainフレッシュ唐辛子ラーメンの完成。野菜が数種類入っているように見えて、実は唐辛子しか入っていない。斬新である

f:id:tamaokiyutaka:20200922123336j:plain「なるほど、いけます。普通においしい。もうちょっとスープのチポトレを多くしても良かったですね。味噌ラーメンにしてもいいかも。ハバネロ味噌っていうのがあるんですよ」と村山さん

f:id:tamaokiyutaka:20200922123352j:plain店では絶対に食べられない幻の味。唐辛子の種類次第で甘くも辛くも調整可能だ

これはすごく爽やかなラーメンだ。意外と甘さが前に来ていて、具の唐辛子を食べると辛さが追いかけてくる。そしてすするとムセる。多種多様な歯ごたえと香りがまた最高。

タレのトマト、スープのチポトレ、そして具の唐辛子が一本の線で繋がり、見事なハーモニーを奏でている。唐辛子ラーメンの新しい扉が開いたね。

でもこれはもっとおいしくなるのだろう。粉チーズをたっぷりかけたり、ライムをしぼったり、チリミートをトッピングしてもうまそうだ。

フレッシュ唐辛子の可能性をもっといろいろ試してみたい。ということで、帰宅後にもう一種類つくってみた。

f:id:tamaokiyutaka:20200922123443j:plainハラペーニョで香味油をつくり、水で締めた麺と絡めておく

f:id:tamaokiyutaka:20200922123457j:plainフレッシュ唐辛子たっぷりのサルサ、チリミート、レタス、粉チーズを載せる。タコライスならぬタコラーメンである。これもまたうまい

このように唐辛子は新しい食材として、調理の幅が広がってとても楽しい。

一番好きな野菜を聞かれたら、今なら「断然ハラペーニョ!」と答えるくらい、フレッシュ唐辛子が好きになった。

 


■通信販売:世界の唐辛子屋 Peppers.jp


■Twitter:PeppersJp


■Instagram:peppers_jp

 


【いろんな街で捕まえて食べる】 過去の記事 

著者:玉置 標本

玉置標本

趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺づくりが趣味。

Twitter:https://twitter.com/hyouhon

ブログ:http://www.hyouhon.com/